躍進ダンロップ。その強さのポイントは。そして2メーカーのユーザーが抱えるジレンマ《第5戦GT300予選あと読み》

 終わってみれば、ブリヂストンタイヤ装着勢がトップ3を独占。午前こそ13番手と伸び悩んでいたADVICS muta 86MCがスーパーGT第6戦富士のポールポジションを獲得した。中盤戦となる第5戦で、ウエイトハンデが響くマシンが多いなか、公式練習から短い時間でセットアップを変更し、阪口良平がギリギリでアジャストしQ2に進出。阪口の意見をうけた小高一斗が、持ち前のスピードを発揮し決めたポールとなった。

 そして、今回の予選はブリヂストン勢に加え、ダンロップタイヤ装着車も上位につけた。驚きとも言えたのがランキング上位陣がみせたスピードで、ランキング3位ですでにウエイトハンデ100kgに到達しているSUBARU BRZ R&D SPORTが3番手。またニッサンGT-RニスモGT3が得意なコースとは言え、GAINER TANAX GT-RがQ2進出を果たし14番手につけたのも驚きだ。展開によってはポイントも十分狙える。前戦もてぎから続く流れだ。

「ダンロップについて言えば、タイヤがすごく進化しています。荷重の変動に対してすごく強くなっています。開発しているタイヤはGT-R用というわけではないタイヤで、スバルはウエイトハンデを積んだ車重がGT-Rのもともとの車重くらいですからね」というのは、GAINERの福田洋介チーフエンジニア。2019年第8戦から投入されたものをベースに開発されてきたもので、この荷重に強いというところが、ウエイトが載っていても速いというところに繋がっているのだとか。

 これについては、“ライバル”であるHOPPY Porscheの土屋武士監督も「ブリヂストンはブリヂストンがもっている力があり、ダンロップについては低μのもてぎや寒い時期は速かったですが、高荷重サーキットでもいけるノウハウがGT500を含めてついてきている。ちゃんとピークもあって、もたせられる知見がついてきていると思います。これは去年あたりから見えてきていますね」という。福田チーフエンジニアの説明とも合致するのは非常に興味深いところだ。

 また、3番手につけたSUBARU BRZ R&D SPORTの澤田稔チーフエンジニアは「ダンロップはもてぎでもここでも良い方向にありますが、タイヤがしっかり発動してくれています。ウチの苦手な部分を、タイヤで補ってくれているところはありますね」という。

「タイヤで重要なのはグリップのレベルが高いこと、それでいてしっかりもつこと。その底上げがしっかりできているのだと思います。レンジ等はそれぞれ違いますが、我々にはしっかりマッチしていますね。今年の成績は、タイヤの向上がすごく影響しています」

 第4戦もてぎではGAINER TANAX GT-RもSUBARU BRZ R&D SPORTも、決勝でたしかにあからさまなペースダウンは見られなかった。今回の決勝でも、その強みは大いにあるかもしれない。もちろんK-tunes RC F GT3も、今回も次戦鈴鹿でも怖い存在なのは間違いないだろう。

2020年スーパーGT第5戦富士 GAINER TANAX GT-R(平中克幸/安田裕信)

■ヨコハマとミシュランの“ジレンマ”

 近年ブリヂストン勢が強さをみせているなかで、ダンロップが台頭する流れが見えつつあるGT300。一方、ヨコハマ勢も少しずつ巻き返しをみせつつある。HOPPY Porscheの土屋武士監督は「昨年まで『打倒BS』と言っていましたが、ダンロップさんごめんなさいと(笑)。今は完全に二強になりつつあるので、頑張れヨコハマという声も聞こえてきています。その責を背負いながらやっていきたいですね」という。

「我々は今年からGT3を使っていますが、今回ようやく基準となるタイヤができました。ここから細かく積み上げていく作業に入ります。ポルシェが欲しがっているところに対して、エンジニアも理解が進みました。ストレートスピードはBoPで弱い部分はありますが、そのなかでこの順位は悲観的でもないですね。もともとポルシェは一発が出ないクルマですから」

 ヨコハマ勢では、リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rが6番手。グッドスマイル 初音ミク AMGも9番手につけており、10番手のHOPPY Porscheとともに決勝でどんなパフォーマンスをみせてくれるのか期待したいところだ。ただ、土屋監督はこんな指摘もする。

「ヨコハマの辛いところは、台数が多いこと。少ない台数であれば、そのレースに向けて3種類のタイヤを作り、そのうち2種類を選ぶことができる。でも台数が多いヨコハマは、2種類しか作ることができないんです」

「2種類を選ぶとなると、攻めたチョイスはできない。これはすごくジレンマなんですよね。でもヨコハマがGT300を、日本のモータースポーツを支えてくれているのも間違いない。もしフェアにするのであれば、誰でもどのメーカーのタイヤを買えるようにするか、少なくとも30台のうち、最低で面倒をみる台数を決めるかだと思うんです。もちろん難しい部分はあり、そうはいきませんけど。今のところの解決策は『ヨコハマがんばれ』です(笑)」

 一方で今季から参入したミシュラン勢にとっては今回の予選は辛いものになった。SYNTIUM LMcorsa RC F GT3が24番手、PACIFIC NAC D’station Vantage GT3が25番手という順位。走り出しの路面がまだできあがっていない状態や、前戦もてぎのような不安定なコンディションでは速さをみせるが、今季これまでのドライの予選順位を見ると、やはり一発には伸び悩んでいるようにも見える。

 ミシュランは今季からGT300に参入するにあたり、“スーパーGTに特化したタイヤ”ではなく、世界各国に供給するGT3/GTE用のスペックから使用タイヤをチョイスする仕組みをとっている。コストパフォーマンスのバランスをとるための取り組みだが、“強み”はあるものの、専用タイヤではない分、やはりピークのパフォーマンスが出ていないと推測される。とはいえ、無交換ができるものでもないはずで、このあたりは使用チームにとっても悩ましいポイントになりそうだ。取り組み自体はうまくいって欲しいところだけに、難しいところだろう。

 そして無交換という単語を出したが、10月4日の決勝レースはその無交換作戦、もしくは二輪交換を採るチームがかなり多そうだ。もちろんレース前なのでどのチームが……というのは書くことはできないが、検討しているチームはかなり多かった。車種やタイヤメーカーによって異なるが、スーパーGT第5戦富士の決勝は戦略がものをいうレースになりそうだ。もちろん、それにはセーフティカーのタイミングも含まれる。

2020年スーパーGT第5戦富士 HOPPY Porsche(松井孝允/佐藤公哉)
2020年スーパーGT第5戦富士 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3(吉本大樹/河野駿佑)

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