元日本IBM女性役員がキャリアに悩む女性に伝えたい4つのアドバイス

日本IBMや日本マイクロソフトで役員を務め、現在は様々な企業の取締役として経営アドバイスを行う佐々木順子さん。女性リーダーの代表的存在ともいえる佐々木さんがキャリアに悩む女性たちへ伝えたいアドバイスとは?

著書『「あなたにお願いしたい」と言われる仕事のコツ88』(ぱる出版)から一部抜粋して紹介します。


先の心配をしすぎない

起こってもいない先々のことを心配する人がいます。よく言えば、リスク管理能力が高いとも言えますが、じつはそれによって失っているものも多いのではないかと私は思っています。

米フェイスブック社のCOO(最高執行責任者)、シェリル・サンドバーグが2010年に行った、「何故女性のリーダーは少ないのか」というスピーチがあります。そのスピーチの中で彼女は、ある若い女性に、子育てと仕事の両立について尋ねられたときのことを話しています。

このとき、「あなたの夫はそのことをどう考えているのか」と問い返したところ、「まだ結婚していません。彼氏もいません」という答えだったため、「それなら、そんなことを考えるのは、もっとずーっと後でいい」と応じたそうです。

このスピーチの中でシェリルは、女性があまりにも先々のことを考えすぎて、無意識のうちに早すぎる決断をしていることに注意を促しています。この決断というのは、子どもを持つことであったり、仕事よりも家庭や子育てを優先したりする決断のこと。

その決断は、実際にその瞬間が来たときでいい。そのときが来るまでアクセルを踏み続けなければ、あなたはさまざまなチャンスを逃すことになる、と。これには私もまったく同感です。

実際にそのときになれば、周囲の環境や仕事の状況も変わっているかもしれません。あなたの考え方も変わっているかもしれませんし、すばらしいテクノロジーが開発されて、多くの悩みが解決されているかもしれません。

それなのに、いつ実現するかもわからないことについて、くよくよ悩んだり心配したりするのは、時間がもったいないと思いませんか?それよりも、いま自分にできること、目の前にあることに集中しましょう。そして、多くのチャンスを逃さず、自分のものにしてほしいと思います。

キャリアプランにこだわらず、自分の軸を持つ

昨今「キャリアプラン」ばやりです。キャリアプランを立てる、夢に日付を入れよう、などという言葉もよく目にします。じつは私は、いつまでに何をする、といったキャリアプランは立てません。

なぜなら、たとえ達成できても、そのあとどうするのか、達成できなかったらどう修正するのか、と疑問に思うからです。そもそも自分でコントロールできないことがたくさんあるので、プランの立てようがないと思うのです。

かわりに私は、仕事を通じて達成したいこと、大切にしたいことを軸として定め、それに近づくようにするという形でキャリアを考えています。

自分の軸を大切に、ぶれないようにしていれば、そこに到達するために何をするべきかがはっきりとしてきます。たとえそのときは不本意な仕事だと思っていても、軸があれば、少しでもその方向に近づくために経験できること、学べることはたくさんあります。

私自身、そこに至るまではずっと迷い続け、やりたいことすら見つけられない自分をダメだなと思っていました。しかしあるとき、海外の女性エグゼクティブが、「私はキャリアプランを決めない。仕事を通じて達成したいことの軸を決め、フレキシブルにキャリアを重ねていく」と語っている記事を読み、「これだ!」と深く得心したのです。

以降、自分の軸は何かと考え始め、ある日とうとう、自分はさまざまな人や物を結びつける「ブリッジ」になりたい、という答えを見つけました。自分の軸を持っていると、迷ったときはその軸に近いほうへ、近いほうへと考えればいいので、判断に悩むことも少なくなります。

キャリアプランには、時に役職や給料といった物質的な目標が出てきてしまうことも多いのですが、そうした目標は、達成したその先が見えません。20代のころはともかく、30代になったら、仕事をするうえでの自分の軸を探してみることをおすすめします。そうすれば、達成の先にも続くキャリアを描くことができるはずです。

きちんと自分の価値をアピールする

日本ではよく「謙遜は美徳」と言われます。また、「女性は控えめにすべき」といった価値観も一部に残っており、女性が自分の能力をいかんなく発揮していくことは、まだまだ困難な状況と言えるかもしれません。

これは日本だけの問題ではありません。さまざまな調査により、女性は自分の能力を過小評価しがちであると言われています。こうした調査結果を見ると、男性は女性よりも積極的に自己アピールをし*、昇給の交渉をし**、たとえ採用条件に満たなくても応募しますが***、女性は自らそのチャンスを捨てているように思えます。

たとえば、あなたが仕事の成果を上げて評価されたのに、「いえ、全然たいしたことではありません」とか「私なんてまだまだ」などと謙遜していませんか?せっかくいい評価を受けたのに、謙遜するのはNGです。

「このプロジェクトではこういう部分が難しかったですが、無事に成し遂げられたのを誇りに思います。認めていただけて嬉しいです」と、自分自身の能力や価値を積極的に言語化するようにしていきましょう。

自分の価値をアピールすることは、決してはしたないことではありません。主張して当然のことです。過小評価がクセになってしまうと、そのように自己暗示がかかってしまい、いつしか大きなことにチャレンジできなくなってしまいます。

まずは、女性が自分を過小評価しがちな傾向があることを知ったうえで、自分の能力を
認めてあげましょう。そして成功体験を一つ一つ積み上げていくことで、徐々に本当の自信をつけていきましょう。

* 「女性はなぜ男性よりもセルフプロモーションに消極的なのか」 クリスティーン・エクスリー、ジャッド・ケスラー、Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー、2020年1月27日
** “Nice Girls Don't Ask” Linda Babcock, Sara Laschever, Michele Gelfand and Deborah Small, Harvard Business Review October 2003 Issue
*** “Why Women Don't Apply for Jobs Unless They're 100% Qualified” Tara Sophia Mohr Harvard Business Review August 25, 2014

人生は四季のようなもの

人生100年時代。誰しも人生にはいろいろなアップダウンがあり、いつも順風満帆とはいきません。女性の場合、出産や育児などで、どうしてもキャリアを中断しなければならないときもあると思います。

また性別や年齢にかかわらず、体調を崩したり、プライベートに問題を抱えたりして、思ったように働けないときも出てくるかもしれません。そんなとき、本人は悔しいかもしれませんが、私は焦らなくていいと言っています。

私の友人の一人でもある、シンガポールの女性エグゼクティブが、こんなことを言っていました。“Life has fourseasons.”これは彼女が、働く女性のためのパネルディスカッションで言った言葉です。

人生は四季のようなもの。冬が来ればまた春が来て、やがて夏も来る。終わらない冬はありません。いまは全力で働けなかったとしても、きっとそのうち働けるときがやってくる。その状態がずっと続くわけではありませんから、それぞれの季節をそのときどきで楽しめばいいのです。

私自身も、いまは仕事を楽しめるようになりましたが、ここに至るまでは迷走していま
した。20代は働き詰めの毎日。今日が何曜日かもわからず、いつも体調がすぐれませんでした。30代は暗黒の時代。仕事もプライベートもうまくいかず、いつ会社を辞めようかと、そればかり考えていました。

しかし40代になって、他人との比較をやめ、自分の軸を意識しだすと、仕事が順調に進むようになりました。そして50代で転職も経験し、いまはもう何があっても大丈夫と思えるようになったのです。

移り変わる季節のように、人生にもいろいろな時期があります。焦らず、腐らず、驕らずに、いまの季節を思う存分に楽しみましょう。

佐々木順子 著(ぱる出版)

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