【リフォーム産業新聞社に聞いてみた】愛するペットのため、自分の好きなことのため――リフォーム、リノベの傾向が変わってきてる?

リフォームやリノベーションは、住空間を心地よく便利な空間にするだけでなく、住む人のライフスタイルそのものを見直すきっかけになります。なかには、リフォーム、リノベーションによってその後の人生が大きく変わったり、生きがいが見つかったりする人も。そんな、「生き方リノベーション」をした人について詳しく知るためにお話を聞いたのはリフォーム産業新聞社『リフォマガ』編集長の川村史子さん。リフォーム業界歴14年のベテラン編集者です。自身も5歳のお子さんを育てるワーキングマザーとして、生活者目線で多くのリフォーム取材をしてきた川村さんに、印象に残ったエピソードを聞いてみました。

リフォームやリノベーションをする人の中には、本当に自分の好きなことを突き詰め、やりたいことをやろうと実践していく人が増えたように感じる、という川村さん。今回は、そんな好きなことを追求し、リフォーム、リノベーションで夢を実現した二人の女性のエピソードをご紹介します。

37匹の猫(!)のためにリノベーションした40代女性

コロナ禍の外出自粛やテレワークなどで、家で過ごす時間が長くなったことからペット需要が高まり、犬や猫を飼う人が増えているといいます。川村さんによると、ペットとともに快適な住空間を追求したいという思いから、ペットを飼っている人からのリノベーション需要も増えているそうです。

「ペットの中でも特に猫のためにリノベーションをしたいという依頼は多いですね。家の中で猫を飼っていると家の消耗が激しいので改修したい、猫が家の中で運動できるようなつくりにしたい、壁や床を掃除がしやすい素材にしたいなど。猫のため、というのはもちろんですが、飼い主である人間も楽しく快適に過ごしたいという希望が多いと思います」(川村さん)

そんな猫のためのリノベーションの中でも圧倒的なスケールなのが、37匹の猫と暮らす40代の女性の話です。

「14年前に迷いネコを1匹引き取ったことがきっかけで、その後も野良猫を助けたり、人に頼まれた猫を引き取ったりしているうちに37匹にまで増えてしまったのだそうです。宮島の近くに住みたいと、築30年の中古の戸建てを購入。地方への移住も近年注目されていますが、リノベーションも同時に実現したことになりますね」(川村さん)

猫と人にとって理想の住まいを作るための移住、リノベーション。37匹の猫が住むとなると掃除の手間もかかります。床は掃除がしやすいように防水のビニール製、爪とぎへの予防策として硬いメラミン素材の壁が採用されました。家でペットを飼うと臭いの問題が気になりますが、猫用のトイレスペースを1階と2階に設置。1階は、人との共用トイレにしたのだそう。

「猫の肉球を下から眺めたいという依頼は非常に多く、こちらの家でもキャットウォークの足場に透明なアクリル板を採用しています。吹き抜けを設けて、猫が自由に1階と2階を行き来できるように工夫する一方、猫が脱走しないように、リビングの窓の一部は開閉できないFIX窓にしたり、火や刃物を使うキッチンや食事をするダイニングは猫が出入りできないように鍵を取り付けるなどの対策も。猫が自由に暮らせるのはもちろんですが、人も快適に過ごせるように意識されているのが印象的ですね」(川村さん)

依頼を受けた女性のプランナーとともに、2か月かけてプランニング、工事に3か月かけたというリノベーション。猫が階段に並んだ様子は圧巻です。猫と快適に過ごすためにリフォーム、リノベーションする人はこの10年ほどで増えているそうで、猫を飼っている人向けの家具なども多く販売されていて人気があるのだとか。猫のための家具販売をしている設計事務所や、中には“猫リノベーション”専門の設計事務所まで。猫のためのリフォーム、リノベーションはまだまだ熱くなる予感がします。

中古物件をリノベーションして娘と一緒にカフェをはじめた60代女性

リノベーションで「やりたいこと」を実現したもう一人の女性が八王子にいます。中古住宅を購入してリノベーション、カフェ「Coffee Live(コーヒーライブ)」をオープンさせました。

「ご本人はもともと自宅の庭でコーヒー豆の仕入れ販売していたほど、大のコーヒー好き。娘さんはケーキ作りが趣味で、ご近所にふるまって交流を楽しんでいたのだとか。娘さんのケーキとともにおいしいコーヒーを提供できるカフェを開けたら……と思っていたところ、ご主人が定年退職をするタイミングでもあったことで背中を押されたそうです」(川村さん)

1階部分をカフェ、2階を自宅として使えるような中古の戸建てを購入したのが2005年。1階部分のみをリノベーションしました。もともとキッチンがあった場所はお菓子を作るための厨房に、押し入れがあった部分を生活用のキッチンに、お客さま用のトイレをひとつ作るなど。こうして、リビングダイニングだった1階部分は、8つの客席があるカフェにリノベーションされました。

「特に飲食店を開くときは、水回り設備を自宅用と別にしなければならないとか、看板を目立つようにしなければならないとか、細かい決まりごとがあります。特殊なノウハウを知っておく必要がありますが、すべてご自身で調べて依頼されたと聞きました。現場に何度も運んで、飾り棚の位置などの細かい部分までこだわり、設計やデザインにも手を抜かなったそうです。私が訪れたときにはハロウィンの飾りつけをされていて、とても可愛らしい雰囲気だったことを覚えています」(川村さん)

すっかり街で人気のカフェとなった八王子の「Coffee Live(コーヒーライブ)」、ランチ付きのリースづくりを企画するなどイベントにも力を入れ、地域の人々の交流の場になっているようです。

「自宅の一角をリノベーションして家族でお店を経営する、いわゆる『おうちショップ』もここ10年くらいで増えているケースです。カフェだけでなく、定食屋さんや蕎麦屋さん、雑貨屋さんなどさまざま。新たに中古住宅を購入するケースはもちろん、いま住んでいる家をリノベーションするという人も。定年後に第二の人生を楽しむのはもちろん、子育て中の女性が自宅で美容の仕事をしたり手作りの雑貨を販売するといった例もあります。特に東日本大震災以降、自分の人生と向き合ったという人の話をよく聞くようになりました。コロナ禍でまた、働き方や生き方について考えはじめたという人も多いのではないでしょうか」(川村さん)

自分の好きなこと、得意なことをマネタイズする方法が多様化する中、人生を積極的に楽しむ人が増え、それがリノベーションによって実現しやすくなっているのではないか、と川村さん。なにか不具合があったり壊れたりしたことがきっかけで住宅を改修するリフォームではなく、新しい生活や人生を見据えたポジティブなリノベーション。好きなことを追求し夢を叶えた2人の事例にリノベーションの未来が見える気がします。

取材・文:古田綾子
設計施工(猫の家):マエダハウジング

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