ロッテに敗れて首位陥落危機… ソフトバンクの“奇策”高谷スタメンに感じた疑問

ソフトバンク・高谷裕亮(左)【写真:藤浦一都】

先発のムーアが2回に打者一巡の猛攻を浴びて一気に5点を失った

■ロッテ 7-4 ソフトバンク(25日・ZOZOマリン)

ソフトバンクは25日、敵地ZOZOマリンスタジアムで2位のロッテと首位攻防戦を戦い、7-4で敗れて5連敗となった。2回に先発のムーアが打者一巡の猛攻を浴びて大量5失点。1点差まで追い上げたものの、ビハインドが響いて追いつけなかった。

この日、工藤公康監督は思い切った策に打って出た。先発マスクを正捕手の甲斐拓也ではなく、ベテランの高谷裕亮に託したのだ。昨季から天敵となっているロッテ側に甲斐の配球の傾向が掴まれているのでは、と考えたのだろう。ただ、先発のムーアは今季初めて、高谷とバッテリーを組むことになった。

結果的には2回に味方のエラーもあって6安打を集中され、打者一巡の猛攻で5点を一気に失った。ムーアは3回以降は立ち直り、8回途中まで粘って投げたが、結果的にこの5点が重くのしかかった。8回には代わった松本が2点を追加されてトドメを刺された。これでロッテ戦は4連敗となり、今季の対戦成績は3勝9敗1分けとなった。

思い切った高谷の起用だったが、それは“裏目”に出ることになった。疑問だったのは、なぜ“このタイミング”での捕手の交代だったのか、だ。

ムーアは今季この試合まで6試合に先発し、その全てで甲斐とバッテリーを組んできた。初登板の西武戦こそ4回6失点と炎上したが、その後は大きく崩れることなく好投を続けて3連勝してきた。ムーアが試合後に甲斐のリードに対して感謝を口にすることも多く、綿密にコミュニケーションを重ねてきた女房役への厚い信頼を感じさせていた。

先にも記したが、リード面の傾向などを首脳陣は不安に思ったのだろう。ただ、ムーアと甲斐のバッテリーは9月4日にロッテと対戦し、球数こそ多くなったものの、6回途中1失点と抑え込んでいた。このコンビに関して言えば、決して打たれてはいなかった。

好投を続けていたムーアと甲斐のバッテリーの“解体”は得策だったのか?

プロといえど、初めてバッテリーを組むことは簡単ではないはずだ。投手と捕手は登板ごとに反省とコミュニケーションを重ね、信頼を深めていくものだ。それぞれとコンビを組んだことがある日本人投手であれば、この策は分かる。ただ、ムーアはよりそういった面で難しさがある外国人投手。ここまでコミュニケーションを重ねて、相互理解を深めていた2人をあえてこの重要な一戦で“解体”し、バッテリーを組んだ経験のない2人を組ませることが得策だったのだろうか。

今季、ここまでソフトバンクは12球団トップの防御率3.16を誇っている。投手力を武器に勝ちを積み重ねてきたが、この投手陣を支えてきたのが、他ならぬ甲斐である。リード面で賛否はあるが、捕手とは打たれれば槍玉にあげられるポジションだ。ここまでのこの12球団トップの「3.16」と言う数字が、甲斐の貢献度を物語っている。

24日のオリックス戦後、工藤公康監督は報道陣に対して「今まで、通り勝ち越すことを考えてやっていきたい。投打のバランスを考えながら、保っていくということが1番勝利に近づくと思っている」と語っていた。この言葉から、これまで通りの戦いを変わらず続けていくと言う意図が感じられた。

だが、いざ蓋を開けてみれば甲斐に代えて高谷を起用し、ムーアとバッテリーを組ませるという、ここまでやったことのない“戦い方”を選択した。思い切った策だったが、ソフトバンクが自分たちの戦い方を崩したようにも見えた。

去年から大きく負け越しているロッテを“意識するな”と言っても無理なのだろうか。この日の戦いを見ると、誰よりも工藤監督自身がロッテを意識しているのではないだろうか。この難しいシーズン、ここまでパ・リーグの首位を走ってきたソフトバンクには力はある。だからこそ、ロッテを意識して“己の戦い”を変えるのではなく、選手を信じ“己の戦い”を貫いて戦えばいいのではないだろうか。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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