森トラスト・伊達美和子社長 不透明な東京五輪に「宿泊特需はもう想定していない」 独占インタビュー(後編)

-インバウンドが戻り始めるタイミングは?

 早くて旧正月に動けるかどうか。ただ、旧正月時期の動きは、中国だけの話ではない。これまで、インバウンドもアジアが中心で8割ぐらいあった。アジアに誘致のボリュームを持っていくことに課題はあったが、今の段階では逆にポジティブに働いたとも言える。ワクチンの普及や抗体によって行き来が可能となった時期には、欧米系も動き始める。それまでに、海外の観光客に向けて商品を充足させプロモーションしていけば、観光立国日本というのは、また存在し得ると思っている。

-観光で回復の早い地域は?

 沖縄は動員が早くに戻る可能性がある。国内外から需要がある。今夏の予約状況をみると、県内からの需要もあった。県外の移動が了承されてからも、沖縄の伸びは他のエリアに比べ良かった。これはやはり「ハワイにもグアムにも行けない。だから沖縄に行こう」という流れがあったのだろう。海、自然というのも魅力的に映ったとみている。
 沖縄の観光客数は当社が投資を始めた2015年が800万人弱。その後、19年には1000万人超まで増えた。増加した230万人のうち、約130万人が海外、約100万人が国内。19年までの間に、沖縄はインバウンド人気の裏で国内からも人気を集めていたということだ。

-背景は?

 沖縄は、バブル期までは盛んに開発された。しかし、それ以降ぱったり。この間にリーマンショックもあった。でも本来、沖縄は相当のニーズがあるのに、見合ったものが足りていなかった。それが充足され始めた。これまでは国内からのニーズに対し、単に商品(ハード)がうまく提供されなかっただけで「きちんと提供すればある」と言える。
 それと、沖縄では県内ニーズがしっかりある。場所によっては、魅力を感じにくいことを理由に県内の観光移動に消極的な地域も。沖縄は県内のコンテンツが非常に魅力的で、近場での観光ニーズが高いと言える。

-東京五輪・パラリンピックが無観客の可能性もある。影響は?

 テレビ放映でのスポンサー収入など、通信の世界での経済効果があるのだったら、その分は不動産には関係が薄いので、理解の範囲外になる。ただ、もし、無観客で“放映のみ”の観戦となったら、開催地はどこでも良いという話にはなるだろう。レガシーのためだけの開催になるかもしれない。そのためだけに、世界中から1万人の選手に来てもらい、大変な騒ぎになって、でも経済効果はない、という結果になる可能性も。
 個人的には、やはり今の状況で開催することについては疑問だ。観客の数は減るとは思うが、ちゃんとしたスタジアムの中で、観客も入ってという本来のスタイルだったら、開催すべきだとは思うが、今の新型コロナの状況をみていると、可能となる日がいつ来るのかあまりに不透明。それでも、開催するという前提に立ってコストは使い続けている。そう考えると、決断は早いほうがいいのでは。

-投資分が無駄になる可能性も

 ただ、作ったハードはなくならない。五輪会場として使えなくなるものはマンションとして活用する選手村ぐらいだ。
 それをクリアできたら、別にフランスの次の五輪を狙うでも良いと思う。不動産は、ホテルでも過去にバブルで倒産するようなところもあったけれども、土地、建物自体は腐ってなくなるわけではない。次のプレーヤーによって何らかの方法で使われる。今回の五輪の投資も、五輪がなければしなかったものがある可能性もあるが、ハード自体はやはり活用するために作っている。であれば、次につながるはずだ。投資に掛けた分が完全に無駄になるわけではない。

-五輪が無観客となったとき、宿泊需要も蒸発する/span>

 本来なら、今年が五輪開催で宿泊も予約が入っていた。そういう意味で、特需がある年だと思っていた。ただ、予約分は今年の予算の中から完全に落としている。21年の分も載せていない。想定をもうしていない。あくまで「(有観客での開催が)決まればプラスになる」としかみていない。新型コロナを取り巻く環境がもう少し改善した場合のレジャー需要、ビジネス向けの需要が通年に対してどのレベルになるか、しかみていない。

-五輪で来日する層は富裕層が中心か?

 19年のラグビーワールドカップのときは、明らかに富裕層中心と言われていた。だが、五輪の場合は、それに比べたら幅広く訪れるだろうという認識だ。なので、民泊的な場所もニーズがあったはずだ。

-昨春のインタビューで、都市部の低価格帯ホテルの供給量過熱を指摘していた。今後の見通しは?

 ホテルは、もちろん昨対比では落ち込んでいる。ただ、エリア別でみればリゾートが強い。都心でも今、わざわざ宿泊するのはリゾート・レジャー目的だ。たしかに、ラグジュアリー系の方が集客できている傾向にある。この都外に出にくい状況で、東京に住む人たちは「じゃ、都心のホテルに行ってみようか」という話になる。そこで、どういうホテルに足を運ぶかというと、非日常を味わえる “高級な”ホテルに出向く。わざわざバジェット(低価格型)にはいかない。
 一方で、ただ単純に価格を下げることが得策ではない。価格競争するのではなくて、やっぱりそのホテルに合った単価を設定しながら、低稼働でもちゃんと運営できて、質の良いサービスを提供していくことが正しい戦略だ。

-札幌をはじめ、地方ではデベロッパー各社が開発を停止している案件も。背景は?

 我々も、もともと札幌で2018年ぐらいから2020年の間にオープンを予定していたものもいくつかあった。札幌の案件の場合は、端的に言うと、マーケットの理由というよりも、建築コストが高かった。建築コストが高くても都心だったら「進めたほうが良い」と決断できる。
 それ以外の地域では、今後、その土地の経済状況がどうなるか不透明。持続的に耐えていくには高い仕入れで作ってはいけない。そこで、仕入れ値が抑えられるタイミングまで待つことになった。都内でも赤坂のプロジェクトは予定通り進めている。

-都心も人気は港区が中心か?

 港区は、もともとオフィスだけではなく住宅のニーズも高く、飲食店やミシュランの星が一番多い区。エンターテイメントもあり、緑や大使館も多く、外国人も住んでいる。いろいろな層が住める住宅があるとしたらニーズがあると思っている。職住近接で、ほど良い関係にすべてのものがあるのが一番の理想。しかも、教育関係も整っているとなれば、住宅のニーズは強い。
 建物が古くて投資がされないと、競争には負けるが、その土地としてはその次の土地としての活用法が待っている。万が一、オフィス需要が減った場合も、ホテルが強ければホテル、住宅が強ければ住宅になる。ただ、今は住宅のニーズが必ずあるので、住宅は増えるとみている。

森トラスト2020後編

取材に応じる伊達社長(TSR撮影)

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