ル・マン24時間:見せ場を作るもリタイアの山下健太「トップ5に入れるペースはあった」

 TGR WECチャレンジドライバーの山下健太が、9月16〜20日にかけて行なわれたWEC世界耐久選手権2019/20シーズン第7戦、ル・マン24時間レースに、LMP2クラスのハイクラス・レーシングから参戦。自身初めての参戦となる伝統の24時間レースで山下は予選トップ4に入り、決勝でも首位争いを演じるなど、エースドライバーとしての走りを披露した。

 2020年で第88回を迎えたル・マン24時間レース。本来6月の開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により9月へと延期に。また、これまではレースウイークの車検から決勝レースまで1週間をかけて行なわれるスケジュールだったが、2020年はこれが大幅に短縮され、木曜日に3回のフリー走行と予選、金曜日にフリー走行と予選上位グリッドを決定するハイパーポール、そして土曜日から日曜日にかけてウォームアップ+決勝レースという過密日程で開催された。

 木曜朝10時に始まったフリー走行1回目は、まずチームメイトのアンデルス・フィヨルドバッハがコースイン。その後、山下、マーク・パターソンがそれぞれコース習熟のため6周ずつ走り、山下は初のサルト・サーキットの感触を確かめた。

 その後クルマのセッティングを変更して再び山下が走行。セッション終了間際にはクラストップタイムをマークして、チームを驚かせた。

「初めての走行でトップタイムを出せたのはとても驚きでした。前回のレースと比べてクルマはすごく良くなっていると感じています」

 1時間のブレイクを挟み、午後2時からフリー走行2回目がスタート。このセッションは山下、フィヨルドバッハ、パターソンの順で走行し、レースに向けたクルマづくりをした後、最後に再び山下が乗り込んで予選に向けた車両バランスを確認した。

 続く予選では山下がまず1セット目の新品タイヤでタイムアタックを行ない、3分27秒611の好タイムをマーク。その時点でクラス4番手に付ける。

 その後フィヨルドバッハが同じタイヤでアタックしたあと、山下は2セット目の新品タイヤで再度アタックに出るが、トラフィックにひっかかりアタックを中止してピットイン。しかし山下の1回目のタイムがクラス6番手となり、翌日のハイパーポール進出が決まった。

 午後8時からナイトセッションのフリー走行3回目。ここではドライバー全員がそれぞれ最低5周を走行する必要がある。パターソン、フィヨルドバッハ、山下の順でこの義務を消化したあと、ロングランを行なってタイヤの摩耗具合を確認し、長い1日を終えた。

 続く金曜日は朝10時から1時間のフリー走行、そして11時30分から各クラス上位6台ずつによるハイパーポールが行なわれた。

 フリー走行では山下、パターソン、フィヨルドバッハの順でレースに向けたセッティングの最終確認を行ない、インターバルの間にクルマを予選用に戻して、山下がハイパーポールを担当。1回目のアタックで3分25秒896、2回目のアタックで3分25秒426をマークし、強豪チームに割って入るクラス4番手を獲得する大健闘を見せた。

「ハイパーポールでは予選からふたつ順位をあげてフィニッシュすることができました。明日からのレースは24時間なので色々なことがあると思いますが、とにかくミスをせず安定して走ることが大切なので、そこをターゲットに最後まで頑張りたいと思います」

■スタートで抜かれた理由はエンジンの水温

 金曜夜から土曜朝にかけてサルト・サーキットには雨が降り、朝10時30分から15分間のウオームアップ走行はウェット路面で始まった。このセッションはレーススタートを担当する山下がひとりで担当し、ウエットタイヤを履いてクルマの最終確認を行なった。

 路面はセッションの最後には乾き始めており「最後はドライタイヤでもいけたと思います。クルマ自体はウエットタイヤでも悪くないと思います」 と山下。

 午後2時30分、ついに決勝レースがスタートする。

クラス4番手からスタートを担当した山下健太

 スタートドライバーを務めた山下は3スティントをタイヤ無交換で走る戦略。スタートでふたつポジションを落としたものの序盤はタイヤを温存しながら走行。7周目にはGT勢のトラフィックをうまく使ってオーバーテイクし4番手にポジションアップする。

 そして8周目に1回目のピットイン。ここでピット作業を給油だけに短縮したことで2番手に浮上。続く第2スティントでは今度はGT勢を使ってポジションを守るなど、攻守に長けた走りを披露していく。

 続く第3スティントでも山下は三つ巴のトップ争いを演じることに。27周目のインディアナポリスからアルナージュコーナーで2番手のクルマに仕掛けるシーンもあった。 山下の奮闘ぶりは海外のメディアからも注目され、国際映像でも山下の走行シーンが何度も中継された。

 28周目にピットインし、バターソンに交代する。

「スタートではエンジンの水温が上がりすぎてエンジンがセーフモードに入ってしまい、リミッターがかなり低い回転数で効いたせいで2台に抜かれてしまいました。あれがなければもうちょっと早くにトップを捉えられていたかもしれません。とにかく24時間レースなので無理をしないことを心がけて走りました」

 この日はパターソンも好調でブロンズドライバー勢では上位のタイムで周回を続ける。しかしパターソンの走行中からシフトチェンジに問題が発生し、フィヨルドバッハが運転を引き継いだ直後にその症状が深刻化。6速から変速できなくなってしまう。

 なんとかコースを1周して戻ってきたクルマを、午後7時17分、チームはガレージに入れて修復作業を始めた。ギヤボックス、油圧システム、電子制御システムなどすべてを新品に交換しただけでなく、ガレージには車体、ギヤボックス、電子制御を製造する各メーカーのエンジニアも集まりトラブル解決にあった。

 山下、パターソン、フィヨルドバッハの3名は、チームからのリクエストで何度か症状を確認するためコースに出るが、問題は解決できていなかった。そして午前2時4分、このままでは各ドライバーの最低搭乗時間を満たすことができないと判断し、チームはリタイアを決断した。

 午前3時過ぎにホテルに帰った山下は、翌朝サーキットに戻りチームメイトたちとチェッカーを見届けた。

「チームはなんとかトラブルを修復しようとしてくれていたので、リタイアは残念でした。レース結果をみると、もしあのまま走ることができていたらトップ5に入れていたのではと思います。こちらのクルマにそれだけのペースはあったと感じています」

「個人的には走行時間が短くなってしまったとはいえ、初めてのル・マンでトップ争いができたことはとてもよかったと思います。チャンスをくれた皆様に本当に感謝しています」

「もし次回があるのなら、最後までしっかりと戦いたいです。引き続き応援よろしくお願いいたします」

グリッドでのスタート前セレモニーに臨む山下健太

WEC第7戦 ル・マン24時間レース 山下健太 個人成績(LMP2クラス)

・予選
Best Time:木曜日予選 3’27.611(チーム内1位、LMP2クラス予選出走27人中6位)
ハイパーポール:3’25.426(LMP2クラス予選出走6人中 4位)

・決勝
Fastest Time:3’31.018(チーム内1位、LMP2クラス決勝出走72人中27位)
走行周回数:35周(全88周中)

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