見落としがちな副業の落とし穴。従業員に「副業がしたい」と言われたら?

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就業規則で「副業禁止」と書いていれば、安心?

10人以上の従業員がいる会社では、就業規則を作成し、労働基準監督署に提出する必要があります。この就業規則は一から作成するととても大変です。同業他社から借りたものを参考にした会社、厚生労働省のホームページからダウンロードして、そのまま使っている会社など、さまざまでしょう。

厚生労働省のホームページからダウンロードできる就業規則では、平成30年にとても大きな変更点がありました。それは、「副業容認」の規定に変わったことです。ただ、会社の業務上、とても副業を認められるような業務ではないことから、「副業禁止」に変更した就業規則を、使っている会社もあるでしょう。

この場合の注意点です。

副業・兼業に関する裁判例においては、就業規則において労働者が副業・兼業を行う際に許可等の手続きを求め、これへの違反を懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていないという場合があります。

つまり、頭ごなしに「就業規則に禁止と書いてあるから、懲戒規定に基づいて処分する」とは言えないということです。

仕方ないので「副業容認」にしてみたら

就業規則はあるものの、以前に作ったものでそこからアップデートされていない、もしくは10人未満で就業規則の届出義務がないので、口頭で「副業禁止」と言っていたものの、書類での明文化がされていないケースもあるでしょう。

そんな場合に、残業代が減って、このままでは生活できないという従業員の意思を汲んで、副業容認に切り替わった、などやむを得ない対応をしなければならない事情も出てくるかもしれません。

ただ、今回のガイドライン案を見てみると、以下のように書いてあります。

「時間外労働(労基法第 36 条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(同条第6項第2号及び第3号)については、労働者個人の実労働時間に着目し、当該個人を使用する使用者を規制するものであり、その適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間が通算される」

要するに、A事業所、B事業所それぞれで働いていると、原則として労働時間は通算されるものの、それぞれ決められた範囲内で働かせている限りは、「労働基準法を順守している」ことになるというモデルが示されたのが一番の特徴といえるでしょう。

では、実際の管理モデルとはどのようなものでしょうか。参考まで抜粋してみます(出所:令和2年8月27日労働政策審議会労働条件分科会において、改訂版案)。

パワハラととられかねない言動に気を付ける

2020年9月からは、複数事業場で働いているときに労災事故が発生した場合でも、複数事業所の賃金通算ができるようになりました。政府としても、このようなガイドラインを発表するということは、副業、兼業を推進する方向に変更はないでしょうし、今後も、労働者側からの副業の希望が減ることはないでしょう。

ただ、会社側からすると、仕方なく容認した副業でけがをされても困るし、と渋るのも当然です。といっても、副業をするのなら、「会社を辞めてもらう」「賃金を減らす」「仕事を異動してもらうことになるけど」などの発言を簡単に言ってはいけません。

厚生労働省が7月1日に公表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、「いじめ、嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が前年度比5.8%増で8年連続トップとなっています。

また、都道府県労働局長による助言、指導の申出件数も「いじめ、嫌がらせ」が2592件で7年連続トップとなっています。

令和2年6月に職場のパワーハラスメントの防止対策等が法制化されていますが、今回は新型コロナウイルスの影響で業績の悪化した企業も増えていますから、今後、さらにちょっとした会社側の言動が紛争に発展するということも珍しくなくなるかもしれません。

「ちゃんと仕事もしていないのに、副業までされても」と思ったとしても、言わないのが無難です。原則、副業禁止としていても、「職場秩序に影響せず、労務提供に支障がないほどの」働き方かどうかが争点となります。

企業側からすると、経営も大変な時に、そこまで従業員に気を使わないといけないのかと思うかもしれませんが、不用意な言動は、企業に訴訟リスクという悪影響をもたらします。会社としては、当然に、副業を希望する従業員が増えることを想定した労務管理を、考えていくべき時代になってきたのでしょう。

執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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