「教えるときにマウスをとらない」「わかっても答えを言わない」……プログラミング経験のある子との5つの約束

今年から始まった小学校でのプログラミング教育の授業。初めてのことなので、戸惑っている先生方もいるかもしれません。とくに経験者と未経験者では大きく差が開くプログラミングの授業では、どのようにクラスをまとめ、進めていけばいいのでしょうか。子ども向けのプログラミング授業を多く経験している筆者が、その極意をお教えします。

進度がバラバラなクラスでどうやって授業をしていくか

学校の授業では、理解度が違う子どもが同じ授業を受けることが一般的となっています。最近ではこういった一斉授業の形態に異を唱える意見も増え、習熟度別指導や個別最適化などの言葉が流行りのように使われるようになっています。

一見すると、子どもたち1人1人の特性を見極めた上で指導を変えるこれらの施策は、理にかなっているように思えますが、できないという烙印が押されてしまった子のモチベーションの維持、できることこそが正しいといった固定的観念にとらわれるあまり、学びの自由さがなくなってしまうなど、両義性を含んだ議論といえるでしょう。

学校におけるプログラミングの授業を考えてみると、一般的な教科と比べても経験の差が出やすいのではないかと思います。プログラミングをすでに家庭やスクールなどでやったことがある子どもとそうでない子の間に生まれた差は、授業をする先生にとってはかなりやっかいなものになります。

今回は、筆者が実際にプログラミングを教えるときに決めている子どもたちとの約束事を紹介し、教師と子どもの関係性をどうしていくかについて考えます。

プログラミングを経験したことがある子との約束

私は年間60-70回ほど、子どもたちにプログラミングを教える活動をかれこれ8年ほどやっているため、つまずきポイントや注意すべきことなどは、ある程度わかっているつもりです。しかし、そうであっても難しい局面は多々あります。

すでにある程度やったことがある子が、私の話を聞かずにどんどん先に進むなどといったことは、まったく問題ではありません。むしろ集中して取り組んでいるので、邪魔をしないようにしているくらいです。大変なのは、やったことがある課題だからと何もせず、他の子に話しかけたりして活動を邪魔してしまうような場面です。

このような子には、その場面で取り組むべきプロジェクトが必要です。自分で設定できるようなら苦労はしませんが、先生に言われないとやろうとしない子も中にはいます。そういった場合、私はよく先生の手伝いをしてもらっています。いわば、ミニティーチャーです。1人で20-30人の子どもを見るのは非常に大変なので、クラスの中ですでに経験したことがある子には、そういった役割をお願いしています。

とは言え、ミニティーチャーにはミニティーチャーとしての役割があります。答えをすぐに教えたり、自分はサボって他の子に教えるなどといったことはさせたくありません。彼らとは、次のようなことを約束しています。

それぞれ見ていきましょう。

「助ける=答えを教える」ではない

まず、周りの子をどんどん助けてほしいということを伝えます。「君たちはすでにやったことがあるかもしれないけど、まだやったことがない子もいる。私が1人で全員分見ていたら時間がなくなってしまうので、助けてあげてほしい。」と言ったことを伝えます。

しかし、子どもたちは「助ける=答えを教える」ことだと思っている場合がほとんどです。わかっている子がわからない子に対して答えを教えるのは、わからない子が学び考える機会を奪っていることと同じです。

3つ目のマウスをとらないというルールも同じことです。経験者がやったほうが早いに決まっていますが、それでは学びにまったくなりません。教える子・教わる子の両方にとって何が学びになるのかを考えたとき、教え手はしっかり言語化する力をつけること、教わる子は教わりつつも自分でやってみることによってできるようになっていくことだと思います。

答えに近づくためのヒントをいくつか出してあげるようにと伝えると、子どもは案外自分たちで工夫しながら考えるのです。ここでクリティカルなヒントを考えられる子は、自分や相手のことをメタ的に見る力がついていることになり、本当の意味でその対象を理解していると言えるでしょう。

対象をメタの視点から見ることは、教育の目的の1つだとも言えます。何がわかっていてわかっていないのか、次のステップに進むためには何がわかればいいのか、といったことを切り分けて考えていく力を育むことにつながるのです。

自分ができることはとことんやろう

4点の「自分がやるべきこともしっかりする」というルールは、自分の作品をつくるのに手を抜いて早めに終わらせ、困っている子に教えに行くことをやめてほしいという思いでつくったルールです。以前、競泳の北島康介選手の伝記を読んだのですが、彼の小学校の恩師が「康介は水泳の授業では誰よりも本気でキックの練習をしていた」と書かれていました。

小学生のときとはいえ、北島選手はすでに全国大会に出場するレベルでした。当然周りの子どもたちとは違うわけですが、舐めてかかるわけではなく本気で取り組んでいたことを知って、僕自身もそうなりたいなと思いました。

そして、プログラミングの経験がある子どもたちにも同じようになってほしいと思っています。だからこそ、5番目のルールとして「自分ができることはとことんやる」ように伝えています。

さて、今回はすでにプログラミングの経験がある子どもとの関係について紹介しました。少し長くなってしまったので、また来月この続きを書きたいと思います。次回は、やったことがない子とのルールについて紹介します。お楽しみに!

これまでの【プログラミング教育のホントのところ】は

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