数えるのが困難なほど多いコレクション
芸能界に入る前からコレクション関連の取材が多い。素人時代からコレクター界ではそこそこ有名人だったので、雑誌や新聞などの取材を受けたり専門誌に資料提供したりしていた
。資料提供は現在もやっているので、特撮関係の専門誌やDVDやイベント図録の巻末を見ると“協力”という形で名前が出ているものもある。
テレビ番組のコレクション取材を受けた時に必ず聞かれるのがコレクション数である。この質問は愚問であるので、とりあえず「数が数えられるうちはコレクターとして“白帯”クラス。“黒帯”クラスは数が数えられなくなってから」と答えている。
時には「コレクションをデーターベース化しませんか?」と言ってくる企業もいるが、こちらとしては、どうぞ勝手にやって下さいって感じだ。数えられるものなら数えてデータ管理してもらいたいくらいだ。
なぜ数えられないのか?
それは物によっては紙きれ一枚がコレクションである場合もある。そして、コレクションと呼ぶには微妙というものもある。そんな微妙な物がダンボールで何十箱もあるのだから嫌になる。これを数えるのは刑務所に入れられて、数える事が毎日の仕事にならない限り無理だろう。
それに比べ、立体物のコレクションは良いよね。数も数えやすいし存在感もある。だが、立体物も同じでダンボールやクリアケースに大小様々な物が何十箱も収納されているので、こちらも刑務所での刑罰でない限り数えるのは嫌だ。
貴重な情報を得られるお宝
そんな数あるコレクションの中から、今回は撮影用プロップコレクション、さらに絞って「パーツ&破片コレクション」をご紹介しよう。
「パーツ&破片コレクション」は物の一部分であるので価値があるのかないのかよくわからない。だからといって全く価値がないわけでもない。でも『なんでも鑑定団』のような番組では値段が付けにくいので出品は無理だろうな。
そんなものを何故所有しているのかというと、それらから様々な情報を得られるからである。色、素材、作り方、これらがわかるだけでも物凄い情報なのだ。
恐竜の化石、永久凍土の中から出て来た太古の生物、土器、骨、ミイラ、等々。考古学界でも様々なパーツから多くの情報が得られるが、それと同じだ。
こういった情報がないと、正しいプロップ復元も難しくなる。何となくの復元と正確な復元はえらい違いだ。考古学であれば炭素測定法などで年代を調べるが、プロップは映画&テレビ番組作品の年代がわかっているのでその心配はない。
パーツといっても大小様々だ。まずは大きなものから紹介していこう。1970年代のゴジラの背びれ。おそらくアトラク用(アトラクションやアクションショーに使用されるもの)だと思われるが、撮影用と作りはさほど変わらない。発泡スチロールを削り、布を貼ってラテックスが塗られている。
1980年頃、東宝特美倉庫に保管されていたゴジラ達を見た事があるが、撮影用もアトラク用も全て全身が真っ黒で背びれは銀色だった。そういった事から、その時代の背びれである事がわかる。
同じゴジラ背びれでもミレニアム時代は作りや色が違ってくる。『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999)に登場したゴジラの背びれ先端はメタリックパープルだ。この背びれは発泡スチロール製で、爆破でふっ飛ばされたもの。まさに破片。
『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)に登場したゴジラ背びれ。この背びれは中央メインの背びれの脇に並んでいる小さい背びれで、予備で作られたもの。素材は発泡ウレタンなので硬いけど弾力がある。
プロップコレクションの第一号
『ゴジラ2000 ミレニアム』に登場した敵怪獣オルガの円盤の破片というものもある。素材はFRP(繊維強化プラスチック)だが、この破片により色がわかる。銀色でも種類が色々あるので、これさえあればフィギュアを作り塗装する時でも正確な色がわかるので非常に助かる。
この連載で前にも紹介した平成キングギドラのウロコ。型にラテックスを塗りドンゴロスで裏打ちをしている。こういったものを何百枚作り体に張り付けていったのだからキングギドラ1体作るのがどれだけ大変な作業だったかご理解いただけるだろう。キングギドラは全身ウロコだから大変だよ。
キングギドラも東宝のスター怪獣だが、他にもモスラというスター怪獣がいる。モスラが生まれる時、卵を割って登場する。素材はFRP製の卵の殻。モスラが登場する多くの映画に出演した俳優の小泉博さんのサインを書いてもらっているので、ただの破片から価値がさらに昇格している。
映画に登場する怪獣関連では、ガメラの傷というのもある。戦闘で傷付くガメラの傷は、人間の特殊メイクと同じ方法で作られている。着ぐるみの表面に傷のモールドを張り付けるのだ。その傷もコレクションの一つ。
怪獣のパーツでは、ウルトラマンレオに登場したレッドギラスのコブというのもある。1978年、円谷プロの近所に住んでいる同級生に連れられ円谷プロ怪獣倉庫見学に行った時、怪獣倉庫で怪獣の着ぐるみをメンテナンスしているおじさんがレッドギラスのコブをむしり取って「あげるよ」と渡してくれた。
実はこれが“なべやかんプロップコレクション”の第一号である。まさかこのコブからプロップコレクションが増殖するとは!何がきっかけになるかわからないね。
怪獣作りといえば、高山良策さんは怪獣着ぐるみ作りの神の一人だ。高山さんが作った怪獣達の出来が良すぎたので、今現在もウルトラ怪獣はその呪縛から抜け出せないでいる。
神である高山さんの工房から出て来たお宝パーツもある。高山さんが作った怪獣は瞬きする事で生物としてのリアル感を出した。その瞼がある。瞼はラテックス製で型から抜かれたもの。ラテックスの薄い抜きでバックアップはされていない。瞼開閉ギミックの上にこの瞼を張り付けて使う。
スペクトルマンに登場した宇宙猿人ラーの手がある。この手はギニョールサイズのものなのでとても小さい。指先が気泡だらけなので、高山さんの失敗作だろう。型抜きする時、先の細いものは気泡が入りやすい。神がミスったもの、これこそお宝だ。
ゴミと勘違いされ捨てられそうに
様々なパーツを紹介したが、最後にハリウッド映画のパーツをご紹介しよう。
まずは映画『エイリアン』のミニチュアセットのパーツ。H・Rギーガーの世界観を表現したセットだったので、多くのパイプが使われている。このパーツを手にしてわかったのが、粘土が使われていたという事。芸術家であるギーガーが粘土にパイプを埋め込んで作っていったのだろう。
作業は造形スタッフがやったとしても、このパーツで当時の現場の雰囲気もわかってくる。
最後は映画『バットマン』のバットカウルのパーツ。バットカウルとは、バットマンの顔の部分、つまりマスクの事を言う。こんな切れ端を見せられて「これがバットマンのカウルの一部だ」と言われても信用されにくいが、これは紛れもなく『バットマン フォーエヴァー』(1995)で使用されたバットカウルのパーツなのだ。
バットカウルはフォームラバーで作られているので、時が経つと硬化してボロボロになってしまう。『バットマン リターンズ』 (1992年)のバットカウルを持っているが、30年近く経っているので超ボロボロ。かろうじて何とか形を保っているが、更に劣化するであろう。
仲の良い人が『バットマン フォーエヴァー』のバットカウルを持っていたが朽ちてしまい、残った破片を頂いた、というわけだ。
今回はパーツや破片を紹介したが、コレクションルームを探せば、まだまだそういったものが他にも出て来ると思う。これらのパーツ&破片、自分が死んだら遺族は困るだろうな。
部屋の片付けを手伝ってくれた奥さんがゴミだと思って捨てようとしたこともあった。時には「これは何処に置いたらいい?」って死んだゴキブリのミイラを持ってきた事もある。
「これはお宝グッズではなく死んだゴキブリだよ」って教えたら「どれがお宝でどれがゴミかわからない」とブチ切れられたからね。
今後はこういったものでも、他人が見てわかるようにキャプションを付けてケースに入れないとだめだろう。人生、まだまだやる事が多いな。