朝ドラNo.1はあの作品!? 過去5年の作品分析から見る”レグザ”的最強朝ドラの条件

今回はNHKの「連続テレビ小説」、通称“朝ドラ”に焦点を当ててみたい。今でも安定して20%近い世帯視聴率を取り、影響力を持つドラマ枠だが、チャンネルを合わせている人は多くても熱心に見ている人は少ないのでは、との声もある。そこで今回は、過去5年間の朝ドラについて、現在関東54万台越えのレグザの録画再生率を集計。世帯視聴率だけでは分からない総合的な見地から視聴傾向を分析。“レグザ的”最強朝ドラの条件を探ってみようと思う。

取り上げた過去5年間の朝ドラは以下の10本である。

まれ 2015年前期(東京制作)主演:土屋太鳳
あさが来た 2015年後期(大阪制作)主演:波瑠
とと姉ちゃん 2016年前期(東京制作)主演:高畑充希
べっぴんさん 2016年後期(大阪制作)主演:芳根京子
ひよっこ 2017年前期(東京制作)主演:有村架純
わろてんか 2017年後期(大阪制作)主演:葵わかな
半分、青い。 2018年前期(東京制作)主演:永野芽郁
まんぷく 2018年後期(大阪制作)主演:安藤サクラ
なつぞら 2019年前期(東京制作)主演:広瀬すず
スカーレット 2019年後期(大阪制作)主演:戸田恵梨香

まず、参考までに全話平均世帯視聴率の順に並べてみると以下のようになる。

これを踏まえて、まずは全作品・全話の録画再生率をグラフ化したものを見ていただこう。

※途中大きく下がっている箇所があるが、これは臨時ニュースなどで正規の放送時間に放送されなかった回を示す。そのため、イレギュラーな数字として以下の分析の集計からは外してある。
具体的には、「とと姉ちゃん」(第13回)、「べっぴんさん」(第45回)、「ひよっこ」(第130・131・143・144回)、「半分、青い。」(第68・137回)。

少々見づらいが、ここでは全体の傾向を見てほしい。一概に朝ドラといっても作品ごとに意外にバラつきがあることが分かると思う。そして、全話の平均録画再生率(上記のイレギュラー回を除く)が高い順に並べたランキングが以下のようになる。

トップの「なつぞら」と10位の「わろてんか」では、再生率にして約1.6倍。この差を生む原因はいったい何なのか。

このままのグラフだと見づらいので、ここからは作品を絞って傾向を見る。まずは、9位「べっぴんさん」と10位「わろてんか」のグラフ。

2作ともカーブが似ている。どちらも低空飛行で始まり、特に大きな山も作れず同じような数字で最終回を迎えている。特に、最終回はどの作品も大きく数字を上げる傾向にあるのだが、この2作はともにさほど大きく上げられていない。物語に大きく心動かされた人があまりいなかったのか。

続いて7位「ひよっこ」と8位「まれ」。中盤85回くらいまではほとんど同じような再生率で推移しているが、後半大きな差がついた。「ひよっこ」は一貫して右肩上がりのグラフになっていて、途中でファンを手放すことなく、逆に新しいファンを増やしていっていることが判明。長期にわたる連続ドラマとしては、これが理想的な形だろう。

3作とも推移が非常に類似していて、特に「まんぷく」と「スカーレット」はほとんど同じような曲線を描いているが、120回を過ぎて「スカーレット」がいわゆるスピンオフ週間を挟んだおかげで(?)その分再生率を下げている。録画視聴の数字は正直なもので、物語が緩むと途端に値に反映されてくるようである。

最後に上位の3作。3作とも4位以下とは明らかな差がついており、強さが際立っている。しかし、それぞれの動きはとても個性的だ。いわゆる右肩上がりの理想的な形で再生率を上げ続け、そのままフィニッシュしたのが「あさが来た」である。世帯視聴率も好調で、全話平均23.5%は21世紀に放送された朝ドラの中でトップであった。ストーリー、話題性、キャストの魅力、どれをとっても隙がなく、総合力ではこの10年のベスト朝ドラといっていいだろう。

そして、その「あさが来た」を抑えて、平均録画再生率でトップに立ったのが「なつぞら」である。「なつぞら」が1位の理由は、なんといってもスタート直後の値の高さ。こうした動きを見せたのは10作品の中で「なつぞら」だけだ。ドラマの中でも、朝ドラは特に最初は様子見の視聴者が多く、ストーリーが進むにしたがって見る人が増えていくというパターンが大多数を占めるので、この動きは非常に個性的である。

朝ドラ100作目の記念作であり、朝ドラヒロイン経験者が多数出演するなど、事前の話題性が高かったことも確かだが、私見ではこれはオープニングのアニメ効果だと思う。もともと実在のアニメ制作者がモデルとなった物語で、やがて高畑勲や宮崎駿と思しき人物も登場したが、アニメによるオープニングは新鮮だったし、劇中でもアニメが使われ、第1回冒頭からスタジオジブリ要素満載とネットを騒がせた。ピークとなったのは第9回。まだ、子役の粟野咲莉がなつを演じていた時期で、父の手紙を読んで初めて思いを爆発させるシーン。語りを務める内村光良が実は死んだお父さんだったということも明かされた回で、涙なくしては見られない感動回だった(この回でもアニメが効果的に使われていた)。しかし、実はこの後、「なつぞら」はこの第9回の再生率を最終回まで超えることができなかった。これだけのスタートダッシュを決めていたのだから、どこかの時点でもう一押しの盛り上がりがあればと、思わずにいられない。

その点で、対照的なのが「半分、青い。」である。さまざまな評価が飛び交った、ある種の問題作であったが、SNS上での盛り上がりは大きかった。そして再生率も最終回では全作品の中で最高、初回からの伸び率も約2倍という劇的な数字をたたき出している。

そしてもう一つ特徴的なのが、グラフのピークの多さである。最初に高いピークを示したのが、第73回。鈴愛(永野芽郁)が久しぶりに再会した律(佐藤健)に夏虫駅でプロポーズされる回。これを抜いて自己ベストとなったのが第109回で、そのプロポーズから13年ぶりに2人が再会した回。さらにこれを抜いたのが126回。河原で2人が絆をかみしめる回。「…てか、いろよ。いてよ」の回である。そしてさらにこれを超えたのが、アメリカから帰国した律と五平餅を焼く鈴愛が再会する133回。そして最終回に次ぐ高い値となった147回では、朝日が照らすソファで抱き合う鈴愛と律が口づけをする。非常に分かりやすく、自己ベストが更新され続けている。

だがこれは偶然ではなく、こういう作劇をしているということで、長丁場の朝ドラにはある意味有効だった(ただあまり前例はなかった)。停滞している時期もあり、必ずしも理想的な右肩上がりのグラフではないが、こちらも大変個性的なドラマだったといえる。

ということで、“レグザ的”最強朝ドラの条件を挙げてみる。

① ファンを手放さず、同時に新たなファンを増やし続ける物語を最後まで維持する作り
② 胸キュンシーンなど、SNS上でバズる展開を定期的に挿入する
③ 初期の段階で何度も見返したくなるようなフック(いわゆる小ネタ)を作る

新型コロナで、朝ドラが普通に放送されていることのありがたさが見直されている。今後もさまざまな角度からドラマを楽しんでいきたい。

文/武内朗
提供/東芝映像ソリューション株式会社

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