【資料】朝鮮半島の戦争危機はどのように解消されたのか

2013年の戦争危機の時、金正恩委員長は戦略会議で米本土打撃計画を検討した

 韓国のインターネット情報サイト「自主時報」は、9月29日、「韓半島の戦争危機はどのように解消されたのか」とのタイトルの記事を掲載した。

 記事は、「米国は何度も北朝鮮を攻撃しようとした、しかし、「結局戦争を開始することができなかった」と指摘、その原因は朝鮮の軍事力にあったと、ブウ関下。

 また記事は、文在寅大統領は「韓半島での武力の使用はわれわれの同意なしには不可能だ」と述べているが、今まで米国が北朝鮮攻撃を検討した際、韓国に事前に知らせたことは一度もなく除外されてると指摘、あまりにも悲惨で耐えがたいと強調している。

以下の全文を紹介する。(翻訳、中見出しは編集部)

1.2017年 戦争危機

トランプ大統領の大口

 ボブ・ウッドワードは新著「激怒」で、2017年朝米間で戦争が起こるところだったと明らかにした。ウッドワードは「これは本当の危機だった」と書いた。

 その年の8月8日トランプ米大統領は「北朝鮮が米国を脅かすなら、今まで全世界が見たことがない『炎と怒り』に直面することになるだろう」と警告し、11月には、空母3隻を韓半島周辺海域に投入して訓練という名のデモンストレーションを行った。 12月には、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルが米国に向けて発射された場合、ミサイルで迎撃する権限をマティス国防長官(当時)に付与し、2017年4月と2018年1月には「韓国の米軍家族を全部帰国させろ」と非戦闘員搬送作戦(NEO)を指示した。

 このように、すぐに北朝鮮を攻撃するかのような大口をたたいたトランプ大統領が、今では、自分が戦争を防いだと、代表的な功績に上げている。何かつじつまが合わない。 「北朝鮮が米国を攻撃しようとしたが、トランプ大統領が防いだ」、または「アメリカが北朝鮮を攻撃しようとしたが、残念ながらできなかった」としてこそ、つじつまが会うが、「私が戦争しようとしたが、私が防いで嬉しい」と言っており話にならない。 「戦争をしたい」と「戦争を防いで嬉しい」との間に何かがなければならない。

 その答えは、「激怒」に掲載されたマティス国防長官が示した。彼は当時、核戦争の恐怖にワシントン国立大聖堂二次世界大戦追悼礼拝室を複数回訪れ祈りを上げた。北朝鮮は、国家核武力を完成し、米国はこれを乗り越えられなかったのだ。

米国は何度も北朝鮮を攻撃しようとした

 過去にも米国は何度も北朝鮮を攻撃しようとした。しかし、結局戦争を開始することができなかった。すべて似たような理由からである。時間を遡り、代表的ないくつかの例だけを見てみよう。

 2013年2月に、北朝鮮の3回目の核実験とそれに対する国連の対北制裁、韓米連合訓練キーリゾルブの実施、これに対抗した、北朝鮮人民軍の3月30日戦時状況突入宣言で韓半島は一触即発の危機状況を迎えた。そうして4月15日、ケリー国務長官の対北朝鮮特使派遣提案、5月1日、ジミー・カーター元大統領の訪朝提案、5月7日、北朝鮮の1号戦闘勤務態勢解除で戦争の危機が和らいだ。

 当時、米中央情報局(CIA)出身のブルースクリンなーヘリテージ財団先任研究員は、2013年4月1日付USAトゥデイに 「戦争シミュレーションでは、最終的に、私たちが勝つが、第一次世界大戦レベルの死傷者が発生するとの結果が出た」と明らかにした。第一次世界大戦の被害は凄まじい。ドイツを中心とした同盟国の軍の兵力死者は438万人、負傷者は838万人、そして行方不明者は362万人、民間人の死者は314万人にのぼる。フランスとイギリスを中心とした連合国の被害は兵力死者552万人、負傷者1283万人、行方不明者412万人、民間人の死者は360万人にのぼる。総合すると、4千万人に達する死傷者が発生したと言える。このような結果が出たのは、おそらく核戦争を想定したためと思われる。米国はこれほどの被害を甘受して戦争をすることができなかった。

「われわれが敗北する(we're doomed)」という結論が

 2002年、ブッシュ政権も戦争を準備した。北朝鮮政権を交代するという目標まで立てた。このため、二度に渡って戦争シミュレーションを実施したが、具体的な結果を公開しなかった。ただし、2003年5月30日に行われた1次ウォーゲーム立ち会ったナショナル・パブリック・ラジオの記者は、2003年8月18日、英国のBBCのテレビに出演して「最終的には、参加者は重大な決断を下そうとしたが中断してしまった。有効な軍事的選択カードが一つもなかったとという点から、彼らは挫折感を味わった」と明らかにした。 2次ウォーゲームは7月中旬に行われたが、2003年8月1日付のニューヨークタイムズのオピニオン記事によると、「われわれが敗北する(we're doomed)」という結論が出たという。このシミュレーション結果は、北朝鮮が核兵器を保有していないことを前提としたものである。

 2005年ラムズフェルド国防長官は、北朝鮮を対象とした新たな先制攻撃計画を承認した。しかし、中央日報2020年9月19日付の報道「『ソウル火の海になるが、北の先制攻撃』歴代米大統領が準備したカード」を見ると、「北朝鮮を制圧する方法を見つけることができなかった」という。

 1994年クリントン政権は、寧辺の核施設のみを除去する「外科手術式精密爆撃」を準備したがあきらめた。前述の中央日報報道はその理由を次のように説明した。

 「米国は当時模擬シミュレーションにより全面戦争状況も予測してみた。その結果、90日以内に、在韓米軍5万2000人、韓国軍49万人けがをしたり死亡するとの結果だった。民間人を含めて100万人の死者が予想された。当時、最終的に先制打撃を放棄した背景だ」

 もちろん、この結果も、北朝鮮に核兵器がないと仮定の下出てきたものである。

戦争をのぞまないが恐れない

 さらにさかのぼると、1968年1月23日に発生したプエブロ号事件がある。米海軍の最新鋭の電子諜報艦プエブロ号が北朝鮮領海である元山沖で諜報活動を繰り広げ、北朝鮮海軍艦艇に拿捕された事件である。米国ジョンソン政権は直ちに、世界最強と自負する第7艦隊の主力機動部隊と空母3隻をはじめ、原子力潜水艦や戦闘機の数百台を韓半島に派遣した。

 これに対し、2月8日、北朝鮮の金日成主席は「われわれは、戦争に反対する。しかし、戦争を恐れない。私たちは、平和を愛する。しかし、平和を乞わない」と宣言しながら、同時に「目には目、歯には歯、報復には報復、全面戦争には全面戦争で」と北朝鮮人民軍と各級準軍事組織、全人民に戦時動員体制を命じた。事態は戦争へと拡大した。

 ところが、すべての予想を覆し、米国はプエブロ号領海侵犯の事実を認めて謝罪文を発表した。 1968年12月プエブロ号の乗組員たちは、家に帰ることができたが、船は北朝鮮の戦利品になって、まだ北朝鮮に残っている。

 当時の状況を扱った北朝鮮の小説を見ると、米国が空母を集結させ、北朝鮮を威嚇する時、北朝鮮指導部が空母を撃沈させることができるミサイルを米国の偵察資産が見ることができるように露出させた話が出てくる。これだけでなく、北朝鮮は韓国戦争以降、米国の核攻撃に備えて重要な軍事施設を地下深くに設けて、全国各地に地下壕を構築した。また、軍部隊はもちろん、主要な建物と列車にまで膨大な数の対空砲を配置して爆撃機の接近を防いだ。海岸線に沿って岩石地帯の中に砲ミサイル基地を配置して軍艦の接近も遮断した。このような状況を偵察機と偵察船で確認した米国は北朝鮮を攻撃することができなかった。1976年、板門店斧事件の時も、米国は核兵器搭載可能なF-111戦闘機20機を含めて、大規模な爆撃機、空母などを投入して、北朝鮮を威嚇した。しかし、結果は同じだった。当時、北朝鮮は遺憾声明を発表した。 「遺憾」は多様に解釈することができる。米国は、遺憾声明は誤りを認めたものではないとして拒否したが、最終的には受け入れて事態を終結させなければならなかった。米軍大尉1人、中尉1人が死亡して兵士4人が重傷を負ったが、米国は何の報復も膺懲もできず、木を切ることで満足しなければならなかった。北朝鮮と戦争をする事ができないと判断したからである。

 このように見ると、北朝鮮を攻撃しようとする米国の試みは、長い歴史を持っており、絶えず繰り返されたが、そのたびに、これを挫折させたのは、北朝鮮の軍事的能力と意志、つまり戦争能力であった。北朝鮮は、自分の核武力が数多くの戦争の脅威を阻止した「平和の宝剣」と主張しているが、上記の過程を見ると、このような北朝鮮の主張に客観的妥当性があることを認めざるを得ない現実のようだ。

2.「韓半島での武力の使用はわれわれの同意なしには不可能だ」

 「激怒」で、米国が北朝鮮に核兵器の使用を検討したという内容が出ると青瓦台は「韓半島での武力の使用は、われわれの同意なしには不可能である」という立場を明らかにした。ところが歴史的事例を見ると、韓国政府は、戦争の危機の高まりと解消のプロセスに、どのような責任ある介入をすることができる状況や余地が全くなかった。

「クリントン政権の先制打撃案検討の過程で、韓国政府は排除された」

 故金泳三元大統領は、自伝で、1994年の戦争の危機当時、自分が米国大統領に電話して、戦争を阻止したと書いた。しかし、米国政府や評論家の中で、金泳三元大統領のために戦争が起こらなかった評価する人一人もいない。前述の中央日報報道は「クリントン政権の先制打撃案検討の過程で、韓国政府は排除された。金泳三政権は、米国で先制攻撃を検討しているという事実さえ把握していなかった」とした。

 2017年の危機の時も同じだ。当時トランプ大統領は「戦争で人が死んでも、韓半島で死ぬ」と戦争の危機を高めた。文在寅大統領もこれに呼応して反北攻勢を繰り広げ危機をあおった。しかし、米国が実際に戦争準備をしていたのかを把握することすらできなかった。

 「当時、在韓米軍に米本土と海外の米軍基地から参謀人員を中心とした増員が行われた。目立たないように少しずつ入ってきた。米軍は自分たち同士で話を交わし、韓国軍が来ると口を閉じた。そして韓国軍を除いたまま、自分たち同士で秘密会議を頻繁に開いた」(中央日報9月27日付)

 米国は、最終的に核戦争被害を背負うことができずに戦争を放棄した。もちろん、このプロセスに文在寅政権が影響を及ぼしたという、いかなる資料も評価も存在しない。前述の19日付中央日報報道は「韓国はこのように韓半島で全面戦争に拡大しかねない一触即発の危機的状況を議論する際に、一度も招待されなかった。米国は戦略兵器である核兵器に関しては使用計画を同盟国にも協議しないからである」とした。

なんの根拠もない「同意なしには不可能」発言

 このようにみると、今回、大統領府の「韓半島での武力の使用はわれわれの同意なしには不可能である」という指摘には何の根拠もない。ただ「私も生きている」ことを知らせようとする一言の悲鳴にすぎない。悲惨だが、これがわれわれの現実である。

 このような悲惨な現実を示す徵表はあちこちに散らばっている。韓国政府は、在韓米軍の核兵器搬入如何を知らない。さらに、米軍が何人いるのかも知らない。細菌兵器の実験をするのかも知らないし、宅配便で生きている炭疽菌を搬入してもわからない。在韓米軍が国内に入ってくるときにコロナ19の検査もできない。梨泰院にコロナ19が急に広がった時も、在韓米軍関連説が広がったが、把握さえできない。京畿道抱川で駐韓米軍が安全対策を違反して自国民が4人も死亡したが、米軍には何らの責任も問えず、反対に米軍の責任を問う大学生の口を塞ぐことに余念がない。

 この状況を見ると、韓米関係は同盟関係ではない。ドイツをはじめ、多くの国で、米軍が駐留しているが、その国の政府の承認なしには、米軍が韓国のように勝手に動くことができない。ドイツのような国々と比較してみると、韓国は植民地と、誰かが非難して返す言葉がない。韓国で起こる米国関連のものは、植民地でこそ起こるような出来事である。だから悲惨で耐えがたい。

悲惨で耐えがたい

 文在寅政権は、米国の「承認」を追求する。しかし、「激怒」を見ると、トランプ大統領は、自分に激しく対する相手を好むという。この言葉の意味は、節操を持って自分の主張を強く提起するような相手を認めるということである。それとは逆にトランプの前に行くと、弱気でへつらい屈従する対象に対しては、犬畜生並みに扱う。トランプに低姿勢で接した安倍前首相は、日米首脳会談の席でレッドカーペットを踏むこともできなかった。記者がすべてを見ている場所でトランプ大統領がレッドカーペットに上がれないようにして恥をかかせたのだ。

 2019年2月12日トランプ大統領はホワイトハウス閣僚会議で「韓国が電話2~3本で防衛費分担金5億ドルを出すことにした」と韓国を犬畜生のように扱った。 2019年8月9日には、「ブルックリンの賃貸アパートで114.13ドルを受け取るより韓国で10億ドル受け取ることがより容易」と、また韓国を侮辱した。

 文在寅大統領は、このような悲惨で耐えがたい現実を正しく知って、これを打ち破らなければならない。そのためには、われわれが主権国家であることを誇示して、われわれの同意なしに、誰も韓半島で戦争を起こせないということを確立するべきで、その出発点に、政府は、韓米ワーキンググループと同盟会話を解体する、自主的で独立した姿を示さなければならない。(了)

© KOYU BUN