ドイツ人僧侶が住職引退 京都大留学で縁、修行者と山中で自給自足18年

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「新温泉町は第二のふるさと」と語るネルケ無方さん=安泰寺

 兵庫県新温泉町の山中にある安泰寺(同町久斗山)の住職を18年にわたって務めたドイツ人僧侶、ネルケ無方さん(52)が今夏、同寺の住職を引退した。2002年に住職になり、多様な国籍の修行者らと自給自足の生活を送りながら、年間1800時間の座禅に励み続けた日々。ネルケさんは「地元の方々から学ぶことも多かった。私にとって間違いなく第二のふるさと」と感謝する。(末吉佳希)

 ベルリン出身。7歳で母親と死別したことで「生と死」へ思いを巡らせるようになった。16歳の時に高校の恩師の勧めで入った校内の座禅サークルで、釈迦(しゃか)が説いた「生きることは苦しい」という言葉に感銘を受け、禅の世界に魅了された。

 ベルリン自由大で日本学を研究し、1990年に京都大へ留学。京都府南丹市の昌林寺住職に「本格的に修行ができる」と安泰寺を紹介され、同年秋から半年間、修行を積んだ。

 一時帰国した後、93年に25歳で再び同寺に戻って8年間修行し、大阪城公園でホームレスをしながら座禅をしていた。2002年に先代住職が急死したため、34歳で寺を継いだ。「人里離れた山奧の寺は、広大な自然と修行者だけの特別な世界。雑念を払って修行に集中できた」と振り返る。

 修行を重ねるうちに「生きる意味を求めるのが間違い。求めれば求めるほど迷いが深くなる。全てを手放してこそ悟りが得られる」と心境が変化したという。

 食材や水など生活に必要な物は自分たちで用意し、田畑で野菜を育てた。農業の知識はなかったが、麓の集落の住民が丁寧に教えてくれた。季節ごとに豊富な野菜を育てられるようになり、食へのありがたみは一層強まった。

 夏祭りに砂浜で寝転びながら見た大輪の花火。山を染める紅葉。庭に広がる雪原-。鮮やかな四季に心を動かされた。

 子どもの進学などのため大阪へ移住。当面は大阪城公園周辺で座禅会を開くなど、引き続き禅の道を追い求めるという。

 「場所は変わっても禅への思いは変わらない。初心を思い出し、新たな一歩を踏み出したい。一呼吸、一呼吸、大切な今を感じながら生きていく」。青い瞳の僧侶は静かにほほ笑んだ。