元日本IBM女性役員が教えるリーダーシップに悩む人への処方箋

日本IBMや日本マイクロソフトで役員を務め、現在は様々な企業の取締役として経営アドバイスを行う佐々木順子さんは、リーダーシップ、ダイバーシティ、働き方をテーマに数多くの研修・講演を行っています。

女性リーダーの先駆的存在ともいえる彼女が今リーダーシップに悩む人へ、そしてこれからリーダーになる人へ伝えたいアドバイスとは?

前回記事「元日本IBM女性役員がキャリアに悩む女性に伝えたい4つのアドバイス」に続き、著書『「あなたにお願いしたい」と言われる仕事のコツ88』(ぱる出版)から一部抜粋して紹介します。


リーダーのタイプについての思い込みを捨てる。

リーダーとはどんな人でしょうか。こう聞かれたとき、多くの人は、先頭に立って部下をぐいぐいと引っ張っていく力強いイメージ、たとえばナポレオンのような人物を思い浮かべるかもしれません。

しかし実際には、リーダーにはさまざまなタイプがあります。リーダーシップについての研究は数多くありますが、中でも有名なダニエル・ゴールマン『EQリーダーシップ』(日本経済新聞出版、2002年)から、六つのリーダーシップタイプを紹介します。

・ビジョン型リーダーシップ(リーダーが夢を持ち、その夢に向かって周りを動かす)
・コーチ型リーダーシップ(メンバーとコミュニケーションして力を伸ばしていく)
・関係重視型リーダーシップ(メンバーの信頼を得て友好的に物事を進める)
・民主型リーダーシップ(広く意見を求め、常に同意を得ながら進める)
・ペースセッター型リーダーシップ(メンバーに細かい指示をせず「背中を見せる」)
・強制型リーダーシップ(強制的、細かく指示命令する)

また、これに加えて、ファシリテーション型(意見を引き出す)、サーバント型(後方から奉仕する)、人格型(理念やぶれない価値観を持ち、一段上から見守る)など、多くのリーダーシップのタイプが研究されています。

大事なのは、リーダーシップの種類にいい・悪いはないということ。チームの状況とビジネス環境によって効果的なリーダーシップとそうでないリーダーシップがあります。

たとえば強制型は否定的に受け止められがちですが、危機的状況下では、スピーディな決定と実行ができるこのタイプが効果的です。ペースセッター型は、メンバーそれぞれが優秀な場合はうまくいくけれど、新人ばかりだと動かないでしょう。

さらに、リーダーの個性によって得意なリーダーシップタイプと不得意なリーダーシップタイプがあります。「リーダーとはこうあるべき」という思い込みは捨てましょう。

あなたがリーダーに抜擢されたら、固定観念的なリーダー像にとらわれて消極的になる必要はまったくありません。あなたらしいリーダーシップの形を見つけ、状況に応じて発揮していけばいいのです。

ロールモデルではなく、見習うべき先輩を見つける

「私の会社にはロールモデルがいない」という悩みをよく耳にします。ロールモデルとは、将来こうなりたいと目標にする存在、お手本としたい人物です。

そんな存在が身近にいれば、自分の進むべき方向が明確になり、悩んだときの指針となってくれます。しかし、もしそんな人が身近にいない場合はどうしたらいいでしょうか。ロールモデルとは、どうしても必要なものでしょうか。

私がかつてマネージャー職を意識し始めたころ、社内で唯一の女性シニアマネージャーであった方をひそかにロールモデルと心に決めていました。しばらくして念願のマネージャーに昇進した私は、彼女の毅然とした強いふるまい方を、そっくりそのまま真似していました。

しかし、その結果は大失敗。メンバーからの信頼を得られず、チーム内に不協和音が響
き出したうえに、心身の病に陥るメンバーが続出。もちろん業績も不振でした。そうして私は、一年たたずしてマネージャーを解任、降格させられてしまいました。

人はそれぞれ個性も違えば、ビジネスの環境も異なります。いくら憧れの先輩のスタイルを真似したとしても、そのままうまくいくはずはありません。しかし、ロールモデルと思い定めると、無意識にその人のふるまいをなぞってしまいがちです。その人がたどったキャリアの通りにならないと焦る人もいるでしょう。

しかし、あなたとその人は別の人間です。まったく同じようにいくわけないのです。それがわかったいまは、ロールモデルなんて必要ない、とはっきり言えます。ロールモデルを探すかわりに、尊敬できる先輩を見つけましょう。存在すべてを真似して追いかけなくても、この人のいいところ、あの人のいいところ、と「いいとこ取り」をすればいいのです。

きっとあなたのまわりにも、「あの人のあんなところを見習いたい」と思える人がいるはず。性別も年齢も役職も問わず、同期や社外や年下の仕事相手にだって、そう思って探せば、学べるところはたくさんあるはずです。憧れのロールモデルなんて、百害あって一利なし。いいとこ取りでいきましょう。

見習うべき人には自分からメンターをお願いする

ロールモデルは不要ですが、メンターは、働くうえでぜひとも必要な存在だと思ってい
ます。

ロールモデルが憧れの存在なら、メンターはよき指導者。あなたのキャリアに有益なアドバイスをもたらしてくれる存在です。仕事の仕方やキャリアプランの悩み、ときには転職についても相談に乗ってもらうこともあるかもしれません。

メンター制度が整っている会社もありますが、そうでなくても、「この人のこんなところがすてきだな」と思うような人を見つけたら、ぜひその人に「私のメンターになってください」と直接お願いしてみましょう。

あなたの部署以外や社外にも目を向けてみると、きっといい人が見つかるはずです。「メンターになってください」と頼まれていやな気持ちになる人はいません。もしその人が多忙で時間がなかったり、職種的にもっとふさわしい人がいると思えば、ほかの人を紹介してくれるでしょう。

かつて私は、会社の制度で大先輩にメンターになっていただきましたが、上の方すぎて遠慮もあり、その方もお忙しかったので、ほとんど何のご相談もしないまま時間がたっていました。

そんなとき、ある一人の後輩から「順子さん、私のメンターになっていただけませんか?」と声をかけられたのです。とても嬉しく思うと同時に、自分からメンターをお願いしてもいいんだ、ということに気づかされ、それ以来私も、この人はと思う方にお会いしたら、直接声をかけてお願いしています。

新しいチャレンジをすることになって、いままでとは違うメンターがほしいと思ったときには上司に相談して、適切なメンターを紹介してもらったりもします。メンターは先輩に限らず、同僚でも後輩でも、男性でも女性でも、社内でも社外でもかまいません。一人にしぼる必要もありません。

この人から学びたいと思え、心から尊敬できる人が見つかったら、ぜひ直接その思いを伝えてみてください。

自分へのリーダーシップを持つ

リーダーシップとは、目標を達成するために、チームメンバーに影響を与える力のこと。対人影響力などとも言われます。ここで「チームメンバー」を「自分自身」に置き換えると、自分へのリーダーシップになります。

やると決めたことを実行するためには、自分自身へのリーダーシップが必要です。自分の中でのことなので、ゴールを達成したことは誰にもわからないかもしれません。でも、自分にだけはわかります。

人と比べるのではなく、昨日の自分と今日の自分を比べてどうかを、自分で判断すればいいのです。昨日よりも上手にできるようになったか、新しいことができるようになったか、より成長しているか。私はこれを自分に問いかけるようになってから、精神的にとても楽になり、仕事をうまく進めていけるようになりました。

たとえ重要なプロジェクトを成功させて評価されたとしても、自分としては得られるものがなかったという場合もあります。反対に、うまく行かなかったプロジェクトでも、新しいスキルと経験を身につけることができたら、それはあなた自身にとっては成功です。

一つ一つの仕事に対して、自分自身で目標を決め、達成できたかどうかを自分で判断する。こんなふうに取り組んでいくと、他人と比べる必要がなくなります。他人と比較してしまうと、どうしてもねたみや嫉妬という感情が生まれて苦しみますし、前に進めなくなってしまいます。

もし、ねたみや嫉妬といった感情が生まれたら、あこがれや感嘆に変換しましょう。あんなふうになれるようにがんばろうという推進力に変えてしまえばいいのです。

こうして自分へのリーダーシップを発揮していけば、結果的に自分の人生を自分で切り開いていくことになります。自分の人生なのですから、自分で決めて、自分の力で進んでいきましょう。そのほうが、ずっとずっと、楽しく充実した人生になるはずです。

佐々木順子 著(ぱる出版)

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