絶景と秘湯に出会う山旅(15)白駒の池と苔むす森、そして蓼科親湯温泉<長野県>

Go Toトラベルキャンペーンが始まり、少しずつ観光地に客足が戻ってきているようですね。というわけで、心を癒やしてくれる不思議な苔の森と、居心地のよい温泉宿への旅はいかがでしょうか。今回は信州・蓼科の白駒の池と苔むす森、そして大正15年創業の老舗宿、蓼科親湯温泉をご紹介します。

(C)Masato Abe

緑の絨毯に覆われた幻想的な苔の森

八ヶ岳には国内のコケの4分の1が自生するといいます。そして白駒の池周辺だけでもおよそ500種類が自生し、2008年に日本蘚苔類学会より「日本の貴重な苔の森」として選定され、保護されてきました。その緑の絨毯に覆われた苔の森をいちど見てみたいものだと願っていました。

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白駒の池、そして周辺の美しい苔の森は八ヶ岳連峰北部の標高2,115mの地点にあります。とはいえ、苔の森の入口まで舗装道路が通じていて、車はもちろん、路線バスでも行くことができるんです。白駒の池の入り口は駐車場と直結していました。池までは歩いて10分ほどらしいのです。木道が敷いてあり、ゆるやかな坂を上ってゆくと、すぐに不思議な光景が飛び込んできました。

ちなみに地元では「白駒の池」と呼ばれているようですが、国土地理院の表記は「白駒池」となっているようですね。

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木道の脇には、美しい針葉樹の木立が広がっていました。コメツガやシラビソ、トウヒなど亜高山帯針葉樹林の原生林だといいます。

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そして大小さまざまな溶岩が堆積し、その上にはたくさんのコケが緑の絨毯のように密生しています。岩の表面や陥没してできた木の空洞、そして倒れた樹木など、その上を覆うように緑色のコケが神秘的な風景を作っています。

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しばらく歩くと上の写真の通り、白駒の池の案内図が出てきました。池のほとりには2つの山小屋があり、池は周回できるようになっていました。歩いて1周35分ほど。また周辺には区域ごとに10カ所、特色的な苔の森ができあがっているんだそうです。

(C)Masato Abe

時計回りに歩いてみましょう。少し歩くと、一つ目の山小屋、青苔荘(せいたいそう)の建物が現れました。宿泊もテント泊もできますが、今年に限っては完全予約制なんだそうです。

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青苔荘では、ルーペや実体顕微鏡を使って、定期的にコケの観察会などを催しているそうです。

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青苔荘の前に広がる白駒の池です。ここは、八ヶ岳の溶岩流の窪地に、湧水や雨水が溜まってできた池だそうです。この日は霧が立ち込め、薄暗い天気でしたが、これはこれでとても幻想的でした。

こんな森は見たことない「もののけの森」

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青苔荘を過ぎて、池を周回していきます。なぜこれほどの苔の森ができあがったのか、理由はわかりません。ただ個人的な感想ですが、この日もそうだったように霧が発生しやすく、湿度が高いのではないでしょうか。そして高木が多く、日陰ができやすくなっています。薄暗く、湿気のあるところをコケは好むでしょうから、環境に適応したのかもしれません。

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木道をしばらく歩くと、起伏にとんだ地面一面にコケが密生する場所が現れました。こんな景色は見たことがありません。標識には「もののけの森」とあります。たしかに映画「もののけ姫」の舞台にもなる、もののけが住んでいるかのような不思議な雰囲気に満ちています。そして、この緑の絨毯がなぜか、心を癒やしてくれるのです。

(C)Masato Abe

密生するコケに近づいて見てみましょう。上の写真は(たぶん)ミヤマクサゴケと呼ばれるコケのようです。大切なコケですから、現場では木道から外れないようにしてご覧ください。ルーペを持ってくればよかったと痛感しました。カメラ撮影は接写レンズを付けることで、さらに美しい世界を覗き見ることができるかもしれませんね。

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上の写真はセイタカスギゴケだと思われます。八ヶ岳ではもっともポピュラーなコケだそうで、上に延びている白い部分に胞子が詰まっていて、それを飛ばして繁殖するのだといいます。

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ぼんやり見ていると緑一色ですが、目を凝らしてコケの世界を眺めると、少しずつ形の違うたくさんのコケが、ありとあらゆる場所に棲息しているのがわかります。この小さな世界も心を和ませてくれるのです。

白駒荘でのんびりとお茶を

(C)Masato Abe

案内図には1周35分と書いてありましたが、実際に歩いてみると、立ち止まったり、写真を撮ったり、寄り道したりで1時間以上かかるかもしれません。それだけ不思議で魅力的な世界なんです。

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池の周りを一周した後、湖畔の山小屋・白駒荘でひと休み。お茶をいただきました。ケーキセットもありました。写真はほおずきソースのシフォンケーキ、フルーツ添えです。幻想的な森と湖面を眺めながらのお茶は格別。ちなみに白駒荘では宿泊もできますよ。

本棚が財産でもありインテリアでもある老舗宿「蓼科親湯温泉」

(C)Masato Abe

この日の宿は、白駒の池から車で30分ほど、標高1,350m地点にある蓼科親湯温泉です。大正15年創業の老舗温泉ホテルで、2年前にリニューアルして大人気なんだそうです。とてもフォトジェニックで、それでいて落ち着いた佇まいの、素敵な宿でした。

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まず驚かされたのは、広いロビーホール一面に並ぶ書棚と膨大な本の数々。「みすずLounge & Bar」と名付けられたスペースなんだそうですが、図書館以上に美しく整然としていて圧倒されます。

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出版社のみすず書房社主が茅野市出身であり、岩波書店の創業者・岩波茂雄氏も諏訪市出身で、書籍を通して日本の文学や哲学に大きな功績を残していることから、その名を冠したスペースを創ったというのです。

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蔵書の数3万冊といいますから驚きです。貴重な本や古い本もたくさんある様子で、宿に籠って読書三昧もアリですね。ロビーですからもちろん夜も開いているので、夜中に読書もできますし、もちろん休息できます。本がある環境はとっても心が和みます。

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しかも各階の階段や通路、さらに浴場前にも書架があり、本が並んでいます。美しいインテリアにもなりますね。ともかく、これだけ本が並ぶ宿は初めて。

(C)Masato Abe

さらに個人的にうれしかったのは、上の写真の「岩波の回廊」。通路に膨大な岩波文庫がずらっと並んでいました。いまや本屋さんや図書館でも、これだけの岩波文庫をそろえているところは少ないんじゃないでしょうか。昔読んだ懐かしい文庫もありました。

(C)Masato Abe

もうひとつ気に入ったのは、ロビーに並ぶトリップカードでした。宿の周辺にあるさまざまな観光地をカードにしたもので、裏側にはその観光地の連絡先や見どころが書かれています。わかりやすく、オシャレですね。

(C)Masato Abe

実は客室にも本が置かれているのです。今回宿泊した部屋には夏目漱石や石川啄木全集、そして西田幾多郎全集がありました。そして窓を開けると木々の緑と大きな空が目の前に広がります。このほかにも年配の方に配慮して、畳にツインベッドを入れた洋室や、段差のないユニバーサルデザインの部屋もあるんだそうです。

女性客が喜ぶ多彩なお風呂

(C)蓼科親湯温泉

さて温泉ですが、こちらもたいへん気持ちのよいお風呂でした。泉質は単純温泉といいますが、成分分析表を見るとナトリウムや硫酸成分、またメタケイ酸が多く、いわゆる美肌の湯なんですね。また大浴場は足が滑らないように畳が敷かれています。露天風呂も大浴場に併設されていました。

(C)蓼科親湯温泉

また女性にはうれしい、大きな露天風呂があるのだそうです。木立に囲まれ渓流に臨む露天風呂。とても気持ちがよさそうですね。

(C)蓼科親湯温泉

さらに3つある貸切露天風呂は、カップルや家族で楽しむこともできます。30分の予約制ですので、フロントでチェックしてみてください。

絶品!個室でいただく「山キュイジーヌ」

(C)Masato Abe

そして、お待ちかねの夕食です。食事は食事処に並んだ個室でいただきます。「山キュイジーヌ」と題して、1泊目は洋食のフルコース、2泊目は和食を楽しむことができます。地元の蓼科や信州の山の幸をふんだんに使い、一皿一皿すべてに丁寧なつくりがうかがえます。上の写真は「蓼科縄文卵のフラン 焼き茄子のヴルーテ わさび菜チーズのタルトのせ」。

(C)Masato Abe

そしてこちらは「サーモンとホタテ洋風煮込み 信州みそ仕立て」。メインは下の写真で「蓼科牛のソテー2種の味わい シャリアピンソース&安曇野産のきざみわさび」。その前後にも絶品料理が供され、大満足で満腹となりました。

(C)Masato Abe

食事、温泉、居心地、3拍子そろった大人の宿です。蓼科に伺う時にはまたお邪魔したくなりました。自然を満喫し、心を癒やせる蓼科の旅。みなさんもこの秋のGoToトラベルキャンペーンで、蓼科の絶景と秘湯を旅してみてはいかがでしょうか。

蓼科親湯温泉

住所:長野県茅野市北山4035

交通アクセス:JR茅野駅東口から午前と午後に無料の送迎バスあり(10:10発、14:40発)

電話:0266-67-2020

HP:https://www.tateshina-shinyu.com/

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