勝利よりも成長、機会、結果で1軍へ 元ハム田中幸雄氏が語る2軍監督の役目とは?

日本ハムで活躍した田中幸雄氏が2軍が担う役割について語る【写真:(C)PLM】

ファームで大活躍し1軍抜擢の樋口龍之介の強みと「将来像」はいかに

選手時代は日本ハム一筋22年、2007年には生え抜き選手史上2人目となる通算2000安打の偉業を達成した「ミスターファイターズ」田中幸雄さん。選手としてだけでなく、現役を退いた後には日本ハムの1軍コーチ、ファームの監督をなどを歴任したレジェンドの中のレジェンドだ。現在は1軍、ファームの解説を務めており、試合を通してその声を聞いているファンも多いだろう。そんな田中さんに、日本ハムの選手について話を聞いた。後半はファームの話題を中心にお送りする。

日本ハムのファームを語るにあたって、間違いなく筆頭に上がるのはルーキー・樋口龍之介内野手だろう。育成選手ながらも取材時点(8月8日試合終了時点)で打率.381出塁率.495、7本塁打と圧倒的な成績を残している。田中さんは、「現時点でも非常に数字が出ている」と高評価。身長が168センチとプロ野球選手としてはやや小柄ながらも、長打を連発しているのが特に印象的だ。

「解説などでファームの試合を見ていますが、横幅はガッチリしていて、遠目に見ていても大きく見える選手です。小柄ですけどスイングもしっかり振り切れていて、強くて速い。まず一番素晴らしいと思うのが、ボールにコンタクトする能力が非常に高いところですね」

小柄でコンタクト力に優れた選手となると、まず思い浮かぶのはチームメイトであり、横浜高校の1年先輩でもある近藤健介外野手だろう。その他にも森友哉捕手(西武)や吉田正尚外野手(オリックス)など、体格を感じさせない打撃を見せる選手が増えつつある。こうした選手に共通しているのも「コンタクト力」だ。

「コンタクト力は一番大事ですよね。形がきれいでもバットに当たらなければ意味がないですしね。その中で結果をしっかり出している、数字を出しているというのは素晴らしいと思います」

気になるのは樋口の将来像。本人は先輩の近藤を目標に掲げる場面もある一方で、田中さんが挙げたのはかつてのチームメイトだ。

「左打者ですが、小笠原道大はあれだけ打って、打点も挙げられるというバッターでしたね。近藤はどちらかというと率が高いバッターですから、(樋口には)長打力もあってホームランも打てる、パワー系の打者になってもらえたら」

浅間大基は「1軍レギュラー候補」の実力者

話題は投手陣へ。日本ハムのファームには、昨季のドラフト1位右腕・吉田輝星投手を筆頭に、社会人で実績のある生田目翼投手など期待の投手が並ぶ。そんな中で、田中さんが指摘したのは「コントロールの重要性」だ。

「生田目はスピードがあるのが魅力です。ただやはり、打者と1対1で対戦するとなると、制球力が重要ですね。1軍の打者になると、甘いところに投げたら速い球でも打たれる。打者との駆け引きだったり、配球だったり、失投を少なくして良いボールを良いところに投げられる、そうした能力を上げていくしかない」

1軍の第一線で活躍する投手は四球が少ない。実際、エースである有原航平投手が昨季与えた四球は164.1回で40個。9イニングでわずか2つという計算になる。今後、ファームから昇格する投手の成績を見る際には、与四球にも注目していく必要があるだろう。

「コントロールは投手全員に重要と言えます。やはり、良いコースに投げられる確率を上げていく、甘いボールを少なくする。もちろんカウントによって打者を見て、打ち気などからも判断する、そういった技を身につけたほうが良いと思います」

もちろん、全てのボールを狙ったコースに制球できる投手はいない。打者との駆け引きとなるとサインを出す捕手も関係してくる。ただ、田中さんの指摘する通り、実際に打者と勝負するのは投手だ。変化球や球速だけでなく、相手打者を含めたさまざまな状況判断能力が求められる。

ファームは若手だけではなく1軍の主力選手が調整を行う場でもある。話題に上がったのは王柏融選手と、浅間大基選手の2人だ。王選手はファームでの出場試合数は少なかったものの、取材時点で打率は7割超と圧倒的な成績を残していた。ただ、1軍の成績とファームの成績は分けて考えることも大切だという。

「一流投手と比べると、ファームの投手の方が球速、コントロールなどは劣ります。王選手は能力が高い選手ですから、こうした投手に対してなら当然打つでしょう。ただ、今の状態であれば十分1軍でも戦力になると思いますね」

1軍に選手を送り出す。「ファーム監督」の役割

浅間選手は2014年のドラフト3位で入団。田中さんがファーム監督に就任したのは2015年シーズンからであり、そのルーキーイヤーから見守ってきた選手だ。そんな浅間の魅力は「野球に対する隙のなさ」であるという。

「1軍のレギュラーをつかんでもおかしくない選手。走攻守全てがすごく堅実で、やるべきことがしっかりできる。今は1軍に近藤健介と西川遥輝と大田泰示がいるじゃないですか。そこに入っていく候補かなと思いますね。試合に出る機会を与えてもらえたら、十分レギュラーになれる素質のある選手です」

その評価通り、浅間選手はファーム22試合に出場、打率.328、9盗塁の好成績を残し、8月12日に1軍昇格の切符をつかんでいる。昨季は故障にも苦しんだが、ここからの巻き返しに大きな期待が寄せられる選手だ。

ファームで活躍した選手についてはファンの間でも話題に上がるが、その首脳陣については話題に上がりにくい。そこで「ファーム監督」の仕事について話を聞いた。

「ファームの場合は育成環境というものがあるので、選手の起用法などは1軍と全部違いますよね。1軍はある程度レギュラーが決まっていて、その選手主体で勝つためにやりますが、ファームの場合は各選手を1軍に送り込むためにその選手の能力を、技術力を伸ばしてあげるために試合を経験させて、1軍に向けて準備させていくという場所だと思います」

勝利が最優先事項となる1軍に対して、ファームで重要になってくるのは「成長」と「機会」そして「結果」だ。浅間のように、結果を残し続けることで1軍昇格のチャンスは必ずやってくる。ファーム監督としてそうした選手を送り出す際の期待は、ファン以上のものがある。

「とにかく……とにかく与えられたチャンスを生かして結果を出してほしい。ハラハラドキドキじゃないですが、頑張ってほしいという気持ちがありますよね。

それで結果を残してくれると本当にうれしいです。もちろん内容も大事ですが、やはり1軍に上がると、どうしても結果が求められます。フルに自分の持っているものを1軍で出せて、結果を出してもらえたらうれしいです」

最後に、ファームの現場を知る田中さんにとって「ファームの魅力」とは何かを聞いた。

「それは鎌ケ谷にきているファンの方が知っていると思います(笑)。やっぱり、ファーム本拠地の鎌ケ谷でも多くのファンの方が来て、よく顔を見かける人もいます。新しい選手も入ってきて、その選手の成長を見届けるというか、1軍に上がるまでの成長を見るのが楽しいという方も多いですね」

日本ハムの本拠地であるファイターズ鎌ケ谷スタジアムはマスコットの「カビー」を中心に、ファームオリジナルグッズなどさまざまなコンテンツを発信している。1軍とはまた違った楽しみ方を見つけられるかもしれない。(「パ・リーグ インサイト」吉田貴)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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