ADHDの子どもをゲームが救う?〜FDA認可のゲーム処方薬とは〜

 みなさんが子どもの頃にハマったテレビゲームはなんですか?

 ゲームの進化は止まらず、巷ではPS5が発売されることが話題となっている。しかし、今回ご紹介したいのは、そんなゲームがもつ、エンターテインメント性ではなく、ヘルスケアとしての側面について。アメリカでは、ボストンに拠点を置くAkili Interactive Labsが、子どものADHDに有効なゲームを開発して話題になっている。

日本で急増する子供のADHD

 注意欠陥・多動性障害(ADHD)は発達障害の一種の病気である。子どもは通常、幼児期に活発であるのが当然だが、成長と共に自分をコントロールできるようになる。しかし、年齢不相応に、落ち着きがない、忘れ物が多い、衝動的な行動をとるといった、ADHDと診断される子どもが増えている。実際、ADHDのために通級指導を受けている児童・生徒数を平成18年から比較すると令和元年現在、なんと約15倍にも急増している。

 この数字は、ADHDという病気に対する世間的認知が広まったことにより、そもそもの受診数が増えていることも一因とされているが、患者数が伸びているのは紛れもない事実である。

ADHDに挑むAkili Interactive Labs

 米国でも同じく、子どものADHD患者数の増加は深刻化しており、現在640万人もの子どもたちが該当していると言われているが、治療に当たっては、子どもへの薬の投与に抵抗感を持つ親も多い。

 そんな状況に光を差したのがAkili Interactive Labsである。8〜12歳を対象としたCBT(Computer Based Testing)において、同社が開発したアクションゲーム、EndeavorRxは注意機能を改善するという結果を示した。2020年6月15日には、EndeavorRxがADHDの処方薬として、米国食品医薬局(FDA)に認可を受けたことを発表している。

 申請当初FDAからは、「治療薬としてではなく単なるゲームとして消費者向けに売るなら構わない」と全く相手にされなかったが、CEOであるEddie Martucciの熱意と治療薬としてのゲームの有効性が評価され承認に至ったようだ。

 Akili Interactive Labsが目指す世界

 同社はADHDだけでなく、自閉スペクトラム症(ASD)、うつ病、多発性硬化症(MS)等、様々な病気に対する研究も進めている。

 このようなゲームを用いた治療は“デジタル治療”と呼ばれ、新たなヘルスケアの常識を作り出しつつある。中でもASDは中核症状に対する治療薬は未だに存在しておらず、ゲーム処方薬開発の期待は大きい。

 現在、Akili Interactive Labsは、塩野義製薬ともパートナーシップ契約を結んでおり、日本国内でも臨床試験が実施されている。デジタル治療が着実に世界に浸透し、病で苦しむ人を一人でも多く救ってくれる日を期待したい。

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