ハミルトンのスタート練習違反:許可したメルセデスF1「あの場所でやるとは思わなかった」

 メルセデスF1チームのトラックサイド・エンジニアリングディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、2020年第10戦ロシアGP決勝前にルイス・ハミルトンがスタート練習をした場所を正確に知った時、スチュワードがこれを問題視するかもしれないと覚悟したと明かした。

 決勝スタート前のラップにおいて、スタート練習をする際、ハミルトンは、ピットレーンの通常の位置よりも先の方で実施したいとチームに告げ、チームは許可を与えた。しかしスチュワードはその位置は事前の指示とは異なり違反行為であると判断、ハミルトンには5秒のペナルティふたつが科され、ポールポジションを獲得しながら勝利のチャンスを失った。さらにペナルティポイント2も与えられたことで、将来出場停止となる可能性も高まったが、レース後、スチュワードはチームが許可を与えたという事実を確認したため、ペナルティポイントについては撤回している。

2020年F1第10戦ロシアGP 決勝後記者会見でのルイス・ハミルトン(メルセデス)

 ハミルトンが他の場所でスタート練習をすることを望んだのは、グリッドにできるだけ近いグリップ状態の路面を求めていたからだった。「ここはラバーが乗っているから、もう少し先に行ってもかまわない?」とハミルトンは無線でチームに尋ね、レースエンジニアのピーター・ボニントンは「OK」と答えた。「ピットウォールの終わりの方まで行っていい?」と確認するハミルトンに対し、ボニントンは「了解。他のマシンのために十分スペースをあけておくように」と指示した。

 しかしチームは、ハミルトンがピットレーンのどのあたりまで行くのか把握しておらず、2回目のスタート練習を見て、ようやく正確な位置を知ったということだ。

「フロアにボックスが描かれているところもあり、そこではそのなかで(スタート練習を)行わなければならない」とショブリンは説明した。

「それ以外のところでは、一般的なエリアということになる。(スタート練習が行われる場所は)大抵かなりラバーが乗っており、グリッド上のコンディションとは異なっている。ドライバーやエンジニアは、グリッド上のグリップレベルに近い状態で練習をしたいと思うものだ」

「あの時ルイスは、もう少し先に行ってもいいかとだけ尋ねた」

「彼がどのくらい先まで行くのか、我々は分かっていなかった。あの時は、実際にレーススタートをする際のグリップレベルに近い路面を探していたのだ」

 2回目のスタート練習でハミルトンの位置を確認した瞬間に、チームは、スチュワードが問題視するかもしれないと思ったという。

「我々には1回目の時は見えなかった」とショブリンは語った。「そして2度目に見た時に思った。彼ら(スチュワード)はよくは思わないだろうと」

「しかしそのことが危険だとは思わなかった。与えられた注意書きには、『ピット出口(信号)先の右側』と書いてある。表現が曖昧であり、警告を受けるだけで済むのではないかと思った」

「(ハミルトンの)マシンの停止位置を見た時、彼ら(スチュワード)がそれを気に入らないとしても驚かないと思った。あの時、FIAとスチュワードは自身でそれを発見したが、同時に他のチームが(FIAに)知らせたことも間違いないだろう」

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