公務員がアパート経営できる条件とは?不動産投資を行うときの注意点

昔から「国家国民のために奉仕するのが職務」といわれてきた公務員。営利団体である民間企業とは一線を画す存在で、兼業禁止は法律上明記されています。では、公務員のアパート経営は違法になるのでしょうか?

実際は、条件付きで公務員のアパート所有は認められます。今回は、公務員がアパート経営できる条件や注意点、メリット・デメリットについて説明します。「相続の関係で物件を所有することになった」「転勤で新居に住めなくなった」といった悩みを持つ公務員の方は、アパート経営に関する知識を確認しましょう。

公務員でもアパート経営はできる

地方公務員・国家公務員の方でも、アパート・マンション経営は可能です。確かに公務員は法律で副業が禁止されています。しかし、公務員の不動産経営に関して、人事院規則に次のような定めがあります。

【人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用について】
・投資物件は4棟9室以下の規模であれば兼業にあたらない
・賃貸収入は年額500万円未満とする
・自身による管理業務の禁止

これは公務員の不動産経営に関する大まかなルールを取り決めたものです。ひと口に公務員といっても地方・国家の違いがあり、職種もさまざま。ルールも自治体が独自に定めたものがあります。いずれにしても、条件付きであれば公務員がアパート経営に乗り出すのは難しくありません。

公務員のアパート経営について、たとえば以下のようなケースも考えられます。
・親から受け継いだ不動産を賃貸用に貸し出す
・転勤で空き家になった自宅を誰かに貸し与える
・親のアパート経営を手伝う

アパートなどの不動産経営といっても、さまざまなパターンがあります。公務員の場合は、上記3つの条件の範囲内であれば副業に該当せず、アパート経営が可能です。

公務員が副業禁止の理由

公務員には、営利団体である私企業との適切な距離が求められます。営利企業に在籍し副業することで、秩序や公平性が乱れるおそれがあるためです。

また、立場によって特権的な力を持ちうる公務員は、特定企業の利益誘導を図ることも難しくありません。典型例が入札談合です。そういった公務員の立場を利用して知恵を働かせる悪徳企業の存在もあります。県の職員や国の役人などが一般企業に近づきすぎると職務遂行のうえでさまざまな支障を来すおそれがあるため、兼業禁止や副業禁止の規定が法律で定められています。

国家公務員の規定

国家に関わる職務に従事する国家公務員の職務規定は、国家公務員法ならびに人事院規則などで定められています。副業に関する法律は、以下の国家公務員法第103条(私企業からの隔離)、国家公務員法第104条(他の事業または事務の関与制限)などが該当します。

国家公務員法 第103条(私企業からの隔離)

国家公務員は営利企業を営むことはもちろん、役員を兼ねることもできません。不動産経営も、原則的には禁止です。ただし、不動産経営に関しては、上記の通り、人事院規則にしたがい所轄の上司の承認があれば認められることになっています。

国家公務員法 第104条(他の事業または事務の関与制限)

国家公務員が特段の事情や目的で営利企業を営んだり、役員になったりすることは、内閣総理大臣や所轄庁の長の許可がない限り認められない、としています。目的を問わず、国家公務員の副業は禁止です。ただし、内閣総理大臣や直属の上司の承認が得られれば、認められるケースもある、ということを上の条文は示唆しています。

地方公務員の規定

県庁や市役所、町役場に勤務する地方公務員。公立の小中学校に勤める教職員や県営病院に勤務する看護師なども、地方公務員に分類されます。彼らの職務規定に関するルールは、以下の地方公務員法第38条(営利企業等の従事制限)で定められています。

地方公務員法 第38条(営利企業等の従事制限)

この条文では、地方公務員の副業は厳しく制限されています。2018年には、宮城県仙台市の職員が上司に無断でアパート経営をしていた事実が露呈し、3ヶ月の減給処分を受けました。本人は、「アパートを購入して資産運用しても役員にさえならなければ副業禁止の規定に抵触するとは思わなかった」と証言したそうです。

公務員がアパート・マンションを購入して資産運用する際は、「副業」に該当しない範囲で行うのが前提です。そして、ここでも「任命権者の許可があれば自営も可」なことがうかがえます。では、どのようなケースが副業に該当しない不動産投資の条件になるのでしょうか。以下で詳しく説明します。

副業に該当しない不動産投資の条件とは?

公務員の副業は原則禁止です。その一方で、人事院規則では条件付きで不動産投資を行うことを認めています。この条件の範囲内でのアパート・マンション経営は、実質的に副業には該当しない、ということです。

公務員の方が不動産投資をする際、次の3つの「ない」を押さえてください。
・持ちすぎない
・稼ぎすぎない
・管理は自分でしない

積極的な投資は控えなければならず、莫大な収益も期待できない点に注意が必要です。

4棟9室以下の規模

人事院規則では、「5棟10室以上」の不動産経営は、兼業に該当すると定めています(人事院規則14-8)。また、土地の賃貸に関しては、賃貸契約の件数が10件以上は禁止。駐車場の範囲は、駐車台数が10代以上の広さの規模は所有禁止となっています。

近年増えてきた不動産投資の一般例と比べると、やや物足りない規模に感じるかもしれません。しかし、公務員本来の職務と律すべき立場、求められる倫理観を考えると、致し方ない部分があります。不動産を所有する際は、一定規模に押さえることがポイントです。

この規定を裏読みすれば、「4棟9室以下のアパート」規模であれば、副業に該当しないことになり、公務員でも所有・運用が可能です。マンションや家屋、土地、駐車場を所有する際も、人事院規則にしたがってください。

賃貸収入が年間500万円未満

アパート・マンションの棟数や部屋数だけでなく、賃貸料収入にも制限がある点に注意が必要です。公務員に認められる不動産経営の収入は年間で500万円未満。それ以上の利益は副業扱いです。500万円を上回ると、それが経理上のミスや勘違いであっても法律違反となり、重いペナルティが下される可能性があるため気を付けましょう。

賃貸収入を年間500万円未満に抑えるには、賃料設定に配慮しなければなりません。家賃5万円の部屋を10室持つとすれば、10室×5万円×12ヶ月=600万円。500万円越えのため公務員法に抵触します。

家賃の設定は難しいものです。基本的には地域相場に準じたものとなるため、いくら大家であってもそう簡単に自己都合で調整できるものではありません。安い家賃は住人から喜ばれるかもしれませんが、同じ棟の部屋の賃料との差が開きすぎると公平性を欠くことになり、評判を落としてしまうことも。そもそも赤字になれば持つだけ無駄という話にもなります。部屋の所有数を制限するなどの工夫が必要ですが、そのあたりは不動産会社に相談するほうが賢明です。

また、相続不動産の所有などで思わぬ高額収入になった場合も注意が必要です。しかるべきところへしかるべき手続き申請を行い、法律の範囲内で正しく処理しましょう。

管理業務を委託する

公務員は自分たちの職務に専念すべきと法律で定められています。また、人事院規則でも、公務員が自営することを禁じる規定があります。国家国民の公僕たる公務員、持てる力のすべてを職務に傾注して国民の幸福な生活のために尽くすべきと定めているわけです。

小規模のアパート管理でさえ、部屋の掃除から共有設備の点検・メンテナンス、清掃活動、賃貸契約業務、住人間のトラブル対応、未納の賃料回収まで、さまざまな業務があります。とても本業の傍らでこなせるものではありません。また、マンション管理では定期的な修繕計画の見直しなどの義務も発生します。公務員に限らずサラリーマンでも物件の自主管理は現実的でないことから、プロに管理を任せる管理委託方式がスタンダードです。

公務員であっても条件やルールの範囲内であれば賃料収入を得ることも可能ですが、「職務に支障を来さない範囲」であるのが大前提なのを忘れてはなりません。

一定規模を超える場合は申請が必要

公務員の不動産投資は、副業に該当しない運用が前提であると説明しました。もう一点、押さえてほしいことがあります。それは、「一定規模を超える場合は申請が必要」であること。具体的には、5棟10室以上の規模。つまり副業に該当するケースです。

原則、一定規模以上の不動産所有は認められないものの、申請のうえ許可が下りれば、所有が認められます。以下、申請方法やそのタイミングについて説明します。ただし、こちらは国家公務員のケースです。地方公務員の方は、各自治体のルールにしたがってください。

申請方法

申請先は、所属の省庁、または役所の部署の責任者となります。このとき必要な書類は、「自営兼業承認申請書」(不動産等賃貸関係)です。必要事項を記入して提出する際、以下の書類を添付します。いずれも上記で説明した「副業に該当しないこと」を証明するための書類です。

・不動産管理委託契約書

申請のタイミング

申請のタイミングですが、資産運用をはじめる前が望まれます。申請したからといって必ずしも承認されるわけではありません。不動産を購入した後に却下されては大きな損害です。事後申請にならないよう注意してください。

仮に未申請・未承認のまま運用をはじめてしまうと、重い処分が下されることもあります。公務員は人事院規則や国家公務員法、各自治体のルールにのっとって職務に勤める必要性があることを理解して、くれぐれも自己判断で決めないようにしましょう。

申請許可が得られやすいパターン

本来ならば、公務員による一定規模以上の不動産経営は職務規定違反となり、認められません。申請後承認されるケースもあるとはいえ、ハードルは決して低くはないことを理解しておく必要があります。それを踏まえたうえで、申請許可が得られやすいパターンを紹介します。以下の2パターンは比較的許可が得られやすいため、早めに相談するようにしましょう。

相続や生前贈与により不動産を得た場合

遺産相続をきっかけとするマンション経営は、自営禁止の公務員であろうと認められやすくなります。公務員だからといって先祖代々受け継いできた財産を処分すべきなどという法はありません。きちんと事情を説明し正当な手続きに沿って申請すれば、5棟10戸以上の規模でも承認されるでしょう。

また、生前贈与も同様に承認されやすいといえます。手続きの仕方が異なるだけで、親の財産を受け継ぐことに変わりはありません。届け出だけは忘れないようにしてください。

転勤などで住めなくなり賃貸物件にする場合

マイホームの購入後に転勤や海外赴任が決まり、長期間新居を空けなければならない事態になると、使い道を検討する必要があります。その際選ばれるのが、自宅を賃貸住宅として貸し出す不動産活用。これもまた、公務員による一定規模以上の不動産経営の中では承認されやすいケースです。組織の都合で転勤となれば仕方ありません。見切り発車でマイホームを処分する前に、不動産活用を認めてもらえないか上司に相談しましょう。

公務員によるアパート経営のメリット

公務員は金融機関から低金利での融資を受けやすく、キャッシュフローにいい影響も

公務員によるアパート経営にはさまざまなメリットや、サラリーマンにはない利点があります。以下、代表的なメリットを説明します。

融資審査に通りやすい

多くの場合、投資家は金融機関の融資を受けて不動産を購入し、運用を開始します。自己資金がない方でもチャレンジは可能ですが、必ずしも融資審査をパスできるとは限りません。職業や将来収入に不安要素があれば、審査に通るのが難しくなります。

その点、公務員は安定が約束された職業という認識があり、金融機関の心証もいいほうです。サラリーマンの平均年収が400万円であるのに対し、年収600万円の公務員も珍しくありません。民間企業に勤める投資家より融資を受けやすいといえます。信頼の高さは、低金利で借りられるメリットをもたらします。低金利による融資はキャッシュフローにいい影響を及ぼし、安泰のアパート経営につながるでしょう。

安定した不労所得が得られる

不動産経営といっても、設備メンテナンスや点検業務、住人募集、賃料管理などの管理業務は不動産管理会社が全面的に引き受けてくれます。というより公務員は自主管理が禁止されている関係上、おのずと管理委託方式となります。プロに管理と経営を任せてこそ不動産投資は成功の確率が高くなります。手数料がかかるとはいえ、家賃収入は安定し、経営基盤も盤石に近いものとなるでしょう。

公務員によるアパート経営のデメリット

上記のように公務員ならではのメリットがある一方で、デメリットも存在します。

ビジネス経験不足から失敗しやすい

よく指摘されるのが、ビジネス経験の乏しさです。この一面がアパート経営の足を引っ張ることになるかもしれません。

公務員は確かに金融機関の心証がよく高額融資も難しくないでしょう。しかし、本当の勝負は審査を通過した後に待ち構えています。いくら管理会社任せで済むとはいえ、管理内容をろくにチェックしないようでは経営もずさんになります。とくに、入居率を高めるような募集対策がなされているか、リフォーム計画は地域の事情やニーズをとらえているか、これらをチェックするときに生きてくるのがビジネス感覚です。あくまでアパート経営の主役はオーナー自身であることを自覚しないと、足をすくわれる結果になりかねません。

法律に違反すると懲戒処分の可能性も

公務員のアパート経営は、一歩間違えると法律違反を問われることがあります。内容によっては職を失う事態につながるため、甘く見てはいけません。

現に、不動産を所有していた佐賀広域消防局所属の消防副市長が、地方公務員法違反で懲戒処分になったことがありました。消防副士長は佐賀市内外に12件ほどのマンション・駐車場を所有。不動産収入は年間で約7000万円にも上ったとのことです。

消防副士長は許可を得ず不動産経営に着手したうえ、収入も未申告でした。問題が発覚して減給の懲戒処分を受け、所管の佐賀広域消防局から人事院規則通りの規模の不動産経営を行うよう命令が下されるも従わず、結果、懲戒免職になったとのことです。

公務員法や人事院規則に違反した不動産経営は違法も同然で、重い処分は免れません。公務員の兼業は制約の範囲内のみ許されるとの自覚が重要です。

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