不動産投資家が知っておくべきキャッシュフローの重要性。その理由と対策

不動産投資(マンション投資)の成果を左右する、キャッシュフロー。物件の運営にあたって、いかに多くのキャッシュ(現金)を得られるかがオーナーの腕の見せどころです。そのためにも、キャッシュフローを正しく理解し、「現金重視の運営手法」を身につける必要があります。今回は、不動産投資においてキャッシュフローを重視するメリットや成功の秘訣、現金を効率的に増やすコツを紹介します。

キャッシュフローとは

キャッシュフローとは、一定期間内における経営資金の支出・収入を意味する言葉です。いわば「お金の流れ」であり、支出全般をキャッシュアウト、収入全般をキャッシュインといいます。不動産投資においては、運営・経営によって得たオーナー側の取り分、つまり「手持ち資金」を指す言葉としても使います。

キャッシュフローには、「いいキャッシュフロー」と「悪いキャッシュフロー」の2種類があります。優れたキャッシュフローとは、必要経費などの支出を収入でカバーできる状態のことです。反対に悪いキャッシュフローは、支出を収入のみでカバーできず、手持ち資金を投入する状態を指します。結果、不動産投資ローンに返済が滞る可能性もあります。

近年は「キャッシュフロー経営」というキャッシュフロー重視の経営手法も注目されており、事業経営における現金の重要性が再認識されています。

キャッシュフローが重要な理由

キャッシュフローの向上・改善は、不動産投資における重要課題です。手元にある程度の現金がなければ、不測の事態に対応できなかったり、資金繰りがショートしたりすることがあります。ここでは、キャッシュフローが不動産投資に与える影響と、基本的な考え方を解説します。

不動産運用を継続するため

不動産運用は、ある程度の手持ち資金がなければ行き詰まります。たとえば、月々のローンの返済です。家賃収入だけで返済が難しい場合、オーナーは手持ち資金をつぎ込んでローンを返さなければなりません。余剰金があるうちはいいものの、毎月同じ状態が続くと、いずれ手持ち資金が底を尽きる可能性も。結果、ローン返済が滞るおそれがあります。

「家賃収入が黒字なら大丈夫では?」と思うかもしれませんが、重要なのは現金にどれだけ余裕があるかです。不動産投資にイレギュラーな事態はつきもの。入居者の家賃支払いが遅延したり、設備故障にともなって予期せぬ出費が生じたりします。タイミングが悪ければ、手持ち資金で対応せざるを得ない状況に置かれます。

毎月コツコツとキャッシュフローを積み立てておけば、不測の事態が発生しても現金で対応できます。不動産運営を継続させるためにも、現金(キャッシュフロー)は必要です。

給与収入を使わないようにするため

本業を抱える「サラリーマン大家」の場合、「資金が不足したら自己資金でまかなえばいい」と思いがち。しかし、不動産投資は事業経営の一種。本業の給与収入に手を出さず、事業収支だけで資金をやりくりするのが理想です。

そもそも、キャッシュフローがプラスなら、給与収入や生活資金を投入せずに済みます。サラリーマン大家にとって、不動産投資は副業に過ぎません。資金繰りの苦しさから融資を受けたり、自己資金をつぎ込み続けたりした結果、本業や生活に支障をきたす可能性があります。計画的な不動産運用でキャッシュフローを積み立て、プライベートの資金投入は避けるようにしましょう。

売却時の査定に有利になるため

キャッシュフローに優れる物件は、「期待収益率の高い物件」とも言い換えられます。その基準となるのが、家賃収入です。家賃収入は、物件売却時における査定額の試算に使われます。安定的な家賃収入が見込める物件ほど、高く売れる可能性があります。

キャッシュフローと家賃収入は、相関係数にあります。リフォーム・リノベーションによる所有物件の質・魅力の向上、管理会社と連携した空室対策など、家賃を下げない取り組みがキャッシュフロー、ひいては物件価値の向上につながります。

キャッシュフローは不動産運用費に充てる

積み立てたキャッシュフローは、不動産運用費に充当するのが基本です。具体的にどのような使い方をするのか、4つの費用について見ていきます。

空室時の補填

不動産運営は空室との戦いです。所有物件に空室が生じた際、家賃収入が減るのは当然のこと。オーナーは住宅ローンの返済や物件管理・維持費を、家賃収入以外でカバーしなければなりません。この場合、積み立てたキャッシュで支払う形となります。

空室期間に比例し、オーナーの持ち出し金額は大きくなります。毎月数万~数十万円の継続的な支出が発生することもあるため、多くの現金を手元に残すことが大切です。

金利上昇時のリスク回避

超低金利時代の今、その恩恵にあずかって不動産投資をはじめる方が増えています。一方で、いつまで低金利状態が続くかはわかりません。将来的に金利が上昇した場合、借入返済金における金利部分が高くなり、トータルの支出負担が大きくなります。

金利はコントロールできないため、何らかのリスク回避手段が必要です。不動産投資家が取り組める対策として、「自己資金を増やす」か「固定金利を選ぶ」の2種類があります。

前者はシンプルで、増加した金利分にキャッシュフローを充当する形です。長期的に見ると潤沢な現金が必要なものの、そのためにキャッシュフローを積み立てることになるため、有効な使い方といえます。

後者は、変動金利の投資用住宅ローンを固定金利に切り替える方法です。現状、固定金利は変動金利に比べ、適用金利が高く設定されます。しかし、過去には変動金利よりも短期固定金利の適用金利が低かった時代もあり、一概に「固定金利=損をする」とはいえません。将来的に適用金利がどう変わるかはわかりませんが、切り替えのタイミングは慎重に判断すべきです。

修繕費の補填

設備の修理が必要になった際に、修繕費を不動産収入でまかなえるよう資金を残しておくことが重要

所有物件の設備が故障した際、積み立てたキャッシュフローで修繕費を支払いします。修繕費は相応の額となるため、ある程度まとまった現金が必要です。不測の事態の発生に備え、手持ち資金をより多く残しておきましょう。

場合によっては火災保険が適用され、その補償金でカバーできることがあります。ただし、保険会社による補償金は支払いタイミングが遅くなりがちです。補償金が入金される前に、手元の現金で修繕費を立て替えることになります。

不動産運営における支出は、総じて経費扱いとなります。経費を自己資金から支払わないようにするのが基本であり、もっとも重要なポイントです。

固定資産税の支払い

不動産運用上で発生する各種税金も経費扱いとなります。たとえば、年に一度課せられる固定資産税。オーナー個人が所有する物件に課せられるとはいえ、固定資産税は「不動産投資にともない発生する経費」に過ぎません。そのため、事業で得たキャッシュで支払うのが理想です。

キャッシュフローの計算方法

ここでは、キャッシュフローの基本的な計算方法を紹介します。正しい計算方法を身につけ、今後の不動産運用に活かしましょう。

帳簿上の利益とキャッシュフローは異なる

投資用住宅ローンを組んでいる場合、確定申告上は黒字でも、キャッシュフローは赤字になるケースがあります。あくまでもキャッシュフローはお金の流れに過ぎず、帳簿上の「利益」とは異なります。

ここでいう利益とは、帳簿上で発生する 「儲け」のこと。一般に収益は、事業で得た「売上」を指し、費用には経費全般や減価償却費などが計上されます。ポイントは、利益を算出する収益と費用が「発生主義」で計上されることです。

発生主義とは、現金のやりとりの有無に関わらず、取引が発生したタイミングで収益・費用を計上する考え方のこと。これは裏を返すと、会計上の収益・費用が、現金の収入・支出と一致しない可能性があるということです。利益ばかりに注目した場合、黒字決算なのに倒産する、いわゆる「黒字倒産」が起きやすくなります。

対するキャッシュフローは、家賃収入をはじめとした「現金収入(キャッシュイン)」から、住宅ローン返済などで支払う「現金支出(キャッシュアウト)」を引き、現金取引の流れを視覚化します。利益とは違い、「現金主義」での算出となります。

キャッシュフロー=家賃収入-(運営経費+ローン返済額+税金)

不動産投資におけるキャッシュフローは、次の計算式で算出します。

キャッシュフロー=家賃収入-(運営経費+ローン返済額+税金)

家賃収入から不動産運営に必要な費用を差し引き、手元に残った現金がキャッシュフローとなります。ここでいうローン返済額とは、ローン元本と借入額に対する利子を足した金額です。

現金取引が行われない費用(減価償却費など)は計算に入れず、実際にお金の動きがあった項目のみ記録します。これにより、キャッシュフローを正確に算出できます。収入・支出それぞれにどのような費用が含まれるのか、以下で解説します。

家賃収入

家賃収入は、アパートやマンションなどの賃貸経営によって得る売上のことです。厳密には共益費や賃貸借契約時の更新料、礼金なども家賃収入に含まれます。運営経費を引いたものを「不動産所得」といい、所得額に応じて住民税が課せられます。

経費

不動産投資における運営経費には、以下の費用が含まれます。

・各種税金(不動産所得税・固定資産税など)
・保険料(火災保険・地震保険など)
・所有物件の減価償却費
・修繕費や修理代(部屋のクリーニング代・設備の交換費など)
・管理会社に支払う管理委託料
・住宅ローンの利息部分
・税理士・司法書士への報酬金

基本的な認識として、「不動産運営に関わる費用」は全般的に経費計上できます。一方で、納税義務のある住民税・所得税や、不動産投資に無関係な費用(家族旅行の費用など)は運営経費に相当しません。「○○は費用、○○は経費にならない」と、各費用の扱いを把握しておくことが大切です。

返済

投資用住宅ローンを組んでいる場合、借入金の支払いを毎月行います。実際に支払うのは「元本+金利」です。元本部分は認められませんが、利息部分は経費として計上できます。キャッシュフローの50~60%の割合を占める支出で、ローン返済額を減らした分だけ、より多くのキャッシュフローが得られます。

税金の算出は複雑

キャッシュフローの正確な算出には、各種税金を考慮した計算が必要です。一方、税金を考慮すると算出が複雑化するのも事実です。たとえば、所得税には、課税所得金額(不動産所得)に応じて税負担が重くなる累進税率を採用しています。

令和2年分所得税の税額表

※給与所得者と税(国税庁HPより)

課税所得金額に応じて5~45%、計7段階の税率が設定されています。「税金は経費にできる」とひと口にいっても、実際に納める金額は細かく計算しなければなりません。

同じく不動産所得税は「固定資産税評価額×4%」、固定資産税は「固定資産税評価額×1.4%」と個々に課税標準額と税率が設定されており、軽減措置まで考慮すると、計算がさらに難しくなります。キャッシュフローの計算が困難な場合、シミュレーションサイトを使うのがおすすめです。

シミュレーションサイトを使う

シミュレーションサイトを使えば、購入前の検討物件のキャッシュフローを比較できる

大手銀行の公式ホームページや不動産投資サイトでは、キャッシュフローシミュレーターが利用できます。物件価格・想定利回り・構造・築年数・建物面積の5項目を入力するだけで、各年の想定キャッシュフローを計算できる優れものです。

サイトによって機能はまちまちで、最近は「オリックス銀行」のように、AIを搭載したシミュレーターも登場しています。簡単な操作で最長50年間のキャッシュフローを試算できます。

シミュレーションサイトの便利な点は、検討物件の比較に活用できることです。複数の物件情報を入力してキャッシュフローを算出し、もっとも投資効率に優れる物件を探してみましょう。

キャッシュフローを多くするための6つの対策

ここでは、キャッシュフローを多くするための6つのポイントを紹介します。以下の情報を参考に、より多くのキャッシュフローを継続的に積み立てていきましょう。

ポイント1:頭金を多く用意してローン返済額を減らす

キャッシュフローが悪化する根本的な原因は、「支出の増加」にほかなりません。なかでも大きいのが、投資用住宅ローンにおける借入金の返済です。月々の負担を減らすためにも頭金を多く用意し、ローン返済額を減らすなどの工夫が求められます。

投資用住宅ローンのなかには、融資率によって金利が変動する商品もあります。融資率は住宅ローン借入額、つまり「購入予算」で決まります。頭金が多ければ購入予算が増え、実質的に融資率が向上。結果、金利が低下し、月々の返済負担も軽くなります。このメリットにより、十分な頭金を自己資金でまかなえるまでは、物件購入を見送るのも有効です。

ポイント2:ローン返済を長くして月々の負担を減らす

キャッシュフローを多く得るには、月々のローン返済額をいかに少なくするかが鍵となります。方法はさまざまですが、「ローンの返済期間を長くする」のもひとつの手です。ローン期間は長くなるものの、その分だけ毎月の手残りも多くなります。キャッシュを多めにプールしておきたい方におすすめの方法です。

ポイント3:家賃収入を増やす

支出を減らすと同時に、家賃収入も増やす工夫が必要です。家賃収入を左右するのは、所有物件の空室率。空室対策こそが家賃収入、ひいてはキャッシュフローを増やす近道といえます。広告宣伝に力を入れたり、リフォーム・リノベーションで物件の魅力を高めたりと、さまざまな対策で入居者を募りましょう。

ただし、空室が目立つからといって、安易に賃料を下げるのは避けたほうが無難です。物件自体の収益性が低下するほか、将来的に手放す際の売値・資産価値にも影響します。一度下げた賃料を戻すの困難なため、家賃を下げないよう心がけましょう。

ポイント4:物件ごとのキャッシュフローの特徴を理解する

中古物件、新築物件のそれぞれのキャッシュフローの特徴を理解すると、物件選びの参考になる

キャッシュフローには、中古物件・新築物件ごとに異なる特徴があります。以下のメリット・デメリットを把握し、キャッシュフロー重視の物件選びを行いましょう。

中古物件

一般的に中古物件の方が、キャッシュフローを得やすい傾向にあります。新築物件は家賃収入こそ高いものの、物件価格の影響で収支が乱れがちです。結果、安定的なキャッシュフローの確保が難しい側面があります。キャッシュフロー重視で物件を選ぶ場合、築年数の長い中古物件から探すことをおすすめします。

新築物件

新築物件は長期ローンを組みやすく、月々の返済負担を軽くできるメリットがあります。ただし、先述した収支が乱れやすいデメリットもあるため一長一短です。ローンの借り換えや繰り上げ返済を検討し、物件購入後に収支を改善していきましょう。

ポイント5:借り替え、繰り上げ返済も検討する

住宅ローンの返済負担を減らすには、物件購入後のローン借り換えや繰り上げ返済が有効です。借り換えとは、現在契約している住宅ローンとは別に新しいローンを組み、返済中の住宅ローンを一括返済すること。

より金利が低いローンに借り換えれば返済負担が減り、キャッシュフローを改善できます。これは繰り上げ返済も同様で、月々の返済負担が減り、手残り金を確保しやすくなります。

ポイント6:委託先の管理会社をしっかりと選ぶ

不動産投資はパートナー選びが重要です。高い入居実績率を誇る不動産会社や管理能力の高い管理会社と連携し、効果的な空室対策を講じましょう。特に管理会社選びは重要で、入居率99%を超える会社も少なくありません。しっかりとした管理会社に業務を委託し、安定的に家賃収入を得ることができれば、自ずとキャッシュフローも改善されます。

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