屈指のタレント揃いも“チーム内戦力差”露見 データが示す日本ハムの苦戦

日本ハム・栗山秀樹監督【写真:荒川祐史】

近藤や中田、有原ら球界でも指折りの選手を抱える日本ハムだが…

出塁率1位の近藤健介、本塁打と打点でリーグトップを争う中田翔、先発の軸に有原航平、上沢直之とリーグでも屈指のタレントがいながら、チームとしてなかなか波に乗れない日本ハム。そんな日本ハムのペナントレース前半戦の得点と失点の「移動平均」から、チームがどの時期にどのような波だったかを検証する。(数字、成績は10月1日現在)

「移動平均」とは大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、

「得点>失点」の期間はレッドゾーン
「失点>得点」の期間はブルーゾーン

で表している。

日本ハムの得失点推移【図表:鳥越規央】

開幕カードの西武戦では2勝1敗と勝ち越したものの、その後の同一カード6連戦で5カード連続で勝ち越しなしと波に乗り切れない状況が続いた。勝つ時は僅差、負ける時は大差という戦いぶりが大きなブルーゾーンに反映されている。

その後も大きな貯金が作れず、勝率5割ラインを波打つように這っている。カード別で見ると10月1日現在、西武には12勝6敗と勝ち越しているが、ソフトバンクに6勝11敗、ロッテに8勝12敗と負け越し、貯金と借金がほぼ相殺されている状況。また、楽天、オリックスには勝率ほぼ5割となっている。

有原、上沢、バーヘイゲンに続く先発投手の運用に苦戦

次に、日本ハムの各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。

日本ハムのポジション別得失点【図表:鳥越規央】

グラフでは野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAA(失点ベース)を表しており、赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いということになる。

先発投手陣では、有原航平が先発15試合中10試合でクオリティスタート(QS)、6試合でハイクオリティスタート(HQS)を記録。また昨季、骨折でリタイヤした上沢直之も復帰し、先発12試合中QS9試合、HQS6試合、防御率2.37と安定の投球でローテーションの軸を担っている。また両投手ともイニングイーターとして、救援投手陣の負担軽減にも一役買っている。新加入のバーヘイゲンも好不調の波が大きいながらも、5割以上のQS、WHIP1.16、奪三振率8.99と結果を残しており、先発投手のプラスの貢献に寄与している。

ただ、この3人が先発する試合以外では、先発投手の運用に苦労している様子が伺える。数年前から積極的に導入してきた「ショートスターター」や「オープナー」もそれほど機能しているわけではなく、先発が4イニング未満で降板したときの勝率は.133にとどまっている。救援投手陣も防御率4.29でリーグワーストと奮わない。またフィールド内に飛んだ打球をアウトにした割合を表すDER68.2%もリーグワースト。失策57と守備に綻びが入っていることも苦戦の要因となっている。

日本ハムの打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

打線は上位と下位に大きな差が生まれている

打撃陣では、西川遥輝、近藤健介、中田翔、渡邉諒、大田泰示の5人を屋台骨としてオーダーを形成。開幕当初は

1番 西川遥輝
2番 大田泰示
3番 近藤健介
4番 中田翔
5番 渡邉諒

と、この5人を上位打線に固める形だったが、大田が6、7月の打率が.229、OPSが.574と絶不調に。7月中旬以降は、杉谷拳士、松本剛などが2番に入ったが、リーグ平均の打撃力に比べると非力であることは否めず、ここに大きな分断が生じてしまっている。

1番の西川、3番の近藤、4番の中田が好調なだけに初回得点確率は35.2%とリーグ1位ではあるが、5回以降の得点確率がリーグ平均を大きく下回る。上記の5人の打撃成績が打率.290、OPS.825であるのに対し、5人以外は打率.213、OPS.576と差が大きく、5人の後を打つ下位打線での得点が期待できない状況となっている。

得点効率を高めるためには、1~5番に5人を固めた打線を組むのが最善策と思われるが、大田を2番に戻せば、出塁したクリーンナップを本塁に迎え入れるための打者の駒が不足してしまう。2年前に放出したレアードの穴がなかなか埋まっていないことが、サードのグラフに表れている。現時点ではビヤヌエバの復調か、ファイターズ初の育成からの支配下登録となった樋口龍之介の成長に期待することになるだろうか。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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