「お金の価値観のすれ違い」で突然の離婚調停…出産を控えた女性の困惑

つきあっているときには見えなかった「夫の本性」、結婚すると徐々に現れてきて、次第に我慢ができなくなっていく。そんな女性の声をよく聞きます。男性側も家庭ができて初めて、リラックスして本性を出してしまう傾向があるようです。


新居を借りる初期費用は私が支払った

30歳を過ぎたころから、婚活に全力を傾ける女性は少なくありません。やはり35歳までには第一子がほしいという思いが強いのでしょう。

「私もそうでした。31歳を迎えて本気で焦りました。結婚相談所、マッチングアプリ、友人知人に紹介を依頼、ありとあらゆる方法で婚活しました」

ヨシエさん(35歳)は、その努力が実り、出会って半年ほどつきあった3歳年上の彼と、33歳のときに結婚しました。彼も早く結婚したがっていたし、つきあっているときはとても楽しかったので、これなら結婚しても大丈夫だと確信したのだそうです。

「私、あまり感情に引きずられないタイプなんです。理詰めでいくというか。理系だからですかね。彼はわりと情緒的な人。私にはない情緒をもっているし、感性が豊かなので一緒にいて楽しかった。お互いを尊重する気持ちがあれば、似ていない部分が多いからこそ、歩み寄れると思っていたんです」

大人なのだからふたりで話し合っていけば、何か問題が起こっても解決できるはず。周りからはつきあいが短すぎるのではないかという声もありましたが、ヨシエさんは大丈夫だと感じていました。

「まずはとにかく結婚する。そこからすべてが始まると思い込んでいたんですよね。結婚すれば幸せになれる。結婚しなければ私は不幸。そう思っていて……」

周囲の不安を振り切って結婚したものの、当初から「あれ?」と思うことが多々あったそうです。彼は有名企業に勤めていてかなり収入があるのに、結婚してみたらほとんど貯金がないとわかったこと、また、友人を招いてのパーティのときも彼の友だちが非常に少なかったことなどが引っかかったそうです。

「婚姻届を出してから、ふたりで住む場所を決めたんですが、初期費用を払う段階で、彼は貯金がないと言い出して。結局、全部、私が支払ったんです」

このままだと経済的に曖昧なところが多すぎると、ヨシエさんはお互いの貯金などを透明にしようと提案しました。ところが夫はそれを拒絶、「結婚したからといって何もかも知らせる必要はないと思う」と言われました。それなら初期費用を半分払ってほしいとヨシエさんは言います。彼は「貸しておいて」とだけ返事しました。

価値観が違いすぎた

夫婦といえども他人ですから、価値観が違うのは当たり前。生活を送っていく上で、そこをどうやってすりあわせるかが大事なのでしょう。すりあわせができるかどうかが、うまくいくかどうかの分かれ目なのかもしれません。

「家賃をはじめ生活にかかる費用は収入のバランスに応じて分担ということで話がついていました。だけど彼、それ以外のお金を出そうとしないんですよね。結婚してすぐ、夫の親戚が亡くなったんです。急だったのでお通夜の場で夫と待ち合わせたんですが、お香典を用意してきていない。そんなことだと思って私が準備して行ったら、中に入れるお金がない、と。お世話になった人へプレゼントをするときも、義父母が家に来てお鮨をとったときも、みんな私が支払っています。3ヶ月ほどたって、不測の出費がこれだけあったと彼にメモを見せたんですが、反応はありませんでした」

感性が豊かだと思っていた彼ですが、妻の心に寄り添ったり共感したりするのは苦手なのではないかとヨシエさんは考えるようになりました。

「妻となったら他人ではない。彼はそう思っているようでしたが、妻の財布は自分のもの、自分の財布は自分のものなんですよね。それはおかしいでしょと何度も話し合おうとしたけど、のらりくらりしていて話し合いにならない」

そういう話を出さなければ彼は穏やかな人なのですが、このままでは将来が不安すぎます。業を煮やした彼女は、ついに夫の両親と自分の両親に来てもらって話し合いの場をもちました。現状が続くようでは生活が維持できない、と訴えたのです。そこで夫はようやく収入に関する情報を開示しました。

「私の1.5倍くらいありました。これだけあるならもっと負担してほしい。貯金はどのくらいあるのかと聞くと、ほとんどないと言う。呆れました。何に使っているのかは不明でしたが。夫の両親は『こんなふうに息子を貶めるなんて』と怒りだして。うちの両親は『娘にばかり負担を強いるのは人としてどうなのか』と逆襲するし。両親同士が言い争いを始めて、思っているのと違う方向にいってしまって焦りました。夫だけが他人事のような顔をしていましたね」

ふたり合わせた世帯収入は一般と比べても多いのに、貯蓄しているのは彼女だけ。急な出費をまかなうのも彼女。腑に落ちないと思っても当然です。両親を交えての話し合い後、夫との仲はぎくしゃくしはじめました。すると夫は「こんなのはもう嫌だ」と家を出て行ってしまったのです。

「あまりに急な展開でびっくりしました。話し合って解決していきたいだけなのに、夫は荷物をまとめて実家に帰ってしまったんです」

戻らない関係

そしていきなり夫婦関係調整調停を起こしたと彼の弁護士から手紙が送られてきました。当事者だけの話し合いを飛び越えて、彼は突然、離婚したいと表明したわけです。

「結婚して1年足らずですよ。あまりに性急すぎる。しかたがないので私も弁護士をつけて調停に臨みました」

その時点で彼女は妊娠に気づきます。弁護士を通してそれを告げても、彼のほうは態度が変わりませんでした。離婚してもいいかと思っていた彼女ですが、気持ちに変化がありました。こうなったら離婚はしたくないと感じたのです。調停はあっけなく不調に終わり、これから裁判へと事態は進んでいきそうです。最初からボタンの掛け違いがあったのでしょうか。

「何もかも知って結婚するというわけではないと思うんです。交際期間が短かったのは確かですが、お互いに結婚を意識して出会っているのだから短くても不思議はない。最初からお金のことをきちんとすりあわせておかなかったのが問題なんでしょうね。でもみんなそんなにきちんと経済的なことを知ってから結婚するんでしょうか」

ヨシエさんは困惑気味にそう話します。彼女の言う「不毛な争い」はこれからが本番。そしてあと数ヶ月で彼女は出産を迎えます。

「これからは養育費を求めていく争いになりそうです。私の結婚は何だったんだろう、私は何を求めて結婚したんだろう。最近はそんなことばかり考えています」

とはいえ子どもに罪はありません。こうなったら子どものことを最優先にしていくしかない。彼女は気持ちを切り替えているそうです。

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