第113回 郵便投票

米大統領選挙 郵便投票の行方

11月3日(火)に迎える米大統領選投開票日を前に、郵便で投票用紙を送る「郵便投票」の集計に対する不安が高まっている。郵便投票がこれほど注目されて迎える選挙は、かつてなかったといわれるほど。

米国での選挙投票は州によって異なるが、一般的に三つの方法がある。

第1が「期日前投票」、第2が「郵便投票」、第3が全米同時の投開票日に投票所に行くというものだ。

ニューヨーク州の郵便投票用紙での申請締め切りは、10月27日(火)だ。ニューヨーク州政府のウェブサイトによると、郵便投票は投票用紙をオンラインで申請し、送られてきた用紙に記入した上で郵送する。

英BBCによると、過去、総投票数の5分の1を占めてきた。この郵便投票は、投票所からかなり離れたところに住む農家やブルーカラー、あるいは体が不自由な人や高齢者が伝統的に利用してきた投票方法で、実は無視できない票数に上るという。

経費削減は、ポスト撤去にも及んでいた

ツイッターで拡散 投票の妨害か

問題となった発端は今年8月中旬、ツイッターで拡散されたビデオや写真だった。歩道に設置されているおなじみの青い郵便ポストの足を切り取り、ポストをトラックの荷台に積んで行く作業の映像で、「郵便投票の妨害ではないか」と米メディアが報じた。

郵便サービスを運営する米郵政公社(USPS)は7月、「郵便投票が開票日に間に合うように届くことを保証できない」と警告した。それは、経費削減による郵便ポストの撤去、仕分けセンターの閉鎖などが理由だ。

問題の映像により、その経費削減作業が進んでいた様子が、急に大統領選挙と結び付けられてスキャンダルとなった。

さらに、トランプ大統領は8月12日、恒常的な赤字に苦しむUSPSに対する、250億ドルの特別な歳出を認めないと発表した。同大統領は過去数カ月に渡り、「郵便投票は不正がまかり通る」と主張してきたが、経営難に苦しむUSPSに追い打ちをかける措置となったのだ。

民主党支持者は 郵便投票が多いと予想

一方、新型コロナウイルスの感染拡大で、過去には投票所に行っていた民主党支持者たちが、今年は「密」を避けたいがために、郵便投票に殺到するという見方が広がった。

特に、勝敗をほぼ左右する激戦州、つまり、共和党支持者と民主党支持者の票数が拮抗(きっこう)している十数州では、「マスク着用の行政命令(新型コロナウイルス予防のため)は、個人がマスクをするかしないかというのを選ぶ基本的な人権を奪う」として、マスク着用を拒否するトランプ大統領や共和党支持者に混じって、投票所に並ぶリスクを嫌う民主党支持者は多い。

トランプ大統領は今夏よりも前から、「郵便投票は命取りになる」「郵便投票は不正がまかり通る」「死人も犬も投票できる」と発言し続けていた。そこにきて、郵便ポストが撤去される映像が広がり、民主党支持者の不安をあおり、米メディアがUSPSに注目するきっかけとなった。

民主党が多数派の下院では8月、ルイス・デジョイUSPS長官を召喚し、議会で証言を求めた。

同長官は、「経費削減ということで続けていた改革を、投開票日後まで一切止める」と証言した。これによって、郵便ポストを撤去する作業は一旦停止された。

ちなみに同長官は、USPSの叩き上げではなく、ブッシュ政権時代から共和党の資金集めで功績を収めてきた、ビジネスパーソンだ。

デジョイ氏の長官就任は今年2月、トランプ大統領が選んだUSPSの監査委員会がデジョイ氏を長官に選び、トランプ政権寄りの運営をしてきた。

「忖度(そんたく)」という言葉は英語にはないが、それがあったとしてもおかしくはない。

有権者を郵便投票へ SNSで情報提供

こうした投票情報の混乱を抑え、正しい情報を有権者に届けるために、ソーシャルメディアでは、フェイスブックやツイッターなどがユーザー情報を利用して投票方法や情報をアプリに表示している。

ユーザーが住んでいる地域の郵便投票や期日前投票の締め切り、それに関連するローカルニュースまで提供しているのだ。

目的は、最終的により多くの有権者を投票に向かわせることだ。「投票に行こう」。このメッセージは、夏のブラック・ライブズ・マター(BLM)のデモでも頻繁に見られた。郵便投票がきちんと機能するのか、投票率が高まるのか、注目する点が多い選挙となる。

津山恵子 ジャーナリスト。 「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。 フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。 近書に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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