レンタルの概念が変わった?アメリカのアパレル事情

 新型コロナウイルスによる負の連鎖 

  世界中で新型コロナウィルスの影響で、旅行業や飲食業のみならず、多くの小売業が店舗の縮小・閉鎖や経営破綻、人員削減の危機に直面している。世界最多の感染者数を持つアメリカでは、200年の歴史を持つブルックス ブラザーズやカジュアルブランドの代名詞でもあったJ.クルーが経営破綻した。また、2020年4〜6月期の赤字転落という業績悪化により、世界で15%の人員削減を決めたラルフ ローレンや、財政難が原因で従業員の一時解雇や家賃未納が明らかになったGAPなど、アパレル企業を取り巻く環境は依然厳しいままだ。

  以前から消費者の行動変容に伴いデジタルシフトが叫ばれていたものの、長年の大量生産というスタイルで従来のビジネスモデルを継続していたアパレル企業にとって、大量店舗の閉鎖自体に膨大なコストがかかることもあり、次なるフェーズへの舵の切り替えはこれまでどちらかというとスローペースであった。

 しかしこの未曾有の危機によって、いま、ファッション業界でも急ピッチにデジタルシフトが進められている。コロナ以前からデジタルを推進していたアパレル企業の中には、店舗とECをシームレスに繋ぐOMO戦略によって大幅な損失を回避したところもある。つまりは、抜本的な改革を進められずにいた結果、新型コロナウイルスの影響で窮地に立たされたブランドが多いのだ。

 レント・ザ・ランウェイの循環経済

 ここで、いまやデザイナーズブランドにおけるレンタルサービスの草分け的存在であり、時価総額10億ドルにまで成長したレント・ザ・ランウェイを紹介したい。

 2009年、ハーバード・ビジネススクールに通っていたジェニファー・ハイマンとジェニファー・フライスによって創設されたレント・ザ・ランウェイは、所有よりも共有を好むミレニアル世代を中心に支持されており、現在約900万人の会員が参加していると言われている。

 レンタルといえば、結婚式のお呼ばれや卒業式など、いわゆるハレの日をイメージするものだが、ここでは特別なパーティだけでなく、トレンドを盛り込んだ旬の日常着もオンラインでレンタルできる。メゾン マルタン マルジェラやヴィクトリア ベッカム、パコ ラバンヌ、3.1 フィリップ リムなど、ファッションの主要都市でランウェイを開催するファッション好きならおなじみの最先端ブランドが、サブスクリプション型のサービスでお手軽に利用できるのが売りだ。

  現在、700近いデザイナーズブランドを取り扱っているが、月額69ドルのトライアルに始まり、ひと月4着まで借りれる月額89ドルと、ひと月何着でも借りれる月額159ドルのプランを用意している。また、必要な時に必要なものだけ借りたい人向けに1着につき30ドル〜のプランもある。なお、気に入ったアイテムはメンバー価格での購入も可能だ。

  レント・ザ・ランウェイの人気の秘密は、20〜30代の女性が普段なら何着も買えないような高価な服を気楽に借りれるところにあるだろう。そして、これまでデザイナーズブランドはレンタルに対して懐疑的な視点を持っていたが、消費者の価値変化に合わせてブランド側も寛容になってきた。まずはレンタルで服を試すことから認知してもらい、ブランドに対してミレニアル世代が憧れを持ってくれれば、新規顧客の獲得にも繋がる。

  また「レンタルは、リサイクル」という信念のもと、レンタルをサスティナブルな行動と捉えているところも魅力的に映るのかもしれない。過剰な生産と廃棄を繰り返すファッション業界の悪しき慣習、といった様々な社会課題の解決に繋がるビジネスを推進する姿勢が、環境問題への意識が高い若年層に支持されている。ストック管理から返送があった服の検品、汚れ除去、スチームクリーニングや修繕にいたるまで、品質管理を徹底しているそうで、その日に戻ってきた服はその日のうちに次の人へ届けるというスピーディな循環経済も、消費者のニーズにマッチしているのかもしれない。

  先行き不透明な状況が続く中、NYにある旗艦店を含め、サンタモニカやサンフランシスコ、ワシントンにある実店舗でのサービスを終了するなど、レント・ザ・ランウェイも御多分に漏れず新型コロナウイルスの影響は受けた。ただ、最初からデジタル中心でファンを増やしてきたこともあり、これからの顧客起点でDXを加速させるとのこと。レンタル(シェアリングサービス)、サブスクリプションで成功事例を作ったこともあり、売り切り型ではなく継続的なマネタイズの方法としてレント・ザ・ランウェイをベンチマークしているアパレル企業もあるが、今後もニューノーマルの時代に合った消費スタイルを牽引してほしい。

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