相続税対策でアパート経営をするメリット・デメリットは?計算方法や手続きの流れを解説

アパートなどの不動産を使った賃貸経営は、定期的な収入が得られるだけでなく、相続税削減などの効果が見込めます。もちろん、賃貸経営ですからいくつかのデメリットもあるものの、将来的に相続が発生する可能性があるのであれば事前に検討しておくのがおすすめです。そこで今回は、相続税対策としてのアパート経営におけるメリット・デメリットや、相続税、遺産分割、相続の流れなど、気になるポイントを紹介します。

相続税対策でアパート経営をするメリット

賃貸経営している不動産は、相続税対策にさまざまなメリットをもたらします。マンション経営をしていると相続税額の軽減につながり、相続後に家賃収入も見込めます。

現金に比べて評価額が低い

遺産を不動産で相続した場合、現金に比べて評価額が低くなる傾向にあります。不動産の評価額は、土地や建物の売買価格となる時価と同じではありません。アパートを生前贈与した場合、固定資産税評価額が建物の評価額に該当します。固定資産税評価額とは、不動産取引や建物の資産評価で客観的な目安となる路線価のひとつです。

アパートを取得したときの評価額は、時価のおよそ50~60%です。現金の場合には相続した金額がそのまま課税対象になりますが、アパートであれば評価額にもとづき課税額が計算されます。そのため遺産は、アパートで贈与されたほうが現金より低評価になるケースが一般的です。

賃貸物件は評価額が低い

アパートは、遺産として贈与されると資産価値が評価される際に貸家として扱われます。通常の不動産であれば、課税額は固定資産税評価額をふまえて算出されます。貸家になると、税金は固定資産税評価額から借家権割合が差し引かれた金額に課されます。借家権割合とは建物に占める借家権の割合を意味し、相続税の計算で使われるときには一律で30%です。

アパートは、築年数が古くなるほど評価額が下がる傾向もあります。固定資産税評価額は、時間の経過とともに減少するためです。借家権割合や個性資産税評価額の特徴を考慮した場合、同じアパートの贈与であれば新築より古い賃貸物件のほうが評価額は低くなると期待できます。

小規模住宅用地の減額の特例が適用される

アパートは、親族で相続するなどの条件を満たすと小規模住宅用地の特例が適用されます。小規模住宅用地の特例とは、不動産を相続したとき相続税の評価額が減額される制度です。適用対象は土地に限られますが、適用条件を満たした敷地なら限度面積の80%または50%が相続税の評価額から減額されます。

この特例は、もともと商売している土地が相続税の重い負担により事業継承できなくなる事態を防ぐために制定されました。特例が受けられる土地は、用途に応じて減額割合や限度面積が異なります。アパートも相続税の減額幅は大きいため、適用条件は細かいものの、節税対策として高い効果をもたらします。

債務控除が適用される

アパートが相続される場合、債務控除が適用される場合もあります。債務控除とは、相続税の金額を計算するときに遺産からマイナスの財産を差し引く仕組みです。遺産相続では、現金や不動産だけでなく借金や未払い金も相続する必要があります。マイナスの財産は多少なりとも負担になるため、相続税を減らせるだけでも負担軽減に役立ちます。

アパートを相続する際の控除対象は、金融機関からの借入金、個人間の借金、未払いの水道光熱費や各種の税金です。債務控除の適用対象が多いほど、節税の効果は大きくなります。ただ借入金や未払い金の返済・支払い義務は消失しないため、適切に対処することが望まれます。

相続税対策でアパート経営をするデメリット

アパートの維持管理には費用がかかるうえ、経営し続けることで損失が大きくなる可能性や、処分しづらい場合もあります。相続税対策でアパート経営をする際は、以下のデメリットに留意しましょう。

管理に手間とコストがかかる

アパートの管理には多くの手間とコストがかかるため、相続すると大きな負担になる可能性があります。アパートは経年劣化するものであり、快適な居住環境を維持するには日常的なメンテナンスが不可欠です。きちんと物件を管理するとなれば建物全体の清掃が必要であり、各種設備の点検作業も怠れません。すべての管理業務を担当すると、負担は重くなります。

建物の劣化が進んだ場合、放置すると問題は広がるばかりです。少しでもトラブルの拡大を防ぐには、多少の費用をかけても早めに修繕する必要があります。とはいえ修繕費が増えると家賃収入があっても利益は減るため、アパート経営は必ずしもプラスに作用するとはいえません。

損失が大きくなる可能性も

アパート経営では主に家賃収入が利益をもたらしますが、いつでも入居者を確保できるとは限りません。賃貸物件での空室は、損失につながる大きなリスクです。リスクを減らすには、少しでも空室率を抑える必要があります。

なかなか入居者が見つからない場合にはさまざまな原因が考えられ、必要なら家賃の見直しも求められます。ただ家賃を下げても入居者が見つかる保証はなく、無闇に安くすると損失が拡大することも。家賃を変更するとしても、慎重に検討しなければなりません。

処分がしづらい

アパートは現金を相続するより評価額が低いため、手放したいと思っても処分しづらい場合があります。すでに入居者がいる場合にも、処分は難しくなります。賃貸物件の多くは、契約が満了しても入居者が継続利用の意志を示すと自動更新されるシステムです。原則として、入居者がすべて退去するまでは賃貸目的を除いて転用や売却ができません。

アパートの全部屋が空くのを待っていると売却のタイミングを逃すことがあります。相続時に物件を手放す予定があるなら、計画性をもって行動したほうがいいと考えられます。

相続税とは?

相続税とは、被相続人から遺産を受け取った際に課される税金です。課税されるかどうかは、遺産総額や基礎控除額によって決まります。

基礎控除の計算方法

相続税には、基礎控除額が設定されています。以下の方法を用いて控除額を計算したら、相続税が発生するか確認します。基礎控除の金額は、所定の計算方法で算出します。控除額の計算で使う式は、以下の通りです。

基礎控除=3000万円+600万円×法定相続人の人数

法定相続人とは民法で定められた相続人を意味し、相続する順番にしたがい第一順位から第三順位に分かれています。上記の計算式で基礎控除額が判明したら、遺産全体からマイナスの財産を除いた正味の遺産額と比較します。正味の遺産額が基礎控除額を超えなければ、相続税は不要です。遺産が相続税の課税対象になった場合には、いくら課税されるか計算します。

相続税の計算方法

遺産に相続税が課されるときには最初に相続税の総額を算出し、続いて各々の法定相続人が取得する割合に応じて分割します。そこから各種の控除額を差し引いた金額が、各相続人の最終的な納税額です。相続税の総額は、各相続人の相続税額を合計すると分かります。相続税額の計算式は以下の通りです。

課税遺産総額×法定相続分×税率-控除額

相続税総額を算出したら、それぞれの取得割合にもとづき比例配分して実際の相続税額を求めます。取得割合は、各相続人の遺産課税価格を課税遺産総額で割ることで計算します。

相続税の総額×(各相続人が取得する遺産の課税価格÷課税遺産総額)

遺産の分割方法

遺産分割の基本となる方法は、現物分割、代償分割、換価分割の3種類です。同じ遺産でも、分割方法によっては相続税評価額が変わる場合もあります。できるだけ公平に配分するには、税率や控除額を考慮しながら複数の分割方法を組み合わせて相続税額のバランスを調整する必要があります。

現物分割

現物分割は、遺産を現物のまま相続人に分ける方法です。遺産分割のなかでは、この方法がよく選ばれるといわれています。賃貸物件として運用しているアパートは、現物分割の対象となります。土地や建物から家賃収入の預貯金まで、その種類に関係なく姿を変えず各相続人に引き継がれます。

この方法が抱える問題点は、均等に分けることの難しさです。現金は相続人の人数で等しく分割できますが、土地は不規則な形状であれば均等配分は困難です。建物も実物を割るわけにはいきません。現物分割は公平性を保つのが難しいため、他の方法で補完するケースが多く見られます。

代償分割

代償分割は、基本的に現物分割によって生じた相続内容の不公平さを補う方法です。土地や建物は、均等配分が難しいものです。アパートであれば土地と建物を分けて相続すると、賃貸経営を円滑に進めにくくなると考えられます。そのためアパートは、特定の相続人がひとまとめで相続するのが賢明といえます。

たとえば、長男がアパート全体を相続した場合、残りの相続人には代わりとなる財産を配分しないと公平性を保てません。そこで活用される方法が、代償分割です。この方法では、長男が代償となる現金や財産を残りの相続人に分配します。

換価分割

換価分割は、遺産を売却してお金に換えてから現金で相続人に分ける方法です。この方法は、土地を現物のまま分割したときに価値が下がるケースなどで選ばれます。アパートは、管理にかかるコストや経営に伴うリスクを考えると、現金で相続したほうが利益は大きいかもしれません。その場合には、換価分割するとアパート経営で生じる負担を避けられます。

換価分割では遺産を現金化して分けるため、土地や建物より各相続人に均等配分しやすい利点もあります。アパートは公平な相続が難しいため、現物分割や代償分割だとトラブルを招くかもしれません。問題防止の意味でも、アパートに限らず均等配分しにくい遺産は換価分割したほうが無難と考えられます。

アパートの相続手続きの流れ

アパートの相続手続きの流れを見ると、大まかに相続財産の把握、遺産分割協議、登記申請の順番です。アパート相続をする際は、簡単に手順を把握しておきましょう。

相続財産の把握

相続財産には、預貯金や不動産といったプラスの財産から、借金などのマイナスの財産まですべて含まれます。被相続人がアパート経営していた場合、物件がひとつでも遺産の中身は多岐にわたる可能性があります。相続するときには、全財産の詳細な把握が不可欠です。

土地と建物は、すぐに把握できると考えられます。家賃収入は、金融機関の口座を確認する必要があります。敷金は入居者に返還する可能性があるため、家賃収入に含まれていれば忘れずにチェックしなければいけません。ローンが残っていれば、返済額の確認も不可欠です。

遺産分割協議

遺産分割協議は、遺産の分割方法についての話し合いです。相続人が複数人のとき、全員が話し合いに参加します。相続人がひとりのときや遺言書で遺産の分割方法が定まっている場合、遺産分割協議は不要です。この協議では、それぞれの遺産を現物分割、代償分割、換価分割のいずれの方法によって相続人に配分するか検討します。必要書類の準備には約1カ月かかる場合もあるといわれるため、早めに手配しておくと安心です。

協議してから遺言書が出てくると、改めて話し合いになるケースもあります。遺言書の有無は、しっかり事前確認しなければいけません。話し合いは紛糾する可能性があるため、弁護士に相談することもスムーズな話し合いにつながる選択肢です。

登記申請

登記申請は、アパートの名義を変更する手続きです。遺産分割協議や遺言書で該当する物件の相続人が決まったら、登記所で名義変更を申請します。申請手続きは自分でも進められますが、司法書士に代行を依頼しても問題ありません。

登記申請の手続きには、登録免許税と呼ばれる手数料がかかります。手数料の金額は、一律ではありません。支払う料金は、「アパートの固定資産税評価額×0.4%」の計算式から算出します。手続きを司法書士に代行してもらうときには、およそ10万円が費用相場といわれています。

贈与税とは?

贈与税とは、遺産が生前贈与あるいは死因贈与された際に発生する税金です。生前贈与は被相続人が生きているうちから有効になり、死因贈与は当人が亡くなると効力を生じます。一般的に贈与というと生前贈与を意味し、税金の種類は暦年課税と相続時精算課税のふたつです。

贈与税の計算方法

贈与税の計算式は以下の通りです。

贈与税額=課税対象額×税率-控除額

贈与税額を算出するには最初に贈与される財産の総額を把握し、課税対象額ごとの税率ならびに控除額も確認する必要があります。アパートが贈与されるときには、その時点での評価額を求めておきます。贈与税の場合、基礎控除額は110万円です。1月1日~12月31日に贈与される財産が総額110万円以下なら、課税されません。それを超えたら、課税対象額に応じた税率と控除額を使って贈与税額を算出します。

贈与税の特例

非課税の特例が適用されるのは、贈与された財産を資金にして住宅を取得したときです。この条件を満たすと、贈与額が限度額まで非課税になります。非課税限度額は契約締結日によって異なり、省エネ、耐震、バリアフリーの住宅では最大3000万円です。その他は、限度額が最大2500万円に下がります。

この特例は、基礎控除額を併用しても差し支えありません。贈与税額を算出する際には、基礎控除額に加えて非課税限度額も差し引いて計算できます。

生前贈与の課税ケース

遺産の贈与のうち生前贈与には、贈与税として暦年課税と相続税精算課税がかかります。それぞれの特徴を調べておき、どの程度の金額になるか確認するのが大切です。

暦年課税

暦年課税は、年間に贈与された財産の総額が基礎控除額を超えたときに課される税金です。課税額を算出する際の税率と控除額は段階的に高くなり、そのうち税率は超過累進税率と呼ばれています。一般的な贈与財産の場合、基礎控除後の課税額が200万円以下なら税率は10%で控除額はありません。課税額が3000万円を超えると税率は55%になり、控除額は400万円です。

贈与される人物が1月1日現在で20歳以上の場合、親や祖父母から財産を受け取ると特例を適用できます。特例贈与財産では贈与税額が特例税率で計算され、基礎控除後の課税額が300万円を超えると一般贈与財産より控除額が5万~200万円以上まで減額されます。

相続税精算課税

相続税精算課税は、生前贈与された財産のうち2500万円までは贈与時に非課税となる制度です。この制度は、20歳以上の人物が60歳以上の親や祖父母から財産を受け取る場合に利用できます。贈与額が2500万円を超えると、超過分には一律で20%の贈与税が課されます。さらに贈与者が亡くなると、相続税は生前贈与された財産と相続時に受け取った遺産を合わせて計算されます。

あくまで相続税精算課税は、贈与された財産は2500万円まで贈与税が免除される仕組みです。すでに贈与税を納めた超過分は相続税から差し引かれますが、非課税になった財産には相続税が課されます。

アパート贈与を行う場合の注意点

贈与するまでにローンの返済を終えていなければ、贈与財産にはローン残債が含まれる

アパート贈与には負担が伴う場合もあるため、必要があれば現金も贈与するなど相続人への配慮は欠かせません。ローン残債や相続人の人数などを考慮しておきましょう。

ローン残債がある場合は負担付き贈与となる

アパート贈与では、ローン残債があると負担付きの贈与になっていまします。アパートを経営する際には、最初にローンを組んで物件を購入するケースが見られます。資金繰りが厳しいと、家賃収入に期待することは珍しくありません。ただ入居者がなかなか見つからなければ、毎月のローン返済は難しくなります。

あるいは順調にローンを返せても、贈与するまでに返済を終えられるとは限りません。いずれにしても、贈与時にローン返済が完了していないと贈与財産にはローン残債が含まれます。贈与後もローン残債の返済義務は消失しないため、贈与のタイミングには注意が必要です。

現金贈与も合わせて必要

アパートを贈与すると、さまざまな経費も発生します。必要なら、現金も贈与したほうがいいと考えられます。アパート贈与で発生する主な経費を挙げると、登録免許税や不動産取得税です。

登録免許税は、さきに示した通り物件の所有者が変わる名義変更のため必要になります。贈与の場合、登記費用は相続するときと異なり固定資産税評価額の2%です。不動産取得税は、相続であれば課税されませんが贈与すると固定資産税評価額の3%がかかります。アパートを贈与するといろいろ費用が必要になるため、場合によっては現金も用意しておくほうがいいと考えられます。

相続人に配慮する

子が複数人いる場合などは、生前贈与を受けられない子が出る場合があります。不公平になってしまい、それが原因で相続トラブルが起こる可能性もあるでしょう。こうした事態を見越して、親は子に対する配慮をしなくてはなりません。たとえば、生前贈与が請けられなかった子に対して、別の財産を贈与したり、相続時に多めの財産が引き継がれるように遺言をしたりすることで、不公平感をなくしましょう。

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