節税目的の不動産投資で失敗しやすい人とは?リスクを回避する基礎知識

節税目的で不動産投資を検討してはいるものの、節税に失敗することがあると聞いて不安に思う人はいるはず。確かに失敗する原因はいくつかありますが、事前に想定・対処しておくことでリスクを下げることはできます。今回は節税目的の不動産投資が失敗するケースや対処方法を詳しく解説します。

不動産投資で節税できる税金の種類

まず不動産投資をすることで節約できる税金にはどのようなものがあるのか、ひととおり見ていきましょう。

所得税

所得税は個人の所得にかかる税金であり、収入から経費を差し引いた所得額に税率を掛けて算出されます。所得の種類として給与・事業・配当・譲渡などがあり、多くの人に関係があるのは給与所得です。

不動産投資による所得も、不動産所得として扱われます。多くの高所得者にとっての悩みの種である所得税。所得が増えるほど、支払う所得税が高くなります。「これだけ頑張っているのに、手元に残る分が少ない…」と思う人も多いはず。

所得金額が1800万~4000万円未満の場合の所得税率は40%、4000万円以上だと45%にも及びます。いくらか控除があるとはいえ、所得の多くを税金で引かれてしまう仕組みです。不動産投資を行うことで、所得税の節税につながることも。

住民税

所得税に並んで、節税したいのが住民税。正確には、都道府県民税と市町村民税といいます。地方自治体が実施する行政サービスを維持するためのコストを、住民で分担して支払う税金です。

具体的には、地域の教育・福祉・防災といった分野のために使われます。住民税は主に、所得によって決まる「所得割」と、一律に課される「均等割」のふたつの合算で計算されます。

この他に、独自の税金が上乗せされることも。たとえば環境税や森林税などです。所得税と同じく、所得金額が多いほど住民税も高くなり、住んでいる地域によっても変動します。不動産投資をすることにより、住民税も節税できる可能性があります。

相続税

まだ自分には関係ないと思う人も多いかもしれませんが、いずれ多くの人が直面するのが相続税です。被相続人(亡くなって相続をされる人)が残した、現金・有価証券・土地・建物といった遺産を相続する際に発生する税金のことを意味します。

相続税の計算で重要となってくるのが相続税評価額です。現金ならすぐに分かりますが、土地や建物などは調査しなくては分かりません。評価額の算出は、相続税法や国税庁の通達によって行われます。

評価額から基礎控除額を差し引いた額に、税率をかけることで相続税額が算出されます。なお、土地や建物の評価額は、取得額より低く計算されます。よって現金よりも相続税をおさえやすいので、不動産投資は相続税対策としても有効とされています。

贈与税

亡くなった後ではなく、生前に個人から財産を渡されたときに発生するのが贈与税。課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、「暦年課税」は1月から12月の年間で贈与された財産の価額で決まる方式です。

「相続時精算課税」とは、60歳以上の祖父母や父母が、20歳以上の子どもや孫に贈与をするとき、2500万円までは贈与税が発生しない仕組みです。累計2500万円を超えた分については20%の贈与税がかかりますが、うまく利用することで、生前に大きな財産を子どもや孫に移せるのがメリットです。

所得税と住民税の節税について

不動産投資をすることで、なぜ所得税や住民税の節約につながるのか、その理由・仕組みについて解説します。

不動産投資でかかった経費を計上できる

不動産投資をする大きなメリットとして、経費計上ができるという点があります。たとえば年間で1000万円の収入を得たとしても、経費が700万円なら、所得額は300万円。所得税は収入にかかるわけではなく、所得にかかるものです。

経費計上をすることで所得を圧縮でき、所得税や住民税を少なくできます。ただし何でも経費にできるわけではなく、事業に関連した経費のみに限られます。プライベートの支出と混ざりやすい経費の計上には注意が必要です。

不動産投資で計上できる経費一覧

経費計上ができる費用の具体例として、以下が挙げられます。

・減価償却費
・修繕費
・仲介手数料
・管理費
・火災保険料・地震保険料
・租税公課
・借入金利息

計上可能な経費のうち、もっとも重要なのが建物の減価償却費です。計上する金額が大きく、毎年計上できるので、節税のための大きな手助けとなります。物件で定期的に発生する修繕費も、経費として計上できます。管理費とは、マンション・アパートの管理の委託料などが該当します。

減価償却とは

減価償却の対象となるのは建物や共用設備であり、土地は対象外です。減価償却は、建物や設備の取得価額を耐用年数で割った金額を、減価償却費として計上します。耐用年数は種類によって異なり、住居用のRC造やSRC造のマンションの法定耐用年数は47年です。

5000万円の新築マンションは、5000万円÷47年で、約106万円を毎年計上することになります。中古物件の場合、法定耐用年数をそのまま使うことはできません。中古物件の耐用年数の計算方法については、見積法と簡便法の2種類があります。

簡便法は、法定耐用年数から経過した年数を差し引き、経過年数の20%に相当する年数を足すことで決まります。たとえば法定耐用年数が47年で新築から12年経過している場合、47-12=35年、35年×20%=7年となり、耐用年数は35年+7年で42年となります。

なお、耐用年数をオーバーした中古物件に関しても、減価償却できます。その場合の耐用年数は、法定耐用年数×0.2となり、RC造やSRC造のマンションであれば9年(小数点以下は切り捨て)となります。

損益通算とは

損益通算とは、複数の種類の所得を合算して相殺することです。たとえば給与所得が800万円、不動産所得が200万円の赤字となったとき、損益通算によって課税所得は600万円に減少します。

不動産投資で、空室の増加や家賃収入などの減少により、利回りが悪化して赤字になることもあります。しかし損益通算をすることにより、課税所得が減少して、所得税や住民税の節税につながるのです。不動産投資は、赤字になっても節税のメリットを受けられる可能性があります。

減価償却期間が終わったら節税効果が薄くなる

減価償却期間が終了すれば、減価償却費を計上することはできなくなります。計上できるのはその他の費用のみとなるため、節税効果はそれまでよりも低くなります。しかし、相続税や贈与税の節税メリットがあることに変わりはありません。建物・土地は取得価額より売却時の評価額が低くなるため、現金に比べて相続性・贈与税を少なくできます。

節税目的の不動産投資で失敗しやすい人

節税効果を重視して不動産投資をしても、結果として失敗してしまうことがあります。失敗しやすい人にはどんな特徴があるのでしょうか。

年収900万円以下の人はリスクが大きい

不動産投資の節税効果を十分受けられるのは、年収900万円以上のサラリーマン。給与所得が900万円を超えると、所得税率がおよそ33%になり、譲渡税率との差がひらきます。減価償却期間中におけるリターン(減少できる税金)が大きくなるのです。

これに対し、たとえば年収700万円の人が3000万円の物件を入手しても、節税できるのはおよそ10万円程度にとどまります。この程度の節税では、不動産投資によるリスクに見合っているとはいえません。

黒字経営であれば青色申告で特別控除を受ける方法がある

家賃収入が多くて利益が出た場合でも、青色申告で特別控除を受けることで節税できる可能性があります。青色申告をするには複式簿記による帳簿付けが必要ですが、65万円の控除を受けられます。

毎年の所得が安定しない人は節税の恩恵を受けにくい

個人事業主よりも毎年の給与所得が安定しているサラリーマンのほうが節税効果を得やすい

不動産投資の節税は、他の所得との合算で所得税・住民税を少なくすることが前提です。よって毎年の給与所得が安定している会社員のほうが、より節税の恩恵を受けられることになります。これに対し外資系の会社員や自営業など毎年の所得が安定していない方は、所得が少ない年は減価償却などによる節税効果が出ないこともあります。

節税目的の不動産投資が失敗しやすい例

節税目的で不動産投資をするとき、失敗しやすいため注意したほうがいいケースがあります。

減価償却費以外もマイナスにして赤字経営をする

キャッシュフローをマイナスにして、常時赤字を継続するような状態にすることで、さらに節税効果を大きくしようとする人もいます。しかし、ふたつの点からおすすめできません。

まず、勤め先の倒産や病気などで所得が急減した場合、不動産所得もマイナスとなると生活を圧迫する恐れがあります。ローンは30~35年といった長期間で返済していくことになりますが、この間に経済危機や災害などが発生する可能性があります。

中高年の方は健康面でのリスクも徐々に増えていきますので、リスク管理を考えるとキャッシュフローはマイナスにするべきではありません。

つぎに、ローンの融資の観点からみたリスクで、赤字が続く事業の評価が低くなってしまうことです。金融機関は不動産投資の収支状況もチェックしていますので、毎月の収支がずっとマイナスである事業を高く評価することはありません。

とくに減価償却をしなくても赤字になってしまう場合は厳しい評価となり、不動産投資を拡大しようとする際、融資を断られる可能性が高くなります。今後、事業規模の拡大を視野に入れている人も、キャッシュフローをマイナスにすることの弊害は大きいのです。

不動産を売却するとき

不動産投資は物件の売却時にも失敗しやすく、高額な税金が発生して手元に残らないということも。減価償却を繰り返すと、物件の簿価は下がり、売却時の時価によっては譲渡所得が増えてしまいます。

譲渡所得として課税対象になる

物件を売却したことによる所得は、不動産所得ではなく譲渡所得です。譲渡所得については、他の所得とは分離して所得税・住民税が課税されます。譲渡所得には長期譲渡所得・短期譲渡所得の2種類があります。

5年以内の短期譲渡は税率が高くなる

土地・建物の所有期間が5年以内であると、短期譲渡所得とみなされます。長期譲渡所得の税率は14.21~20.315%なのに対し、短期譲渡所得の税率は39.63%と約2倍になります(令和2年度の場合)。短期間で不動産を売却してしまうと、所得税・住民税が高額になってしまいます。ローンを返済することさえ困難になる可能性もあります。

相続税対策で建てたアパートが負債を生んでしまうことも

相続性対策としてよくあるケースが、地方や郊外にアパートを建てること。有効利用できていない土地を活用して相続税を節税するための投資です。しかし利便性が高くない土地のアパートは、入居者が集まりにくいことがデメリット。駅から遠いなどの理由で入居率が上がらず、利回りも下がることで、将来の負債になってしまう可能性があります。

相続税対策にはなるとしても、相続した後にそれ以上の赤字となって節税効果を相殺してしまうリスクがあります。どこにどのようなアパート・マンションを建てるかは、慎重な判断が必要です。

節税効果が出やすい物件、出にくい物件

不動産投資における節税効果の出やすさに関しては、物件ごとに差があります。

木造築古物件は減価償却を大きくとれる

法定耐用年数が切れた中古物件は、減価償却期間が「法定耐用年数×0.2」で計算され、毎年の減価償却費を大きくとれる

不動産投資で節税に成功しやすいのは、木造の築古物件です。その理由として、法定耐用年数が22年と短いことが挙げられます。法定耐用年数が短いということは、RC造などと同じ金額・築年数の建物だとしても、毎年の減価償却費が大きくなるからです。

法定耐用年数が切れた中古物件なら、法定耐用年数×0.2と、短い年数での減価償却ができます。このように木造築古物件はそうでない物件と比べて、減価償却費を大きくとることができます。

新築区分マンションの節税効果が高いのは初年度だけ

築古・木造物件に対し、新築区分マンションは節税効果が出づらい傾向があります。その理由として、減価償却期間が47年と長く、毎年計上できる減価償却費が少なくなることが挙げられます。

新築マンションで大きな節税効果を実感できるのは、おそらく初年度のみ。初年度は登記費用、金融機関の手数料、仲介手数料といった諸費用を計上できますが、2年目からは計上できなくなるためです。

翌年度以降、「思ったよりも節税できていない」と感じてしまうかもしれません。節税効果が低くなり不動産投資の収支が黒字になると、損益通算での節税もできなくなり、逆に納税義務が発生します。給与所得のある会社員は納税額が増えてしまい、不動産投資をする前より手取りが減ってしまうリスクもあります。

不動産投資における節税に失敗しないために

不動産投資の節税を成功させるため、失敗事例から学べるポイントについて解説します。

節税目的だけで始めない

不動産投資において節税は大きなメリットのひとつですが、それだけに心を奪われるのはリスクがあります。新築のマンションで大きな節税効果が望めるのは初年度だけで、長くは続きません。

木造の築古物件は節税効果が出やすいとはいえ、減価償却期間が終了して黒字転換すれば、不動産投資での節税は見込めなくなります。思ったような節税効果が出ないと、後悔することも。

そこで、不動産投資の大きなメリットである、長期的に安定した収入を得られることにも目を向けましょう。ローンの返済を完了すれば、その後の家賃収入のほとんどが収益になり、毎月安定した収入が入ってくることになります。それほど節税はできなくても、副収入を得られる安心感は大きいはず。

物件選びに気を付ける

節税目的で考えたとき、「どのような物件でもいいから節税に利用しよう」と考えるのは危険です。不動産投資における主なリスクに、空室リスクや家賃減額リスクがあります。立地が良くないと入居者が十分に集まらず、収益どころか負債が膨らんでしまう可能性があります。

人気のない土地は家賃相場が下落し、投資している物件においても、入居者から家賃減額の要求があるかもしれません。築古物件は節税効果が出やすいとはいえ、新築や築浅の物件より人気は低いです。

木造物件はSRC造など他の構造と比較すると、火災や地震など災害に弱い傾向があるので注意が必要です。どの場所にどのような物件を建てるのか、慎重に考えてから決めましょう。

購入する前から出口戦略を検討する

不動産投資を始める前に、最終的に物件をどう処分する予定にするのか、出口戦略を考えておくことも重要です。物件の売却をする場合は、譲渡所得税がかかります。

短期譲渡所得税は特に税率が高いため、基本的に長期譲渡所得税で考えることになります。その場合は最低でも5年は物件の所有を続けることが必要です。譲渡所得税を支払うことで、それまでの節税効果が帳消しになってしまわないか、事前にチェックしておきましょう。

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