似て非なる「SDGs」と「ESG」。大手企業のESGに学ぶ、持続可能な社会に必要なもの

 近年、「持続可能な社会」という言葉を頻繁に耳にするようになってきた。とくに2015年に国連で採択された持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」や、環境や社会、企業統治に関する「ESG」などに積極的に取り組む企業も増えている。この二つ、似たような響きとイメージがあるが、一体何がどう違うのだろうか。

 まず、「SDGs」とは、貧困や雇用、環境など我々が今直面している、あらゆる社会的課題を解決するために構成された17の目標と、それをさらに細分化した169の具体的なターゲットのことだ。国連主導のもと、年1回開催される「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」で各国の達成度合いが報告され、ランキングとして発表される。いわば、世界規模で進められている「持続可能な社会」のゴールのイメージだ。一方、「ESG」は「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字の略語であることからも分かるように、企業活動を対象とする問題解決に向けた、より具体的なプロセスだ。多くの部分で「SDGs」と共通する反面、企業としては長期的な経営を図る為の考え方の一つであり、経営戦略ともいえるものだ。

 例えば、大手住宅メーカーの積水ハウス〈1928〉が取り組んでいる「5本の樹」計画というものがある。

 これは、「里山」の減少によって日本から生物多様性が損なわれつつあることを背景に「3本は鳥のために、2本は蝶のために、日本の在来樹種を」との思いを込めた、地域の在来樹種を庭づくりやまちづくりに生かす同社独自の提案で行われている造園緑化事業だ。2001年の事業開始以降の植栽本数は2020年1月末時点で累計1611万本。2019年度の樹木の植栽実績は109万本となっている。また、植栽だけでなく「5本の樹」計画の概要と数多くの樹木が掲載された樹木図鑑「庭木セレクトブック」の発刊や、樹木やその樹木に集まる鳥や蝶についての情報をスマートフォンで入手できる「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」サイトの公開などを通して、計画の普及にも努めている。

 この活動は自然環境や生態系の保全に繋がるのはもちろんのこと、住まい手にもさまざまなメリットをもたらす。例えば、落葉広葉樹は夏には日差しを遮り、葉の蒸散作用で冷気を生み出してくれる一方、冬には落葉していることにより、暖かな日差しを家の中に取り込んでくれるなど、エネルギーの削減効果もある。また、豊かに整備された緑あふれる住環境は、住まいやまちの資産価値を高め、「経年美化」を実現する重要な要素にもなる。鳥や蝶が集まる庭は、子どもたちの情操教育にもつながる。

 また、電気通信事業のKDDI〈9433〉では、6つのサステナビリティ重要課題を定めているが、その中の一つに「多様な人財の育成と働きがいのある労働環境の実現」を挙げている。

 とくに同社では、会社の意思決定に女性が参画するなど、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントを推進することが、国際社会の課題解決や企業の持続的な発展や強化につながると考え、女性リーダーの育成に注力している。2021年3月期末までに組織のリーダー職で人事評価権限を持つ「ライン長」に女性を200名登用することを掲げ、女性管理職育成の拡充にも努めるなど、女性が出産や育児などを経てもキャリア意識をもって活躍し続けられるような取り組みの数々は、「なでしこ銘柄」に6年連続で選定されるなど、社会的にも大きな評価を受けている。

 大手電気機器メーカーのキヤノン〈7751〉も、早くからESGに取り組んでいる企業の一つだ。

 同社では1988年に企業理念として「共生」を掲げ、社会的な責務をまっとうすることを宣言。自然環境や労働環境だけでなく、日本古来の貴重な文化財の高精細複製品を制作し、オリジナルの文化財をより良い環境で保存しながら、その高精細複製品を有効活用することを目的とした「綴(つづり)プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)」など、同社の高度な技術力を生かした取り組みを行っている。

 企業のESGの先は、SDGsのゴールにつながっている。こういった先進企業の多様なESG事業に続いて、ESGに積極的に取り組む企業が各分野でどんどん増えて、日本国内、ひいてはグローバル企業を通して世界にまで波及していけば、SDGsの17の目標達成は近づいてくるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)

積水ハウスは、地域の在来樹種を庭づくりやまちづくりに生かす「5本の樹」計画に取り組んでいる

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