トヨタ・ヤリスクロス、「ヤリスとの違い」「乗り心地」を実車レポート

コンパクトハッチのヤリスとSUVとのクロスオーバーモデルとして登場したのがヤリスクロスです。人気のヤリスのいいところを受け継いで仕上げられたSUVはいったいどんなカーライフを提供してくれるのでしょうか。


ちょっぴりお洒落して出掛けたくなります

ヤリスを初めて乗って使ってみたとき“本当に良く出来ているなぁ”と思いました。とくにエクステリアの質感の高さには感心させられました。もちろん走らせてみればストレス無く本当に実用コンパクトハッチとして“よく働いてくれる1台”だということがすぐに理解できる内容です。

そして今回、少し遅れて登場したヤリスのSUV版、ヤリスクロスです。試乗会が開催されたのは横浜のみなとみらいエリアのホテルでしたが、その会場に向かう途中に他のジャーナリストが走らせるヤリスクロスとすれ違いました。その時に感じたのは「みなとみらいの都会的な雰囲気の中にあってもけっこう目立つなぁ」という印象でした。ヤリスのファミリーだからエクステリアの質感はそれなりに高いだろうとは思っていましたが、実際にこうした硬質な街並みの中で見ても、存在感があって目立っていたのです。

RAV4にも共通する台形を2つ重ねたフロントマスクは存在感あります

どちらかというと和風デザインではなく、洋風の香りのするエクステリアデザインが横浜という地に合っていたのかもしれませんが、ビル街を駆け抜けるその姿には安っぽさとは無縁の質感があったのです。フロントマスクのデザインはRAV4のような台形を上下に2つ重ね、共通性を見せています。

その仕上がりはヤリスよりもスッキリとしていて、無表情と言えば無表情なのですが、逆にその抑制の効いた渋めの表情が、大人の雰囲気を漂わせています。さらにサイドフォルムですが伸びやかで都会的な面構成と、フェンダー周辺やボディ下部の力強い盛り上がりとのバランスのとれた融合は新鮮なデザインだと思いました。

そしてリアのコンビネーションランプ周辺のデザインです。ハッチバックのヤリスでももっとも質感が高く、魅力的な部分だったのですが、ヤリスクロスでもそのデザインの上質感は受け継がれていました。ヤリスのシリーズとは言え、完全にSUVとして独立したデザインを与えられたエクステリア、かなり魅力的に感じました。都会はもちろんのこと、高原のリゾートホテルやシーサイドのレストランなど、ちょっぴり背伸びをしたくなるシーンにも気後れすることなく乗り付けられそうです。

ストレスフリーのインテリアですが…

ドライバーズシートに座り、ポジションを合わせます。ここから見える風景はヤリスとあまり変わりありません。アイポイントはSUVということもあってアップしますがボディの見切りの良さや、体の収まり具合にはヤリス同様にストレスは感じません。

ただし、一カ所だけどうしても気になりました。シートポジションを電動で調整するのですが、その調整スイッチが最後まで慣れなかったのです。シートバックの角度、上下のハイト調整、そして前後調整に、それぞれひとつずつのスイッチ、合計で3個あって分かりづらいのです。確かに1モーターですべての調整を行っているという技術的な努力は凄いですし、認めたいのですが、さすがにスイッチの動かす方向とシートの動きに違和感があり、調整しづらい点はストレスになってしまいます。

右から前後スライド、シート上下、リクライニングと3つのパワーシートを調整するスイッチが並び、自然な操作性がわかりにくい

本来、シートポジションを電動で調整する場合、目視することなく手の感覚的な操作で行えるのが理想だと思います。ところが、この3つのスイッチのお陰で、何度となく目で確認したり、考えながら行わないといけないのは数少ない改良点ではないでしょうか。もちろん一度調整してしまえば「そうは度々、変えません」という人もいるはずです。しかし、乗り降りの時や家族で使用するときにはこのスイッチのお世話になるのですから、ストレスは軽減して欲しいのです。

少々長くなってしまいましたが、他の部分がストレスフリーだっただけに、何とかならないだろうか、と思ったポイントでした。高い位置にメーターパネルやディスプレイオーディオが設定され、ドライバーからの見通しは良く、視線移動も抑えられていて楽々でドライブできます。特別に気に入る点もなければ、特別に嫌だなと思う点もない。インテリアというのはドライバーがもっとも長く目にする部分だけに、ことさらに気になる点があるとストレスになるのです。

マルチインフォメーションディスプレイは派手さはありませんが視認性のいいメーターパネル

ところがヤリスクロスは良く言えばスッキリとしていて運転に集中できます。ヤリスよりも一回り大きなボディサイズですが、ボディがとてもコンパクトに感じるインテリアだと思います。もちろんデザインとして優れているかどうかと言うのは別問題ですが、誰もがスッと、すぐに居心地の良さを感じるインテリアだと思います。

実際に乗ってみて

収まりのいいシートに腰を下ろし、ハイブリッドで走り出しました。ヤリスより車重が重くなっていることもありますが、何ともしっとりとした味わいです。このクラスのSUVはどちらかと言えばシティーユースに軸足を置いていますから、走りのコンセプトも都市型となり、このしっとりとした乗り心地はピッタリです。

もちろん軽快さもありスポーティな走りも何とかこなせますが、ヤリスほどの軽快さではありません。どちらかと言えばアウトレットでゆったりと買い物を楽しみ、街角のカフェでお友達と食事に出掛けたりという使い方こそ似合いそうです。

次に試したのが1.5Lガソリン3気筒エンジンを搭載したガソリン車モデルです。こちらは軽さを生かした軽快な走りが魅力でした。もし郊外型の交通モードを走ることが多いという人ならば、ハイブリッドよりも車両価格が50万円ほどリーズナブルなガソリンモデルを狙ってもいいかもしれません。今回は燃費こそ正確に計測できなかったのですが、WLTCモードの燃費値は17.4km~20.2km/Lです。一方のハイブリッドモデルは26.0km~30.8km/Lとさすがに優秀な燃費です。

ただ、ハイブリッドのXが228万4,000円に対してガソリン車のX“Bパッケージ”が179万8,000円です。この車両価格の差を考えると郊外型がほとんどという使い方の人にはガソリン車も狙い目でしょう。

そんなことを考えながら今度はハイブリッドの4WDモデルで乗り出しました。このモデルには「スノー」と「トレイル」モードと言う2つのモードをセレクトできる電気式の4WDシステムが与えられています。後輪をモーターで駆動する「E-Four」と呼ばれるシステムですが、こちらは本当にスムーズに電子制御が働いて、快適にドライブできます。

4WDにはオフロードを走る際のモードを選ぶダイヤルが装備されます(写真はハイブリッド)

一方、ガソリン車にも4WDは用意されますが、こちらはガソリン車には「マルチテレインセレクト」と言って路面状況に応じた3つの走行モードをセレクトできる4WDシステムを設定していますから、よりマニアックかもしれません。滑りやすい雪道やキャンプ地のぬかるみなどでも活躍する4WDですから、アウトドア派には“ガソリン+4WD”で202万9,000円という選択はコストパフォーマンスがいいと思います。

さてコストパフォーマンスで言えば最大のライバルである日産キックスを始めとした強敵がひしめいていますが、ハイブリッドでも228万4,000円(FF車)からということを考えると、ヤリスクロスは価格面でかなり有利に戦っていけそうです。

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