競争 熾烈な消耗戦の先には 【連載】十八・親和 合併の行方 新銀行発足編<3>

十八銀行思案橋支店(右)は来年以降、隣の親和銀行浜町支店の建物内に移る。どちらもまだ新銀行のロゴに幕がかけられている=長崎市内

 「カーネーションを見た役員が花瓶から引き抜いて捨てた」。十八銀行OBは、かつて親和銀行のシンボルだった花に「熾烈(しれつ)なつばぜり合い」に身を投じた日々を重ねる。戸別訪問で住宅ローンをより安いレートで借り換えさせたり、親和の取引先企業に「不満はないか」と尋ね回ったり。「ひっくり返せば(行内で)高く評価された」
 戦後しばらくは親和が規模で上回っていたが、長崎市の復興成長を背に十八が逆転したという。市場規模で佐世保市を上回る県都の切り崩しに活路を見いだす親和に対し、守りを固めシェアを広げる十八。こうした見方は両行複数の関係者に一致する。一方で、60代親和OBは「お互い刺激せず無駄な争いを避ける空気もあった」と明かす。だが、それも親和のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)入りを機に消えた。
 十八は肥後銀行(熊本市)、鹿児島銀行(鹿児島市)との合流も水面下で検討した。だが営業エリアが違えばコスト削減効果は乏しい-と参加を見送った。肥後と鹿児島は2行で経営統合し、FFGと対抗する道を選んだ。
 何より、しぼむ県内市場を奪い合う消耗戦をやめない限り、「共倒れしかねない」(十八幹部)。競争の激しさを物語るように、十八と親和の店舗網は津々浦々に張り巡らされ、しかも多くが近接する。出店すれば取引が増える半面、維持コストはかさむ。近年は来店客数も減っており、立地が重なる68店舗は今後統合される。
 新銀行の本店は長崎の十八本店に置き、佐世保の親和本店に約200人いた本部人員は既に約50人に絞った。「佐世保経済をけん引してきた銀行の“本丸”が無くなるのは不安。存在感は薄めないでほしい」。佐世保商工会議所会頭の金子卓也の注文を、親和幹部が受け止める。「FFG入りの際『親和存続のため』と株主に負担を受忍してもらったのを忘れてはならない」
 両行がそのまま合併すれば県内融資シェアは約75%に達していた。「競争が制限され、企業に金利高止まりなどの不利益を与えかねない」と問題視した公正取引委員会を説得するため、他行への借り換え(債権譲渡)を企業に促し約65%に引き下げた。
 推移が注目された新規実効金利は3月までの2年間、低下し続けた。親和頭取の吉澤俊介は「他行の攻勢は強く、防衛のため下げざるを得ない」という。その一方、「自由競争」でシェアは70%近くまで戻した。両行をメインバンクとする県内企業の比率に至っては85%のままだ。
 県内1強になるが、借り換えの受け皿となった長崎銀行(長崎市)頭取の開地龍太郎は上を向く。「相手はガリバー銀行。だが、もうすぐ取引が1行になる企業から『資金調達窓口を増やしたい』との声をさらに聞くようになった」=敬称略

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