「屋内施設の原則禁煙」と「新型コロナ」のWショック! タバコとの付き合い方をリノベーションしてみたら…

リノベーション──一般的には「住まいの改修・改善」のことをこう呼びますが、空間環境だけではなく日常生活全般をもリノベーション(改革・刷新)すると、QOLはよりいっそう向上していくはず。LogRenoveは、日々の何気ない暮らしのなかで、我々が直面するさまざまな悩みの解決策を、斯界の識者とともに探っていきます。さあ、私たちと一緒に「ライフスタイルのリノベ術」を追究していきましょう。

Q.昨年末、都心郊外にマンションを購入して引っ越したのですが、新居のベランダで喫煙していると、隣の住人から「タバコの匂いがウチまで漂ってくる」とクレームをつけられてしまいました。3歳になる娘がいるため、換気扇の下で吸っていても妻に叱られ、しょうがないから在宅中は駅前にある喫煙所まで、徒歩10分かけて通っています。今年の4月になってからは、ほとんどの飲食店でもタバコが吸えなくなって、オマケに新型コロナショックの影響で、どこの喫煙所も封鎖され、喫煙可の場所を探すのも一苦労…。世間では「喫煙者はCOVID19が重症化しやすい」とも言われており、ここ数ヶ月で何度も禁煙を決意したものの、どうしてもやめることができません。10月からまたタバコの料金が上がるみたいだし、やはり最後の手段として「禁煙外来」に頼るしかないのでしょうか?(36歳・既婚男性/地方公務員)

喫煙大国・日本でも、もはや5人中4人が非喫煙者!

まずは、日本の喫煙事情から。2020年2月に更新された厚生労働省の『最新たばこ情報』によると、そのおおよそな“現状”は以下のとおりになります。

現在習慣的に喫煙している者の割合は、17.8%であり、男女別にみると男性 29.0%、女性 8.1%である。この10年間でみると、いずれも有意に減少している。年齢階級別にみると、30〜60歳代男性ではその割合が高く、約3割が習慣的に喫煙している。

成人男性の喫煙率は、減少し続けているが、諸外国と比べると未だ高い状況にあり、約1400万人が喫煙していると推定。

現在習慣的に喫煙している者が使用しているたばこ製品の種類は、「紙巻きたばこ」の割合が男性77.0%、女性84.9%であり、「加熱式たばこ」の割合が男性30.6%、女性23.6%である。

「成人男性の喫煙率は諸外国と比べると未だ高い状況にある」とは言え、「日本人の約5人中4人がもはや非喫煙者」だという事実を踏まえれば、副流煙問題の深刻さをも含め、年々スモーカーの肩身が狭くなってきていることに間違いはありません。

しかも、今年の4月に施行された『改正健康増進法』の一環となる「飲食店をはじめとする屋内施設の原則禁煙」(※東京都は『受動喫煙防止条例』)によって、タバコが吸える飲食店や公共施設内での喫煙スペースは激減。さらには、新型コロナウイルス感染防止のため、屋外の喫煙所も軒並み閉鎖となってしまい、まだ正確な数字こそ出ていませんが、“コロナ以降”は「これを機会に禁煙しよう」というスモーカーも増え、より劇的に喫煙率は低下すると予測されます。

4月以降も「タバコが吸える飲食店」が実在するカラクリ

いっぽうで、前述した厳しい規制の目をかいくぐる「喫煙OK」な喫茶店やカフェ、バーも少なからず実在します。そして、この期に及んでどうしてもタバコがやめられない愛煙家の皆さんは、こうした「スモーカーのオアシス」的な空間を、あるいは最低限でも店内に喫煙ブースを設置していたり、エントランス前に喫煙スペースがあるお店を探し求め、日夜彷徨い歩いているのです。

では、いったいどのような飲食店が、今でも店内で堂々とタバコを吸うことが許されるのでしょう? これからも細かい“改正”は行われるでしょうが、2020年9月の時点で、以下の条件を満たしているお店は「喫煙OK」をチョイスできる“権利”を得ることができます。

• 客席面積100平方メートル以下
• 資本金5000万円以下
• 既存店(2020年3月31日までに開業)
• 個人・家族経営など従業員がいない

また、上記に該当しない飲食店でも、

1. たばこの小売販売業の許可を取るか、許可業者から出張販売を受ける(=たばこを対面販売する)
2. 米・パンなどの主食を提供しない
3. 未成年を立ち入らせない

……の条件と、換気に関する一定の基準を満たし、出入り口などに容易に「喫煙目的室(店)」だと識別できるステッカーを貼れば、たとえば「シガーバー」のように「喫煙を主たる目的とするバーやスナック、喫茶店」と見なされ、店内での喫煙が可能になるらしく、その手続きはJT(日本たばこ産業株式会社)が窓口となって、気軽に相談に乗ってくれるみたいです。

ちなみに、ここでの「主食」とは「社会通念上主食と認められる食事」のことを指し、米飯類・パン類(菓子パン類を除く)・麺類・ピザパイ・お好み焼き……などが一応これらに当たります。ただし、「主食の対象は各地域や文化により異なるものであることから、実情に応じて判断するもの」とされており、あと、ご飯やパスタでも電子レンジでの加熱なら大丈夫……なんだとか。かなりあやふやな部分が多い、不思議な条例ですね(笑)。

ヘビースモーカーのほうが「禁煙外来」は成功しやすい!?

加えて「喫煙者はCOVID19が重症化しやすい」との風評が定説化しつつあり、トドメが2020年10月1日より実施される、たばこ増税に伴う、タバコの値上げ! JTの発表によると、加熱式タバコ48銘柄・紙巻たばこ136銘柄に加え、葉巻たばこ16銘柄・パイプたばこ3銘柄・刻みたばこ3銘柄・かぎたばこ18銘柄の合計224銘柄が値上げの対象になるそうです。ポジティブな見方をすれば、そんな今こそが“愛煙家が禁煙に踏み切る”またとないチャンスなのかもしれません。

なのに、こんなにまでスモーカーにとっては悪条件が重なるさなかでも、「やっぱりやめられない!」と嘆く(相談者を含む)あなたは、今一度「禁煙外来」を見直してみてはいかがでしょう?

禁煙外来に詳しい『医療法人 仁友会 仁友クリニック』の杉原徳彦院長は、「チェーンスモーカーレベルの喫煙者のほうが、むしろ禁煙外来は効果的」と指摘します。

「禁煙できないのは『ニコチン依存症』という一種の病気です。だけど、すべての喫煙者が『依存症=ニコチンがなければダメ』というわけではない。たとえば、朝起きてすぐタバコに火をつけてしまうような人は明らかにニコチン依存症ですが、朝食を食べてコーヒーを飲むときに一服、あるいは一日平均10本〜1箱程度で、お酒の席だと増えちゃうかも…みたいな人や、新幹線や飛行機に乗って吸えなくても全然平気な人の場合は、依存症とまでは断言しきれません。単に『タバコを吸う』という行為に満足しているだけ。そして、この『タバコを吸うことに満足しているだけの人』は“病気”ではないゆえ、禁煙外来では逆に失敗するケースが多いのです」(杉原院長)

「タバコを吸うことに満足しているだけの人」、すなわち「軽度のスモーカー」であるあなたは、とりあえず「タバコ以外でなにかリラックスできる物や行為」を探してみましょう。「タバコはイライラを解消してくれる」と感じるのは勘違いでしかなく、ニコチンにはそういったリラックス作用は認められていません。ガムやキャンディを口にしたり、もしくは深呼吸をしたり、身体を動かしたり……。これは「代替療法」と呼ばれている初歩的な禁煙法のひとつです。

禁煙補助剤『チャンピックス』による禁煙外来のおおよそな流れ

次に、「代替療法なんかでタバコがやめられたら苦労はしない!」「仮に、たばこが一箱1000円まで値上げしても、やめられる自信がない…」と、さじを投げる、ニコチン依存症レベルのスモーカーであるあなたのために、杉原院長から禁煙外来のおおよそな流れを教えていただきました。

「禁煙外来は、経口禁煙補助剤『チャンピックス』(ファイザー製薬)を処方するのが通常です。薬価こそ少しずつ下がってはきていますが、その治療法自体は(日本で)発売された2008年から変わっていません」(杉原院長)

『チャンピックス』とは、大雑把に説明してしまえば「タバコを吸うことへの満足感をブロックすることによって、タバコを吸ってもあまり満足できなくなり、タバコの味自体も不味く感じるようになる」効能を持つ薬のこと。早い話が「服用すればタバコがイヤになる」わけです。

最初は、カウンセリングから。前述したような“喫煙の現状”をじっくりと聞き出し、「あなたくらいの軽度な喫煙者だと成功しないかもしれませんよ」ということはハッキリ申し伝える……とのこと。

「本人の、禁煙に対する意志を確認することも大切です。『やめられたらいいかな…』程度なのか、『絶対にやめたいんだ!』と強い思いがあるのか? 当然、後者のほうが成功率は高くなります」(杉原院長)

そして、口内の「一酸化炭素」の濃度を測定。この濃度は喫煙者ほど高い数値になるため、然るべき数値が出たらチャンピックスを処方する……。時間にすれば1時間弱といったところでしょうか。

次回の診察は約2週間後。それまでは別に何本タバコを吸っても大丈夫。基本は「吸ったから」といって叱られることはありません。

「でも、1ヵ月ごとの診察になる3回目、4回目あたりになってくると、大半の人たちは気持ち悪くて吸えなくなるんです。『もう吸ってません』という回答が大半になって…。したがって、禁煙外来の期間は平均して約3ヶ月ということになります」(杉原院長)

禁煙外来の成功率は、一般的には約70%と言われています。治療が終了した直後だと90%に近い成功率を掲げる病院もあるのだそう。しかし、「やめることができてから、しばらくしてまた吸ってしまう」というケースは、この「90%」には入っていません。そういう人たちを含めると、70%あたりの数字に落ち着くのかもしれません。

「しばらくしてまた吸ってしまったら、元の木阿弥です。なぜなら、薬はすでに効いていないから。禁煙は『やめる』のではなく『やめ続ける』ことが大切なんです」(杉原先生)

禁煙外来は、健康保険診療なので、総額にしても1万円前後。ネットで探せば、禁煙外来を受け付けている病院はいくらでも出てきますが、「医師との相性はわりに重要」だと杉原院長は忠告します。

「カウンセリングがメインの治療ですから、やはり患者さんの話を丁寧にじっくりと聞いてくれる先生のほうがいいと思います。ゆえに、先生との会話があまりしっくり来ないときは、初診料だけを払って、キッパリ別の病院を選び直すべきでしょう」(杉原先生)

タバコは百害あって一利なし。やめられるならやめるべき!

最後に。これからのウィズコロナ時代、「タバコが我々の健康にどのような悪影響を及ぼすのか」を杉原先生に語ってもらいました。

「鼻から呼吸器すべての気道細胞の表面には『繊毛細胞』という、いわゆるゴミなどの異物を排出する“掃除係”のようなものが存在します。当然、そこにはウイルスを退治する機能もあって、喫煙はその繊毛細胞を殺してしまうのです。肺胞の組織も喫煙によって壊れやすくなり、その壊れて治らない部分にウイルスが付着しやすくなる。そして、壊れた肺胞が膨らみ、肺全体が圧迫され、血流も悪くなり、正常な組織も壊れていく連鎖反応が起きるわけです。もちろん、血流への影響は肺に限ったことではありませんので、脳梗塞や心筋梗塞の危険性も増します。肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの発症率も高くなってしまい、歯周病になりやすくなるため口臭も強くなるし、蓄膿にもなりやすい。まさにタバコは『百害あって一利なし』。やめることができるならやめたほうがいいのではないでしょうか」(杉原院長)

かつては「一日3箱のチェーンスモーカーだった」という某禁煙外来経験者は、「やめてみてはじめてわかったんですけど、非喫煙者にとってタバコの匂いって、本当に不愉快なんですよ(笑)。相当な遠距離でも匂ってくるし、喫煙しているときは、こんなに人様に迷惑をかけていたんだ…と痛感してしまいました」と、苦笑いします。

もう一度繰り返しますが、「飲食店をはじめとする屋内施設の原則禁煙」に新型コロナショック、たばこ増税……と、スモーカーにとってのマイナス要素がどんどんと積み重なる“今年”こそが、禁煙するには絶好のチャンスなのです。

取材・文:山田g事務所

杉原 徳彦(すぎはら・なるひこ)

1967年8月13日生まれ。杉医療法人社団仁友会仁友クリニック院長。医学博士。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員。江戸時代から続く医師の家系で、17代目の医師になるものとして生を受けるが、レールの敷かれた人生に反発し、高校時代は文系を選択。部活のスキーの大会で肩関節を脱臼し手術を受けたことで、医師の仕事のすばらしさに目覚め医師を志す。1994年に杏林大学医学部を卒業。2001年に同大学院修了。東京都立府中病院(現・東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科勤務を経て現職に。呼吸器のスペシャリストとして禁煙外来にも深く関わってきた。

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