女性の権利を訴え続けた米最高裁判事ギンズバーグが死去 トランプ政権ますますの保守派偏重化に懸念

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米連邦最高裁判事で最高齢のルース・ベーダ―・ギンズバーグ(RBG)氏が9月18日、転移性膵臓がんの合併症のため死去した。87歳だった。

彼女の亡くなった一報が入ると同時に、米マサチューセッツ州やバーモント州など民主党の金城湯池地域に住む筆者の友人たちがフェイスブックやツイッターなどで、彼女への追悼メッセージを一斉にアップし始めた。私も、既存のニュースメディアの前に、SNSを通して、彼女の死の詳細を知った。

9人いる米最高裁判事の中でももっともリベラルな判事だったRGB。女性の権利を擁護し、妊娠中絶問題では女性の選択の自由を支持、LGBTカップルの結婚する権利も支持する立場で評決に臨んだ。そんな権利のために情熱を持って戦う姿が社会正義を訴えながらも不公平感を感じる、若者たちのハートを掴み、ちょっとしたロックスター並の人気者となる。伝説のラッパー「Notoriousノートリアス(悪名高い)・B.I.G」をもじり、「Notorious R.B.G」と若者たちから呼ばれ、彼女の顔写真入りのTシャツ、マグカップや人形などが売れた。熱狂的なファンは腕に彼女の顔の入れ墨をした。ハロウィーンの仮装で、彼女を真似る子供たちも多数いた。

そんな彼女の後任を巡る人事が11月3日の米大統領選を前にちょっとした大ごとになっている。我々、平均的な日本人は自分の国の最高裁に誰が判事でいるかも知らない。まして、その判事がどういうプロセスで選ばれるのかも知らされていない。

一方の米国では、大統領が最高裁判事を指名するが、それを承認するかどうかは上院が投票で決める。指名承認のための公聴会はテレビで放映されるだけでなく、各報道機関が大々的に報道するので、否応なしに多少なりともの関心を持つ米国民の知るところとなるわけだ。

それでも、後任の最高裁判事を巡る人事と米大統領選がどう関係あるのかの疑問は残る。その大きな理由の一つに、米国の最高裁が日本とは比較にならない程の力を行政府(大統領)に対し行使できる点がある。その力の根源となるのが違憲立法審査権だ。たとえ選挙という国民の信任を得た連邦議会が制定した法律であっても、違憲と判断すれば最高裁はそれを無効と宣言することができる。

だから、歴代の大統領は自分の意に沿った最高裁判事を指名しようと常に知恵を絞ってきた。しかし、憲法の規定により、最高裁の判事は原則として、その地位は終身保証されている。判事が死ぬか引退を決意しない限り、欠員は生じない。大統領がいくら意中の人を最高裁に送り込みたいと思っていても、欠員が生じるのをひたすら待つしかない。

最高裁が、大統領が推し進める政策を支持してくれるなら、これ程、力強い味方はない。しかし、事あるごとに違憲と言ってくるようでは“目の上のたんこぶ”でしかない。

大恐慌時から第二次世界大戦と、米国の最も困難な時期に大統領を務め、米史上、唯一の四選を果たした民主党のフランクリン・D・ローズヴェルト(FDR)大統領は、大恐慌の米国を救うべく推し進めたニューディール政策に批判的な、過去の共和党大統領指名の最高裁判事の影響力を弱めるべく、一策を講じた。最高裁の定員は今と変わらず9人で終身制だったがFDRは、最高裁判事が70歳と6カ月を過ぎても引退しない時は、大統領が同数を任命し、最高裁判事の総数を最大で15名まで増員できるようにしようとした。大統領が法案を提案した1937年当時、最高裁判事9人のうち6人が概に70を超えていたので、同案が通れば、これら判事たちの引退を待たずとも、FDRは政権寄りの判事を指名できると目論んだ。しかし、法案は「コートパッキング・プラン(判事押し込み計画)」として批判され、結局廃案となった。

FDRのように人気があり、選挙に圧勝した大統領でも、司法の独立性を捻じ曲げることはできなかった。ゆえに、最高裁判事の人選は今も変わらず、時の大統領の持ち合わせた運に大きく左右される。一期4年で終わった民主党のジミー・カーター大統領はそうした機会に一度も恵まれなかった。カーター氏と異なり、共和党のロナルド・レーガン大統領は指名の機会に恵まれた。1981年に、サンドラ・デイ・オコナー氏を初の女性最高裁判事に任命したのを皮切りに、アントニン・スカリア判事、ロバート・ボーク判事と計3人の最高裁判事を二期八年の任期の間に指名する。

トランプ大統領は一期目ながら、ニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノーと二人の最高裁判事をすでに指名している。判事指名ではかなり強力な勝利の女神を味方につけているようだ。もし、今回大統領が指名した保守派のエイミー・バレット連邦控訴裁判事が承認されれば、レーガンが8年かかった保守派にとっての偉業を最初の4年で成し遂げることになる。

上院で過半数を占める共和党は11月3日の大統領・上下両院の議会選挙前に、バレット氏の指名承認の採決を行いたいとしているが、野党・民主党の激しい抵抗なども予想されるので、いつ投票が行われるかは現時点では流動的だ。

しかしながら、上院の承認投票が選挙後に持ち越され、たとえトランプ氏が米大統領選に敗れた状況下でも、大統領としての任期は民主党のバイデン氏が就任する2021年1月20日まである。上院共和党も11月の選挙で過半数を失っても、今の上院(全100議席)の過半数を有する53議席は次の議会が始まる直前の21年1月3日まで保証される。選挙結果に関わらず、次期最高裁判事を指名することは十分可能だ。人工

妊娠中絶に批判的な立場を取るなど、カトリック信徒ながら、宗教右派、福音派の受けも悪くない保守派のバレット氏が承認されれば、9人いる最高裁の構成は保守派6人、リベラル派3人となる。

バレット判事はまだ48歳。先にトランプ大統領が指名した二人の判事も、ゴーサッチ氏(53歳)、カバノー氏(55歳)とまだまだ若い。少なくとも、今後数十年は保守派支配が米最高裁では続く。この場合、トランプはたとえ選挙に敗れても、保守派にとって偉大な功労者となる。

たらればの話をしても始まらないが、もし2016年の米大統領選でヒラリー・クリントン氏が勝利していれば、RGBことギンズバーグ最高裁判事は転移性膵臓がんという自らの健康状態を鑑み、早めの引退を大統領に申し出て、後任選びの道を開いていたかもしれない。保守派ながら、先に初の女性として最高裁入りしたオコナー判事は共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領(子)政権時代の2006年1月に引退している。

とはいえ、2014年の中間選挙で、共和党が上院の過半数を奪還して以降の状況は変わっていない。ギンズバーグ氏の後任にリベラル派の判事が指名されても上院で確実に承認される保証はなかった。結局、ギンズバーグ氏が心置きなく引退を決意できる環境は民主党大統領下で民主党が上院の過半数を握っている時のみだった。病魔と闘いながら、一日でも長く生き延び、トランプ大統領に新たな保守派の判事を指名させないことが、彼女が「詐欺師」とこき下ろしたトランプ氏に対して、できる精一杯の抵抗だったのかもしれない。