新型コロナ検査、ボトルネック越える3つの光明

インフルエンザと同時流行への備えは確かか

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星良孝

ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師

星良孝

ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師

東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経 BP において「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017 年に会社設立。獣医師。

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 菅内閣が9月16日に発足し、最重要課題と位置づける新型コロナウイルス感染症への対策で、検査体制の拡充はとりわけ注目されるところだ。田村憲久厚生労働相もさっそく、インフルエンザなど複数の感染症が同時流行する恐れもある冬季に向けて検査体制の整備に言及している。菅首相の指示もありPCR検査費用の減額にも動くという。

 新型コロナウイルス検査をめぐっては、感染者が国内で報告され始めた1月から問題になってきたが、状況は改善しつつある。医療機関や保健所などでの検査が公費で賄われるようになった3月6日以降、6月末頃まで、1日5千件程度での推移だった。ときおり1万件程度まで伸びる日もあるが継続して検査を増やす状況には至らなかった。現在も検査体制の拡充が訴えられているものの、8月以降にはPCR検査の実施人数は1日当たり2万件強にまで増えた。パンデミック対応の混乱した状況下で検査拡充は難航しつつも体制は強化されてきた。こうした前向きな動きもできている中で、今回は、三つほどに分けて新型コロナウイルス検査の展望について考察していく。(ステラ・メディックス代表取締役、編集者、獣医師=星良孝)

仮設医療施設で新型コロナウイルスの検査を受ける子ども=米国(ゲッティ=共同)

 ▽「検査使い分け」がニューノーマル

 まず一つは、新型コロナ検査の新しいやり方として、いわば「ニューノーマル」が見えてきているという点だ。

 8月27日、日本の検査医学を束ねる日本臨床検査医学会が、国内の新型コロナウイルス検査について「検査の使い分け」第1版として情報を整理し、現時点での検査方法や検体の選択、検査のタイミングの基本的な考え方を示した。28日には国内105の医療機関の検査部門を対象としたアンケートから検査体制の実状を報告している。これまで検査というと、混乱している状況ばかりが耳に入ってきたような印象もあったが、整理した形で検査の方針が示されたのは大きな前進と考えられる。

 日本臨床検査医学会の「検査の使い分け」では流れ図が示されている。PCRを含めた複数の検査を組み合わせるもので、まずはこの図を見てもらうのが早いだろう。大きく有症状者と無症状者に分けて、その上で、検査のための検体として鼻咽頭ぬぐいと唾液に分けている。それぞれの検体を用いてどういう検査を行っていくのかを示す。検査の位置づけが理解しやすいように整理している。

日本臨床検査医学会「使い分けの考え方」第1版より

 検査においてはこれまで検査体制拡充のターゲットになってきたPCR検査は引き続き重要な役割を果たす。鼻咽頭ぬぐいまたは唾液を使って検査を行うプロセスにおいて、最終的に感染を判断する要の検査が「核酸検査」となる。日本臨床検査医学会はPCR検査を含めた核酸検査をすべての検査の中でも中心的な「標準的な検査」と説明する。核酸検査には簡易に行える「LAMP法」と呼ばれる検査も含む。

 核酸検査の課題は、検査結果判明まで時間がかかることだ。器材などの条件もあり、「検査の使い分け」においては核酸検査を補うように検査の組み合わせが提案されている。

 ▽抗原検査で新型コロナ陽性は判定できる

 ポイントは、図のように、それぞれのケースにおいて2ステップの対応を選択肢として提案していることだ。最初から核酸検査をする選択肢も取れるが、いつでもできるとは限らないので、第一関門の検査として、「抗原検査」も選択肢にしている。

 抗原検査はウイルスの持っているタンパク質を検出する方法となる。遺伝物質RNAを調べる核酸検査よりも検出の感度は落ちるが、検査は簡便で、迅速に行える。抗原検査は、陰性と出た場合でも実際には感染しているケースが比較的多いのが問題になるが、陽性と出た場合には感染している可能性は高く、おおむね判定できるのが重要になる。これで核酸検査を行わなくて済む。陰性ならば、結果の正確性が低いことから核酸検査で再度確認する。核酸検査の対象を絞り込むことができるのがメリットになる。この9月に、漫才師ミルクボーイの内海崇さんが新型コロナウイルスに感染したことを報告していたが、抗原検査を行い核酸検査は受けていないと説明していた。ここまでの検査の使い分けを踏まえていると考えてよいだろう。

 抗原検査は、厚生労働省も使用を推奨し始めている。ウイルス抗原の有無を見る簡易キットによる「定性検査」と、ウイルス抗原の有無ばかりではなく量も測れる、化学発光酵素免疫測定法による「定量検査」があり、定量検査の方が結果は確かであるため、日本臨床検査医学会は定量検査をより信頼性の高いものと位置づけている。

 流れ図では、無症状者の鼻咽頭ぬぐいを用いた場合には核酸検査を推奨する一方で、無症状者の唾液は代替手段と示している。検査の優先度が分かるように「推奨」「代替」などという風に補足を記述している。

 一方、医療機関でも行われている抗体検査は「特性に一定の見解を述べられる状況にない」と現在では“補欠”扱い。診断や診療方針のために広く使われている状況になく、今後のより詳細な情報の把握が必要と説明する。

 検査で何を検体として使うかにも方針を示している。鼻の穴に綿棒を入れて採取する鼻咽頭ぬぐいは採取が難しい場合があり、唾液の活用も重視している。有症状、無症状いずれの場合でも、鼻咽頭ぬぐい液を用いることができる。鼻咽頭拭い液は感染している場合にはウイルス量が確保しやすいので理想的だ。その上で、唾液も、核酸検査や抗原定量検査の検体になる。唾液は、症状が出てから10日目以降はウイルス量が少なくなるので抗原検査では使えない。

 こうした検査の流れを明示したのは大きい。全国の医療機関の手本になり、これから検査体制の整備は進みやすくなるだろう。検査体制を拡充するヒト・モノ・カネの配置を考える上でも判断基準にされるのは間違いない。

 今後、こうした検査の方針に沿って、いつ検査を活用するかの場面やタイミングを決めていくことになりそうだ。

 想定される検査の場面は、症状がある人の検査、濃厚接触者への検査、医療機関への救急受診時、入院時、手術などの処理時、退院時、渡航時や職務遂行上の陰性確認などが考えられる。こうした状況で検査をどう取り入れるのかルール作りは求められるだろう。日本臨床検査医学会も検査場面やタイミングについては現状を紹介しているにとどめている。

田村憲久厚労相

 ▽検査費用は下がる?

 もう一つ、光明となりそうなのは、菅内閣の発足で検査費用が下がる方向が出てきたことだ。

 検査費用は、公費を使う場合と自費の場合とに分けられる。公費を使う検査は、3月6日以降、医療機関や保健所などで行われるPCR検査については「行政検査」と位置づけられている。この場合には保険適用された上で、自己負担分も公費で賄われる形になっている。このため検査を受ける本人の負担は要らない。

 行政検査の対象となる基準は、37・5度以上の発熱があるなどの条件がある。挙げられている条件には「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う」という項目があるので、実質的には幅広いケースが行政検査の対象になり得る。無症状であっても対象となることもある。

 行政検査の検査に設定された診療報酬は、施設外に検体を出して調べる場合は1万9500円、施設内で調べる場合は1万5千円。検査体制の拡充に投資が必要であることも踏まえ、他の病原体の核酸検査よりも高い金額が設定されている。比較対照として例えば、B型肝炎ウイルスの核酸検査の診療報酬を見ると、PCRを使った検査の場合に4500円と設定されている。新型コロナウイルスの核酸検査は特殊な事情を織り込んで利益を確保しやすいため医療機関も手がけやすくなっている。

 その上で、田村厚労相は、自費検査が高額ではないかとの指摘から、実態を調査し減額を求める姿勢を示した。

 今後、海外渡航や職務遂行上に必要とされる自費検査は、行政検査の費用も視野に入れ、下がっていく可能性がある。自費検査の費用が現状では2万~5万円の範囲だ。検査費用は市場原理が働いて決まっているもので、費用の設定は医療機関に委ねられるが、行政検査の診療報酬が他の検査よりも診療報酬の水準が高いため、検査代の設定次第では高すぎると批判はでやすい状況にあったと見られる。

 医療機関にとっては、一定の利益を加えた価格設定にした方が手がけやすいが、利用者にとっては例えば4万円を超える検査費用となれば負担が重く感じるかもしれない。今後、国の主導で自費検査の費用が下がる場合、医療機関にとってはマイナスにはなるが、検査を受ける側にとって検査費用低下は、検査の受けづらさが言われる中での光明にはなる。

 さらに9月24日、ソフトバンクグループがPCR検査を2千円で受ける事業を開始すると発表した。今後、自費検査の価格決定に影響するとみられる。

「新型コロナウイルス検査センター」の検査施設開業セレモニーで話すソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=24日午後、千葉県市川市の国立国際医療研究センター国府台病院

 ▽踏ん張る医療機関の臨床検査部

 検査の減額をするにしても、過度に医療機関の足を引っ張ることにならないか注意すべきだ。これまで医療機関の臨床検査部は着実に検査体制を自主的に拡充してきており、そうした取り組みをより底上げする形の支援をしていくのは重要だ。

 28日に日本臨床検査医学会が全国105の医療機関の検査部門を対象にしたアンケートでは、着実に検査体制が充実していることが見て取れた。

 核酸検査は外注との併用を含め91施設が対応可能と回答しており、1日の対応可能件数は30件までが39施設であるほか、30~50件が17施設、50~100件が21施設、100件以上が13施設と、検査件数は着実に充実に向かっている。核酸検査は、検査判明まで時間がかかるとされたが、1時間以内に検査結果を出している医療機関が1施設あるほか、5時間以内に検査結果を出している医療機関もアンケート回答医療機関の中でも70施設に上っていた。もっとも回答した医療機関には、第1種、第2種感染症指定医療機関が26施設あり、規模の大きな医療機関の状況を反映していると見られるが、検査の対応能力は年初の混乱する状況とは違ってきていると考えられる。

 課題は、アンケートの自由回答で、人員不足や器材や検査薬剤の不足を指摘する声も目立つこと。利用者の検査負担を軽減しつつ、検査を拡充する施設の不都合も解く対策は進めるべきだろう。今後、インフルエンザやRSウイルスなども含めた感染症の同時流行が想定される状況に当たってポイントになるのだろう。

唾液を使い、新型コロナとインフルエンザのウイルスを同時に検査する流れのイメージ図(渋谷工業提供)

 ▽新型検査が1時間での検査も可能に

 検査の光明になる最後の一つは、技術の進歩だ。新型コロナウイルスばかりではなく、インフルエンザウイルスやRSウイルスといった複数の感染症が冬季には流行する。これらを同時に検査できる技術が利用可能になっている。海外の臨床検査大手企業であるラボコーポでは、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルスを同時に検査できるサービスを既に開始している。日本でもロシュダイアグノスティクスが、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスを同時に検査する装置を開発していると報じられている。金沢市の澁谷工業も新型コロナウイルスとインフルエンザを同時に検査できるPCR検査装置を開発すると発表した。検査体制の拡充にこうした新しい技術が寄与する面は大きい。

 さらに、全く新しい技術が可能となるメドもある。「クリスパーキャス検査」と呼ばれる1時間以内で新型コロナウイルス感染症を診断できる検査の開発が急ピッチで進んでいるからだ。クリスパーキャスとは、ゲノム編集と呼ばれる、遺伝子を書き換えたりする新しい技術となる。特定の遺伝子配列をキャッチできる特徴がある。これを応用して、新型コロナウイルスの遺伝子配列を特定して、ウイルスの有無を診断するというものだ。

 日本でも東京大学医科学研究所のグループが開発をしており、既に、ベンチャー企業であるC4Uと連携した新型検査の開発が始まっている。今後、革新的な技術が登場する可能性がある。

 検査は必要な人に対して適切に行うことが重要だ。「検査の無駄打ち」「感染者の見逃し」など弊害を避けるための工夫も考えていく必要がある。自費検査をめぐっては、業務執行上、必要な新型コロナウイルス感染症の検査として行われている例があるが、本当に陰性証明書などの証明が必要であるのか、国内で参考にできる目安が示されると便利だろう。医療機関が、単に収入のためだけに、無用とわかっていて検査を連発していないか、検査対象についても現在よりもコンセンサスが明確になると役立つと考える。こうした点は細かすぎると見えるかもしれない。だが、現実社会では、風邪で休むときに診断書を求める会社があって問題になったり、診療報酬詐欺を働く医療機関が摘発されたりする嘘のような事例も本当にある。トラブルを減らす対策を考える視点の例として挙げておきたい。

 課題を見極めながら、前向きに対策を打つことで、検査をめぐる混乱を越えて、インフルエンザなどの同時流行する冬季を乗り切ることも可能になるはずだ。

■参考文献

同時流行に備え検査整備と厚労相 https://this.kiji.is/678992189589587041?c=39546741839462401

PCR検査費用の減額検討へ https://www.47news.jp/news/5269966.html

2020年度全国検査部長 技師長会議 COVID-19の検査におけるアンケート調査結果について 新型コロナウイルス検査の使い分けの考え方 使い分けの考え方「図」https://www.jslm.org/

LabCorp Launches First Combined Test for Covid-19, Flu and RSV in Time for Flu Season https://ir.labcorp.com/news-releases/news-release-details/labcorp-launches-first-combined-test-covid-19-flu-and-rsv-time

国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3を用いたCOVID-19迅速診断法の開発-最短40分で試験紙による正確な診断が可能に-(medRxivにて発表)(東京大学医科学研究所) https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00009.html

風邪で休んだら上司に「陰性証明書」を求められた 新型コロナで相談、県が注意喚起https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/541348

役員が女医に不正指南か 患者集め、病名使い分け 診療報酬詐欺 https://www.chibanippo.co.jp/news/national/309823