苦しい経営・少ない観客・昇格無しの「独立リーグ」。それでも日本野球界に絶対に必要な理由

野球・独立リーグがかつてないほどの注目を集めている。「田澤ルール」によりNPB入団を許されなかった田澤純一や、昨季台湾で現役復帰した川﨑宗則が独立リーグに参戦。2006年に世界一に輝いた侍ジャパンでの川﨑・西岡剛の二遊間コンビ復活も大きな話題となった。近年ドラフト指名を受ける選手も増えており、着実にその存在感は大きくなっている。

だがそうした話題性や存在感の高まりに反し、その実態についてまだまだ知られているとはいえないのが現状だ。独立リーグとは何か? いつから、何のために誕生したのか? どんなに勝利したところでNPBに昇格できるわけではなく、観客は少なくてチーム経営も苦しい。それでも独立リーグが存在する意義、理由とはいったい――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

ムネリンがデビュー戦第1打席の初球でホームラン!

9月13日、栃木県の小山運動公園野球場でルートインBCリーグの公式戦、栃木ゴールデンブレーブス対茨城アストロプラネッツの試合が行われた。

この試合、「2番・三塁」でスタメン出場した川﨑宗則は、第1打席の初球を強振。打球はライト芝生席に飛び込む特大弾となった。

2018年に自律神経の病気を理由に福岡ソフトバンクホークスを退団。昨季は台湾・味全ドラゴンズでプレーした川﨑にとって、この試合は実に3年ぶりとなる日本での実戦。加えて「独立リーグデビュー戦」でもあった。

今年は川﨑だけでなく、7月13日に同じくルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに田澤純一(元ボストン・レッドソックスなど)が入団。また、昨年からは川﨑と同じ栃木で西岡剛がプレーしており、2006年ワールドベースボールクラシックで優勝した侍ジャパンの二遊間コンビ復活も大きな話題となった。現在BCリーグには3人の元メジャーリーガーが選手として在籍していることになる。

このような背景からも今年は「独立リーグ」の名を目にすることが例年以上に多くなったように思える。

ただ、独立リーグの存在は知っていても、その実態や、そもそもの存在意義、野球界における役割などを把握している人は、どれだけいるのだろうか――。

2000年ごろを境に大きな転換期を迎えた日本野球界

日本野球界における「独立リーグ」とはそもそも、「NPB(日本野球機構)に属さず独自で運営しているプロ野球リーグの総称」を指す。

2020年現在、日本で活動している独立リーグは前述のルートインBCリーグと四国アイランドリーグplus、さわかみ関西独立リーグ、今年創設された北海道ベースボールリーグの4つ。「NPBに属さない」という意味では日本女子プロ野球リーグも該当するが、こちらは「独立リーグ」というよりは「女子プロ野球」という位置づけで認識されている。

独立リーグでプレーする選手たちは、「野球選手として報酬を得ている」という意味では立派な「プロ野球選手」だ。ただ、日本で「プロ野球選手」というと、やはりNPB所属選手のことを指すのが一般的で、その意味でも「独立リーグ」の立ち位置は非常にあいまいかつ不確かな部分がある。

そんな「独立リーグ」は、なぜ日本に生まれ、今も活動を続けているのか――。

2000年ごろを境に、日本の野球界は大きな転換期を迎えた。社会人野球の廃部が立て続けに起こり、「プロ(NPB)を目指す選手」のプレーする場が一気に縮小。また、2004年にはプロ野球再編騒動が巻き起こり、これを機に全国各地で独立したプロ野球のリーグ構想が一気に広がった。

2005年に四国アイランドリーグ(現四国アイランドリーグplus)が発足して以降、すでに活動を休止したリーグも含め、全国各地で独立リーグが次々と生まれたのだ。

独立リーグが無ければ、首位打者2回の角中勝也は生まれなかった

独立リーグの最も大きな存在意義は、前述のように「プレーする場所」を奪われた選手たちの「受け皿」となることだ。

過去15年間、独立リーグはその受け皿の役割をしっかりと果たし、毎年のようにドラフトで指名される選手を輩出。その中にはパ・リーグ首位打者を2度獲得している角中勝也(ロッテ)や、中日でリリーフとして活躍する又吉克樹といった、1軍の戦力となっている選手もいる。「独立リーグ」がなければ、彼らのような選手がNPB入りすら果たせなかった可能性を考えると、その存在意義は大きい。

また、近年はその役割自体も大きく二分化されてきている。一つは角中や又吉のように「NPB入りを目指す若者の受け皿」としての役割。もう一つは、「NPB復帰を目指すベテラン選手の受け皿」としての役割だ。前述した川﨑は「NPB復帰」への希望を明言してはいないが、西岡は現在も「再びNPB入りを目指す」と公言。田澤も事情は違うが、今秋行われるドラフトでNPBから指名を受けた場合、入団する可能性は高い。

実績のある元NPB選手の獲得については、一部で「若い選手のチャンスを奪う」「単なる客寄せではないか」と、創設当初の理念とは反するという意見も見られるが、年齢、キャリアに関係なく「NPB入り」を目指す選手、「まだプレーを続けたい」と願う選手に、そのチャンスと場所を提供できるのも、独立リーグがあってこそだ。

チーム運営やファン獲得に苦しみながら、それでも日本球界で担う大事な役割

しかしこの15年間、日本野球界に多大な貢献をしてきた独立リーグだが、その現状は決して「順風満帆」とはいえない。

独立リーグはその名の通り、あくまでもNPBに所属しない「独立した」プロ野球リーグ。サッカーのJ2、J3やバスケットボールのB2、B3リーグのように、勝利の先にトップリーグがあるわけではない。この現状は、当然ながらファンへの訴求にも大きく影響する。

そもそもビジネスとしての規模がNPBとは比較しようがないほど小さく、観客動員数も決して多くない。筆者も独立リーグの試合を取材したことがあるが、スタンドにいる観客の数はいつも「まばら」だ。経営そのものが苦しい球団も多々ある。

運営面での苦労も多く、ある独立リーグの関係者からは「特に設立当初は『興行屋』のような目で見られて、なかなかビジネスの話が進まなかった」「練習や試合を行う球場の確保も難しく、大学や高校はもちろん、自治体や球場と古くからお付き合いのある少年野球の方を優先されることも多い」といった話を聞いたこともある。

リーグ自体のレベルについても、そもそもが「プレーする場を失った選手の救済」が理念でスタートしただけに、正直にいうとアマチュアの一線級の選手が所属するケースはほとんどない。

当たり前の話ではあるが、プロ野球を目指すアマチュア選手は、高校から、大学から、社会人からそれぞれプロに指名されて入団することが多い。さまざまな事情があるとはいえ、独立リーグに所属する選手の多くが「ドラフトで指名されず、大学や社会人にも進むこともできなかった選手」なのは紛れもない事実だ。

実際に過去15年間、独立リーグから「ドラフト1位選手」が生まれたケースは、一度もない(独立リーグ出身者のドラフト最高順位は2013年に中日から指名された又吉の2位)。

ただ、「ドラフト1位を輩出していない」から、野球界でのプライオリティーが低いかというと、決してそうではない。

どんなスポーツでも、その競技レベルと比例するのは「裾野の広さ」だ。独立リーグが担っているのは、まさにこれである。

球界OBの掛布雅之氏、中畑清氏が語った、まったく同じ持論

ドラフト1位指名を受けるようなエリートは、確かにいない。ただ、1位指名選手だけでプロ野球が成り立つかというと、そんなことはあり得ない。

NPBでは2005年にスタートした育成選手制度からも、多くのスター選手が生まれている。これもまた「裾野の広さ」の重要性を物語っている。

独立リーグの充実と存続は、間違いなく「野球界の裾野」を広げ、ピラミッドの頂点でもあるNPBにも大きく貢献している。

となると当然、経営面、運営面で厳しい状況にある独立リーグを、どうやって維持していくかが今後の課題になってくる。

以前インタビューをしたプロ野球界のOB・掛布雅之氏と中畑清氏が、独立リーグについてくしくもまったく同じ持論を話してくれたことがある。

それが「NPBによる独立リーグの全面バックアップ」だ。

現在、NPBと独立リーグは比較的有効な関係を保っている。ファームとの練習試合や選手、コーチの派遣など、一定の交流もある。

ただ、「まだまだ足りない」というのが、掛布氏、中畑氏の考え方だ。

今のNPBの人気と隆盛は、決してNPBだけの力でも功績でもない

現実的に考えて、最も効果的なのは「資金援助」だろう。特定の球団が一部の独立リーグ球団に資金援助を行うのは、ドラフトの理念を考えても好ましくないが、例えばNPBが所属12球団から一律して「支援金」を集め、それを独立リーグに再分配するという形ならどうか。

仮に1球団1億円と計算しても、計12億円になる。現在、日本の独立リーグに所属している球団の数は、

四国アイランドリーグplus 4球団
ルートインBCリーグ 12球団
さわかみ関西独立リーグ 4球団
北海道ベースボールリーグ 2球団(※2021年からさらに2球団が参加予定)

の、合計22球団。12億円を公平に分配したとしても、1球団あたり5000万円以上の支援が可能だ。

もちろんこれに「女子プロ野球」4球団(育成チーム含む)を加えてもいいだろう。

プロ野球チームにとっての1億円は、球団経営に大打撃を与えるほどの額ではない。ただ、独立リーグ所属球団にとっての5000万円は、選手への待遇改善や設備の充実など、大きな助けになるのは間違いない。

12球団一律でなくても、例えばMLBのように選手の総年俸を基準に「ぜいたく税」のようなものを徴収してもいいかもしれない。

サッカーやバスケットボールと違って「昇格・降格」のない日本プロ野球界は、1958年から一貫して「12球団による2リーグ制」を敷き続けてきた。

しかし、現在までの野球人気とプロスポーツとしての隆盛は、決して「12球団」だけの功績ではない。

日本球界の頂点に君臨し続けるNPB12球団だからこそ、日本球界全体のために、「やれることはやる」という姿勢を、今まで以上に強く示してほしい。

その手始めとして「独立リーグへの支援」は、最善の一手のように思えるのだが、果たしてどうだろうか――。

<了>

© 株式会社 REAL SPORTS