「プレバト!!」水野雅之×「チコちゃん」小松純也P対談「河合郁人さんのバラエティー力は想像以上」【前編】

「スマートフォンの画面がバキバキに割れているのに、半年も放置して平気なの!?」「キッチンに便器がある家、平気なの!?」など、日常生活の中で「それって平気なの?」とツッコみたくなる素朴な疑問を調査する、9月27日放送のバラエティー特番「平気なの!?って聞くTV」(MBS/TBS)。

今回、演出・プロデューサーを務める毎日放送の水野雅之さんは、俳句や水彩画の才能査定ランキングが人気の「プレバト!!」や、林修先生を迎えた「林先生の初耳学」を立ち上げ、同局が制作する全国放送のバラエティーを牽引する存在。本番組は、そんな水野さんが、フジテレビで「ダウンタウンのごっつええ感じ」や「笑う犬の生活」、「森田一義アワー 笑っていいとも!」などを手掛け、現在「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などのプロデューサーを務める小松純也さんに声を掛けて生まれたという経緯があるとのこと。

水野さんと小松さんにはある共通点が一つ。2019年、一般社団法人 放送人の会による「放送人グランプリ」で小松さんが手掛ける「チコちゃんに叱られる!」が企画賞を受賞。すると、翌年には水野さんが手掛ける「プレバト!!」が同賞を受賞されました。小松さんのことを「テレビ業界のレジェンド」と評する水野さんが、なぜ一緒に番組を作ることになったのか? お二人がキャスティングで重視していることは? そもそも、どんなふうに番組って作っているの? そんな番組の裏話から普段の番組作りにおけるこだわりまで、たくさんお話をお聞きしました。

「笑っていいとも!」での光景を思い出す、面白い予感がする企画に「ぜひ参加させてください」

――思わず「平気なの?」と聞きたくなるような、スマートフォンがバキバキに割れているのに長らく放置している人、連続で大食いの仕事をこなす大食いタレントなど、その当事者を複数人調べてみると、ある共通点や新事実が浮かび上がってくるという「平気なの!?って聞くTV」が間もなく放送です。この企画はどのようにして生まれたのでしょうか?

水野 「僕はいつも番組を作る時、ここ2週間で身の回りで起きていることから『番組になりそうだな』と感じたことを思い返すんですけど、今回のきっかけは、僕のスマホが割れたことなんです(笑)。初めて割れて、替えに行く時間ないなと思いながらも、なんとなくこのままだとだらしない人間になって仕事に悪影響が出てしまう気がしたんです。速攻でドコモショップに行ったら、ふと『バキバキなのに放置してる人ってたくさんいるよな』って引っかかって。『バキバキの人はどんな人たちなんだろう?』と思ったことがきっかけです」

小松 「水野さんから声を掛けてもらった時、面白い企画だなと思いました。スマホがバキバキでも平気な人って世の中にたくさんいるけど、そういう見過ごされているところに手を突っ込んで番組にしようとする人がいるんだなって。誰しも、ないがしろにしてることっていっぱいあるじゃないですか。そこに実は同じ共通点があるんじゃないか、ってひもといていくのが面白そうだなと思いました」

水野 「スマホがバキバキの人からどんな企画に持っていこうと考えている時、『新型コロナウイルスの影響で夫婦がずっと一緒にいてストレスがたまる』という記事を見て。そこから定食屋さんとか美容師とか、夫婦で一緒に働いている人を思い浮かべて『四六時中一緒にいる夫婦は平気なの?』と聞いてみたくなったんです。『平気なの?』って聞き続けるだけで番組になるなと思って、小松さんに企画をお話したところ『面白いね』と乗ってもらえて、力を貸していただけることになったんですよね」

小松 「昔、『笑っていいとも!』で“幸薄い顔コンテスト”という企画をしたんです。見た目が幸薄そうな人に集まってもらって、一番幸が薄そうな人に賞金をあげるという。すると、その人たちはみんなカバンに折り畳み傘が入っていたんです。いい天気なのに(笑)。僕の感覚では、いい天気の日に傘を持ち歩く考えはないなぁ、と。その時、人間の一つの特徴を突いていくとそれがほかのものにつながって、人間の面白さが立体的に浮かび上がってくるのが面白いなと思ったんです。今回、そういう予感がする企画だなと思って、『ぜひ参加させてください』とお返事しました」

今のゴールデンタイムの視聴者と向き合って、ちゃんと戦えることの強さ

――ご一緒されてみて、いかがでしたか?

小松 「今をときめくゴールデンの番組を作っている方の強さを感じました」

水野 「いやいや! どっちがだっていう(笑)」

小松 「今のゴールデンタイムのテレビには個人的に距離を感じていて(笑)。今のゴールデンタイムの視聴者と向き合って、ちゃんと戦えている人ってすごいなって思います。水野さんと話していて、それをブイブイ感じました。『こういうこと考えるんだ、なるほど』『だからまだ戦えるんだな』と。僕はすぐ諦めちゃうんです。でも水野さんは粘って、『こういうことが視聴者の満足につながるんじゃないか』というところをすごく考えていらっしゃる。真面目だし、本当に逃げない。強いなって思いました」

水野 「逃げないっておっしゃっていますけど、演出を担当していると、すべてのネタを成立させなきゃいけないから、ちょっとだけ無意識に妥協してしまうことがあるんです。でも、ちゃんとストップをかけてくださるのが小松さん。例えば、今の世の中、若者向けにテレビを作ろうとする流れがある中で、どうしてもキャスティングやネタ選びで表面的な“若者向けっぽいもの”を選びがちなんです。僕が番組のコンセプトを取るか、即効性のありそうな若者っぽさを選ぶかで軸がぐらついた時、『そうじゃなくて、番組の根幹はここだから』って冷静な判断をしてもらえたのはありがたかったです。『平気なの?』って思うことに意外な答えが返ってくるところが、この番組の面白さなんだから、そこはブレてはいけない。小松さんは、一本の筋の立て方が時代に流されていない方だと思いました」

小松 「それが時代遅れの原因になることも…(苦笑)。お客さんに対して行き届いたものを置いていくという考え方もあれば、一つの語り口で一つのことをやって一発勝負するというやり方もあって。僕は逆に一発勝負のやり方しかできないんですよ」

水野 「でも、大切なことですよね。僕らが“若者向けっぽいもの”に合わせていくと、表面的になってしまうことが多いんです。失敗してる番組ってだいたいそう。根っこがしっかり面白くて、最後の味付けの部分で若い人向けか、年配の人にも幅広く見てもらえるかを考えるのはいいんですが、『若いタレントが出ていればいい』とか『若い人が興味のありそうなネタをやればいい』というように、ほんのちょっとでも上っ面なところを見透かされると、それが失敗の原因になると思います。だから一歩もブレない小松さんのやり方はすごく勉強になりました」

――今回、若い視聴者を意識するがゆえに、ブレてしまいそうになった部分はあったのでしょうか?

水野 「小松さんとは、『この人がロケに出ると若い層の数字が取れると言われているタレントさんっていますけど、そのキャスティングありきで考えてはダメですよね』という会話をずっとしていました(笑)。例えば今回だと、一般の方から言葉を引き出す腕がある方じゃないと成立しないロケばかりだったので、ずんの飯尾和樹さん、かまいたちさん、パンサーの向井慧さんといった方々にお願いしました」

河合郁人さんのバラエティー力の高さは想像以上!

――スタジオには、MCに後藤輝基さんと佐藤栞里さん、ゲストとして若村麻由美さん、岩尾望さん、河合郁人さんが登場します。収録の手応えはいかがですか?

水野 「想像を超えた手応えでした。特に河合くんのバラエティー適正は想像以上に高かったです」

――河合さんは「プレバト!!」に何度か出演されていますよね。

水野 「『プレバト!!』ですごく頑張る方だというのは分かっていたので、今回オファーしました。特番って新しいキャスティングも大事なんでしょうけど、企画にキャスティングの意味が乗っからないと番組ってオリジナルにならない気がするんです。つまり、人柄が分かっている人たちに出演してもらった方がオリジナルになりやすい。河合くんもそうだし、『プレバト!!』ではKis-My-Ft2の皆さん、『初耳学』では中島健人くん。人柄が分かってくると、いじり方や追い込み方に番組オリジナルな演出が加わっていくんです(笑)」

――MCに後藤さんと佐藤さんを迎えたのはどのような理由ですか?

水野 「実は、最初に決めたのが佐藤栞里さんでした。ほかの番組を見ていても、佐藤さんって今一番楽しそうに番組に参加している方ですよね。『どうしても楽しいバラエティーを作りたいので、佐藤さん出ていただけませんか』とお願いしました。そこから佐藤さんの隣の、企画にぴったりな方を考えた時、後藤さんが思い浮かんで。後藤さんには、僕がまだ半人前の総合演出だった時に『イチハチ』という番組でお世話になっていて、収録後に食事に行ってずっと仕事の話をしていたんです。それこそ、ここの編集がどうだったとか(笑)。収録の中で河合くんも言ってましたけど、後藤さんって飲みの席で仕事の話をするのが本当に好きなんですよ。しばらく(『プレバト!!』の)裏番組に出演されていたのでなかなかご一緒できなかったんですけど、今回久しぶりに企画書を持っていった時にすごく喜んでくださって。後藤さんと河合くんが似ているというのももちろん意識していましたが、そこは最後の味付けですね」

小松 「今回は企画が新しいので、とってもオリジナリティーがあると思います。だからこそ何をやっているかがちゃんと伝わる必要があって、的確に伝えてくれるスキルのある方に出ていただくのがすごく大事。キャスティングに関しては的確なジャッジだと思います」

後編では、お二人がここ数年で「やられた!」と感じた番組や、番組タイトルの付け方など、さらに深掘りしたインタビューを。小松さんが手掛けた「笑う犬の生活」や「トリビアの泉」(ともにフジテレビ系)のタイトルにまつわる当時のエピソードも!

【プロフィール】

水野雅之(みずの まさゆき)
2000年、毎日放送入社。「プレバト!!」の総合演出。「林先生の初耳学」「教えてもらう前と後」の企画、演出、プロデューサーとして、ゴールデン・プライム帯における現在の毎日放送制作の全番組を手掛ける。

小松純也(こまつ じゅんや)
1990年、フジテレビジョン入社。「ダウンタウンのごっつええ感じ」「笑う犬の生活」「SMAP×SMAP」などを制作。15年から共同テレビジョンに出向し、現在はプロデューサーとして「人生最高レストラン」(TBS系)、「チコちゃんに叱られる!」(NHK総合)などを担当。19年3月末にフジテレビジョンを退社し、フリーのプロデューサーとして活躍中。

【番組情報】

「平気なの!?って聞くTV」
TBS系
9月27日 午後2:00~3:24

「プレバト!!」
TBS系
木曜 午後7:00~8:00

「チコちゃんに叱られる!」
NHK総合
金曜 午後7:57~8:42

取材・文/宮下毬菜

© 株式会社東京ニュース通信社