「お風呂で免疫力が上がる」って本当? 体にいい入浴のポイント

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「免疫力を上げる方法」「免疫力アップする〇〇」など世間の関心を集める「免疫」。免疫機能は非常に複雑で、特定の工夫で劇的に上がると言うことはできません。一方で、免疫細胞の数が増えたり、活性化したりする生活習慣はあります。入浴の医学を専門に20年以上研究を行っている立場から、お風呂と免疫力の関係について解説します。

免疫力を上げる方法が知りたい! そもそも「免疫」とは?

雑誌やテレビなど様々なメディアから「免疫力アップ」の方法について取材を受けることが多くなりました。この背景には、新型コロナウイルス感染症がなかなか収束しないことや、秋から例年始まるインフルエンザシーズンを迎えることなどがあるのかもしれません。多くの人にとって「免疫力を上げる方法」は関心の高いテーマなのでしょう。

「免疫」とは、ざっくり言うと「病原体などの感染から体を守る仕組み」のことです。

しかし、その仕組みはとても複雑です。「〇〇を食べれば免疫力が上がる」「〇〇をして免疫力アップ!」というほど単純なものではありません。「免疫力アップ」という魅力的なキーワードが踊る情報も、何をもって免疫力が上がると言っているのかははっきりしないことも多いようです。

免疫の働きを担っているのは、多数の種類の免疫細胞やその他の物質です。免疫の仕組みを構成している代表的なものは、自然免疫といわれる働きをするマクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞、好中球、適応免疫といわれる働きをするヘルパーT細胞、B細胞、細胞傷害性T細胞、抗体、その他、サイトカインやケモカインといった多数の生理活性物質などです。

免疫はこれらのたくさんの役者たちが複雑に関係しながら細菌やウイルスを排除する総合防衛システムなので、一筋縄でコントロールできるものではありません。

「感染予防に効果的」といえるか……「免疫力」を測定する難しさ

免疫細胞が複雑に絡み合う免疫機能の総合力を測定するのは、科学的にもなかなか困難なことです。そのため、通常「免疫力が上がる」と言う場合、これらの免疫細胞の一部が増えたり、活性化したり、抗体ができたりすることを指すことが多いです。

確かにこれも免疫力の一部を示しているのには間違いありません。しかし、例えばある特定の免疫細胞が増えたからといって、それによって本当に感染に対する防御力が強くなったとまで言えるかは、証明することが難しいのです。

このような大前提はあるものの、免疫細胞の数が増えたり、活性化したりする生活習慣や、これまでの研究から免疫力が上がるであろうと推定される生活習慣はあります。全貌を理解するのは難しそうだからと不摂生な生活を続けたり、何もしないままだったりするよりは、免疫力が上がる可能性がある生活習慣を、できることから取り入れていく心構えは大切です。

結局、お風呂で免疫力は上がるのか?

私は入浴の医学を専門に20年以上研究を続けています。「お風呂で免疫力は上げられますか?」と聞かれることはとても多いのですが、その答えは「恐らくYES」です。

はっきりYESと言い切れないことには理由があります。例えばいまだ収束しない新型コロナウイルスの感染が、個々人の入浴の状況で予防できるかを直接測定した研究は皆無だからです。

本当に入浴で感染が予防できるかどうかを明確に確認するには、入浴する人のグループと入浴しない人のグループに分けて、どちらのグループが感染症にかかりにくかったかを比較するような大掛かりな研究が今後必要になります。

一方でこれまでの入浴に関する実験や、体を直接温めることによる免疫系の変化に関する研究、また既知の医学的な常識から、「恐らく免疫力は上げられるのではないか」という回答になると私は考えています。

お風呂で免疫力を上げる入浴法のコツ・ポイント

「免疫力を上げる入浴法」は、多くの人が気になるテーマだと思いますが、とりたてて特別な方法ではありません。これまでにもお勧めしていた、普通の「40℃、10~15分、全身浴」を継続することであると考えています。

その理由としては、主に温泉地での研究が多いのですが、入浴後、体温上昇によって一時的にでも免疫細胞の一種であるリンパ球やNK細胞が増加するという報告があるためです。極端に熱すぎる湯ではむしろ免疫系の抑制が観察されたという報告もあります。

さらに、免疫力を上げるのには血流の改善が重要です。免疫系では、免疫細胞が作られる場所と実際に機能する場所が体内では離れていますが、血流が良くなることで免疫細胞が体内を効率よく循環するようになり、免疫機能が向上すると免疫学では考えられています。40℃10~15分の入浴法では血流が3~5倍に改善しますので血流改善という観点からも入浴はお勧めです。

また、40~41℃の10分間の入浴で、抗体の一種である唾液中のIgAが増加したという報告もあります。唾液中IgAは病原体の最初の侵入口である口や鼻の免疫機能のひとつで、これが十分にあると風邪にかかりにくいという研究結果もあります。

また、この温度の入浴では、鼻腔の線毛細胞という病原体などの異物を除去する機能がある細胞の能力が上がったとする報告もあります。線毛細胞の機能は42℃の入浴では改善しません。

さらに、入浴剤を使った方法もお勧めです。40℃15分の入浴で炭酸系の入浴剤を用いる方法です。この入浴法では効率良く「ヒートショックプロテイン(HSP)」と呼ばれるタンパク質が体で生産されることが分かってきています。HSPはNK細胞の活性化を促すことが報告されていますので、その意味からも免疫力を上げるといえるでしょう。

免疫力を上げるには、入浴だけでなくストレス解消や睡眠の質の改善も

40℃程度のぬるいお湯に浸かると、興奮の神経である交感神経の働きが抑えられ、リラックスの神経である副交感神経が高まりストレスが和らぎます。コロナの収束がなかなか見えない現在、不安を感じることが多く交感神経が強く働きすぎている方が多いように思います。

交感神経と副交感神経のバランスは免疫にもとても重要で、副交感神経が程よく働くことによってリンパ球が適切な量に維持されます。42℃以上のお湯では交感神経が刺激されることが多数の研究からわかっていますので、この点からも熱すぎるお湯に入ることはあまり好ましいとはいえません。

また、睡眠をしっかりとることで免疫力が維持されるのは多数の研究からも既に分かっていることです。良い睡眠をとるためには入浴のタイミングがとても大切です。お布団に入る1時間から2時間前に入浴を完了することで、体温が程よく下がり良い睡眠に繋がることが報告されています。入浴によって良い睡眠をとることが間接的に免疫力のアップにつながるということです。

シャワーや半身浴の免疫力アップ効果

シャワーでも皮膚表面の汚れを落とすことはできますので、帰宅したらすぐシャワーを浴びて清潔にすることで感染を予防する、という考え方はあるでしょう。しかしシャワーだけでは、湯船に浸かる入浴のように体温が上がったり血流が改善したりということはほとんどありません。したがってシャワーでは免疫機能の改善はあまり期待できないと考えています。

普段シャワーで生活している人が、浴槽入浴を始めても、急にはHSPは増加しにくいという報告もありますので、普段から湯船に浸かる習慣をつけておくことが大切です。

また半身浴の効果はどうなのかと聞かれることも多いです。半身浴は名前の通り、半分だけ体を湯につけるので全身浴に比べて体を温める効果は半分しかありません。全身浴と同じだけの体温上昇や血流改善効果を得ようとした場合、半身浴は全身浴の約2倍の時間がかかります。

半身浴をする場合、40℃で20分程度は入浴しましょう。健康な人であれば全身浴の方が効率がよいでしょう。半身浴は水圧がかからないのでご高齢の方や心臓・呼吸機能が低下している人にはお勧めです。

免疫力アップは当たり前の健康的な生活習慣を続けること

入浴と免疫力の関係について現在分かっている範囲で解説しました。今後研究が進めば、もっとはっきりしたことが言えるでしょう。

しかし先述の通り、免疫力は、特効薬のように何か一つのことを行うことによって劇的にアップするようなものではありません。しっかり食事をすること、睡眠・休養をとること、適度に体を動かすこと、ストレスをためないことなど、ごく当たり前の健康的な生活をすることによって保たれるものです。

奇をてらった方法での 「免疫力アップ」というのはあまりないのかもしれません。 加えて、感染予防として現在勧められている、手洗いや、マスク、3密回避の地道な努力も当然必要になります。

早坂 信哉プロフィール

お風呂・温泉の正しい情報を伝える 温泉療法専門医。浜松医科大学准教授、大東文化大学教授 などを経て、2015年より東京都市大学人間科学部教授(現職)。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長も兼任。

(文:早坂 信哉(医師))