コロナ禍で企業はどう変わったか:第2回SB-Japanフォーラム

LIFULL 小池氏(右上)、SBプロデューサー 足立氏(右下)、ベネッセ 泉氏(左下)、富士通 森川氏(左上)

サステナブル・ブランド ジャパンは9月15日、「コロナ禍で企業はどう変わったか」をテーマに「第2回SB-Japanフォーラム」をリアルとオンラインで開催した。緊急事態宣言下で、多くの企業が新たな働き方を模索した。宣言が解除されたいま、もとに戻る企業もあれば、新しい働き方、暮らし方、ビジネスへと移行する企業もある。これから企業はどう変わり、そして変わっていくべきなのか――。フォーラムでは、富士通、ベネッセ、LIFULLの3社の事例を通して、これからの企業に求められる変化について考えた。 (サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

組織のターニングポイントが来た

富士通は7月、新たな働き方の方針「Work Life Shift」を掲げ、国内グループ社員(製造拠点や顧客先常駐者を除く)約8万人を基本的にテレワーク勤務にすると発表した。同社は2015年から在宅テレワークをトライアル実施し、2017年4月に全社に導入。緊急事態宣言前までの在宅テレワーク実践率は48%だったが、宣言中は90%、宣言後は80%となっている。現在、コアタイムのないフレックス勤務を全従業員に拡大し、定期券代の支給や単身赴任の廃止などを進める。

「もとに戻ることはない、というのが企業としての考えだ」。森川学・富士通 総務・人事本部シニアディレクターはそう語り、「テレワーク・遠隔勤務が中心となり、全員集合型から非接触型の働き方が基本になる。離散集合を通じて、自律・分散・協働できる組織をつくっていく」と語った。

「Work Life Shift」の3本柱となるのが「Smart Working(最適な働き方の実現)」「Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)」「Culture Change(社内カルチャーの変革)」だ。これらを実行する上で「バーチャルでフラットな組織への転換」「マネジメントの転換」「コミュニケーションの転換」が重要になるという。

「組織、マネジメント、コミュニケーションのターニングポイントが来た。社員の高い自律性と信頼がベースになる。企業も社員を信頼し、社員も企業を信頼する必要がある。両者が対等になることが求められる。これまで日本企業はきちんとした就業規則をつくり、ルールを設けてきたが、そうしたものを一旦壊そうという考え」

富士通では今後、自律的な人材とそれを支える人事プラットフォームを設立する方針で、その一環としてジョブ型人事制度を導入する。

コロナ禍で起きた「いい変化」をどう持続させるか

ベネッセはコロナ禍で学校が一斉休校になる中、わずか数日の間に、さまざまな教育上の課題解決に取り組んだ。その一つが、他社がダウンロード版教材を無償提供する中、紙の総復習ドリルを配布したことだ。ネットや印刷環境が揃っていない子どもへの配慮と、「これまでの知見から、年齢が低い子どもにとっては鉛筆を持って書くことが重要と考えたため」と説明する。最終的には40万部を全国に配布。その後、休校が長期化する中、学校によって学力差が生じ始めたため、その差を診断する「全国実力診断テスト」も実施した。さらに、「幼稚園がないことで生活リズムが崩れる」という要望に応えるために「オンライン幼稚園」サービスを立ち上げた。幼稚園が始まる時間帯に合わせて、挨拶をし、体を動かし、歌い、昼休みをとるといった幼稚園仕立ての動画を公開した。

こうした迅速な対応ができた背景に、1年前から行ってきた「パーパス(存在意義)の見直し」がある、と同社ブランド広報部の泉ひろ恵課長は説明する。「教育を行う企業として、エビデンスを重視し、石橋を慎重に叩いて渡る姿勢でやってきた」と言うが、コロナ禍で社会からの要請に応え、パーパスを実行したことである変化が起きた。

「社員が変わった。目の前で発生したことに対して、一人ひとりがきちんと自分の目で見て、頭で考えて実行するという習慣がついた。そういう社員が増えるということは、変化が常態化する将来に向けて、会社が生き残るための術を得たと言えるかもしれない。緊急事態宣言下で生まれた『いい変化』をどう継続させていくかがこれから重要になる」

教育現場でもコロナ禍で変化が生まれているという。学童保育では、子どもたち自身がウイルス対策に率先して対応するようになり、塾はオンライン指導と対面指導のそれぞれの良さを発見し、学校でもインターネットを生かした学びが加速するなど変化が起きている。

自分らしく自由に働ける企業になれるか

LIFULLは2017年、場所やライフライン、仕事などの制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方を実現できる社会を目指し、共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons」を設立した。シェアサテライトオフィスとレジデンスを備えた複合施設を日本各地で展開している。「そういう生き方を選択できないこと自体が社会課題と考えた」とLivingAnywhere Commons事業責任者の小池克典氏は設立理由について語った。

LivingAnywhere Commonsは、1IDあたりの月額が2万5000円。費用には滞在費用と水道光熱費、通信費が含まれる。全国のLivingAnywhere Commonsの拠点を巡って、年間30万円で暮らすことも可能だ。

「ミッションは定住からの解放。地方創生が目的ではない。食や電気、通信、水道、医療、教育などの制限から開放されることで、人は自分らしく、もっと自由に暮らせるようになる。その結果として、地方創生などの課題解決にもつながっていく」

今年7月、LIFULLは、企業や自治体と連携して拠点を一気に増やすため、場所に縛られない働き方を実現するためのプラットフォーム構想「LivingAnywhere WORK」を立ち上げた。

「働く場所の選択肢がいまはオフィスか家かの2つしかない。それを100、1000に増やすと日本の働き方も大きく変わってくる」

その選択肢に全国自治体を加えることで、過密状態を避け、多様な働き方・ライフスタイルを実現しながら、個人や企業、地域による多方向の交流を活性化していくことができる。今後、賛同した企業70社や自治体20社(9月1日時点)への意識調査、ワーケーションの実証実験、自治体とのマッチング、イベントや勉強会、サテライトオフィス開設に伴う不動産情報の共有などを行う。なお、LIFULLでもLivingAnywhere Commonsを勤務地として許可し、社員が利用している。すでに、さまざまな企業の人が集まることで、集まった人たちによる連携や協創が実際に生まれているという。小池氏は最後にこう話した。

「『自由』や『寛容な働き方』というワードに関心があるのは20-30代前半の世代。採用のシーンでも効果が生まれている。採用する人の約3割は、そういう新しいライフスタイルを実践したい、地域に貢献したいという考えを持っている。これからは、スーツを着て、会社に定時に行くというライフスタイルは求心力がなくなるのではないか。会社は磁石のような機能になる。より自由に、自分らしさを表現できる企業に働く人たちは集まって来るのではないだろうか」

ファシリテーターを務めた足立直樹 サステナビリティ・プロデューサーは、「もうもとには戻らないということを強く感じた。変化は始まり、社員のマインドセットも職場の概念も、それをどう使っていくかということも変わってきている。若い世代は、いいお給料をもらいたいということよりも、なにか新しいものを一緒につくりたいという理由で職場を選ぶようになってきている」と語った。事例発表の後にはワークショップも行われた。

次回のSBJフォーラムは11月17日、『WE ARE REGENERATION』をテーマに開催。これから社会を再生し、その中で企業が求められる役割を考える。

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