長崎大学病院「災害医療支援室」 コロナ禍の物資調達、連絡調整担う

新型コロナウイルス禍で不足したフェースシールドを手作りする職員=長崎大学病院

 災害時に迅速に対応するために医療機関はどう備えたらいいのか。長崎大学病院(長崎市坂本1丁目、中尾一彦病院長)は「災害医療支援室」(室長・松尾孝之副病院長)を設置し、医療活動を支援する人材の育成や訓練に取り組んでいる。常駐職員はおらず有事に集まる縁の下の力持ち的な存在。新型コロナ禍では、不足する医療物資の調達や連絡調整業務を担った。医療チームを陰で支える現場を訪ねた。

■熊本地震を受け
 災害医療支援室の山下和範副室長によると、発足のきっかけは2016年に県内外で起きた二つの災害だった。災害時には医療活動を支えるロジ(ロジスティックス=兵たん)と呼ばれる業務調整員が必要で、被災地では医療チームの宿泊手配や交通手段の確保、連絡調整などを担っている。
 同年1月、長崎市内は大雪に見舞われ、帰宅困難な職員が出て宿泊施設の確保に追われた。3カ月後には熊本地震が発生し、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員である山下副室長は県庁で調整業務を担った。その後、現地にも支援に入り「災害時に迅速に動ける部署が必要と感じた」という。
 長崎大学病院は、災害時に24時間態勢で患者を受け入れる県内の災害拠点病院(13カ所)のうち、県全域をカバーし、拠点病院などへの教育も担う基幹災害拠点病院(2カ所)に指定されている。熊本地震を受け、17年秋には災害医療支援室準備室を設置し、18年4月に同支援室が発足した。
 メンバーは医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員の5人。本来業務と並行して、平時は病院の災害対応能力を向上させるため、業務調整員を育成している。17年度から3年間で約40人を養成した。
 大雨や台風などの有事には県や市と連携して情報共有を図っている。

■防護具を手作り
 自然災害だけでなく、新型コロナウイルス禍でも医療現場を支えた。
 4月上旬、医療従事者が身を守るマスクやフェースシールド、ガウンなど個人防護具はなかなか手に入らない状態だった。そのためコロナ対策を担う感染制御教育センターは苦労し、資機材を仕入れる管理部門は「8時間の勤務時間中、6時間ぐらい調達の仕事に追われ、疲弊していた」(山下副室長)。
 長崎大学病院はコロナ禍を「災害」と捉え、4月16日に災害対策本部を立ち上げた。その後、長崎市に寄港したクルーズ船コスタ・アトランチカで乗組員149人が集団感染した。
 患者が急増した場合、医療スタッフはどう配置するのか。重症者向け人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の運用や手術はどうするのか。備えが必要だった。
 事務的な業務を引き受けた災害医療支援室は、コロナに関する情報を1カ所に集める役割を担った。支援室以外の職員も当番で応援に入り、マスクやガウン、検体採取に使う綿棒など消耗品を調達。フェースシールドは手作りした。感染者らを診療した医療スタッフの宿泊施設も確保した。
 海外の乗組員がいるクルーズ船対応では言語の問題もあった。大学病院に入院した感染者の出身国の総領事らが来た際は、船会社との連絡調整業務を担った。
 病院内の調整では外来患者への対応や掲示物の準備、感染制御教育センターからの情報発信もした。
 中尾病院長は同支援室について「早い段階から自主的に動いてくれた。通常業務がありながら物質的な災害に対応するのは難しい。ノウハウがあり、非常に機能した」と評価する。

■外部との連携を
 災害対応は医療だけでは解決しない。2次的な健康被害を防ぐためにも保健、福祉分野の外部機関と連携する必要がある。
 山下副室長は外部連携について「平時から顔の見える関係をつくれば有事にスムーズに動ける」と指摘。県や市町、保健所、医師会、リハビリ関係団体、薬剤師会、看護協会などとのミーティングを提案する。
 県の担当者も理解を示し、研究との位置付けで民間団体の助成金を活用し、関係機関が集まる会議を開く予定だ。県医療政策課の長谷川麻衣子医療監は「災害時に各機関が一堂に集まって対応すると混乱する。どう連携して動くか。課題を整理して仕組みを考えたい」と話す。 

 


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