ぶっちぎりポール獲得ARTA“全面見直しセットアップ” レースはWH軽量4組の熾烈な決戦へ《第5戦GT500予選あと読み》

 ここまで事前に予想されたとおりの展開となるのも珍しいくらい、スーパーGT第5戦富士の予選はウエイトハンデの軽い4台がトップ4を占める順位となった。そして、そのなかでもARTA NSX-GTの福住仁嶺が2番手のカルソニック IMPUL GT-Rをコンマ5秒突き放すという、まさに圧巻の速さを見せることになった。

 ARTA NSX-GTは第2戦の富士でもポールポジションを獲得しており、もともと一発の速さ、そして富士での実績も十分だった。だが、ここまでの成績はわずか4ポイント獲得のドライバーズランキング15位という低迷ぶり。第2戦富士ではトップの野尻智紀がアウトラップでスピンを喫し、第3戦鈴鹿では福住が接触、前回の第4戦もてぎではヘアピンで他者から接触を受けてリタイアするなど、今年のARTA NSX-GTはとにかくレースでの不運なアクシデントが多すぎた。

 そして、レースの不運以上に深刻だったのが、ドライバーたちがマシンのフィーリングに十分になっとくができていなかったことだ。

 第2戦富士でポールポジションを獲得した後も「マシンの速さはあるのですが、何か嫌なフィーリングを感じるんです」と野尻が話せば、前回のもてぎでは「ストレートで真っ直ぐ走れなくて、何か壊れているのかなという感じでした」(野尻)と、その違和感の症状がさらに露わになってしまった。

 そして今回、ARTA NSX-GTは同じ富士ながら、第2戦でポールを獲得したときは大きく違ったセットアップでクルマを仕上げ、そして同じ富士で今季2度目のポールを獲得した。

 そのセットアップの変更度合いは「どのあたりを、と説明するのが難しいくらい、セットアップは全部変えています。そんなに変えて大丈夫ですか?というくらいの持ち込みセットでした(苦笑)」と野尻が会見で話すようなビッグチェンジだった。

 ホンダの車両開発責任者の徃西友宏エンジニアが今回のARTA NSX-GTについて話す。

「HRD(ホンダR&D Sakura研究所)からスタッフを派遣して、考えられる部分を全面的にチェックしました。そのなかで何かひとつの原因というよりも、いくつか疑わしいなと思う部分をすべてクリアにして今回持ち込みました。本来のクルマの状態から、いろいろな部分が少しずつズレていたものを今回、きっちりと直してきたというところです」と徃西エンジニア。

 これまでの不調の明確な原因は明らかにはしなかったが、セットアップ/クルマの面でこれまでARTA NSX-GTはライバルたちに差があったことはたしかだった。

 その結果、予選Q2を担当した福住がマシンと自身の速さを存分に発揮して、2番手にコンマ5秒差という圧倒的なパフォーマンスを見せて、福住自身GT500初となるポールポジションを飾ることになった。

「もともとクルマは高いレベルにあってポテンシャルがありましたが、それが全体的によくなりました」と、自分のアタックを振り返る福住。だが、会見でも福住の表情からは初ポールの喜びはあまり感じられない。

「うれしいというよりも、自分がこれまでQ2で走る機会もあまりなかったですし、うまくまとめることができてホッとしたのが大きかったですね。あとはウエイトが軽いのでやるべき仕事ができたということで明日の決勝のことを考えていたので。予選初ポールで喜ぶことも大事ですけど、これまでレースでホントにうまくいっていないですし、明日の決勝が本番ですから」と福住。GT500ルーキーで初ポール獲得といえば、この日くらいちょっとは浮かれても良さそうだが、まったくその気配は見せなかった。

 ARTA NSX-GTにとっては、明日の決勝は実質、2番手でウエイトハンデ0kgのカルソニック IMPUL GT-Rと一騎打ちとなりそうな気配だ。今季の富士開催は3度目で両者ともにロングランのデータは十分なはずで、あとは当日のコンディションにどこまでマッチできるかが大きな要素となる。

 カルソニックにとっては前回のもてぎのレース後半に発生したピックアップ(タイヤカスが取れずに自身のタイヤ表面に張り付きグリップダウンを招く症状)の克服が鍵となる。また、予選2列目にはこれまで富士ではなかなか好成績を残せていないヨコハマタイヤ陣営のWedsSport ADVAN GRスープラ、リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rが並んでおり、ウエイトハンデ(WH)も軽いことから優勝争いに絡んでくる可能性も高い。

 予選上位4台はいずれも今シーズン、本来のパフォーマンスを発揮できずに低迷してしまったチーム。この第5戦富士で悪い流れから一気にV字基調に持ち込むのは、果たしてどのチームになるのか。

2020年スーパーGT第5戦富士 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)

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