見直される女性やマイノリティの作家、コロナの影響、おすすめ映像まで:週間・世界のアートニュース

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、9月27日〜10月2日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「見直される女性、マイノリティ」「コロナの影響」「できごと」「リノベーション」「おすすめ映像」の5項目で紹介する。

ヴィクトリア&アルバート博物館のカフェ内観 出典:Wikimedia Commons(Paul Hudson)

見直される女性、マイノリティ

◎抽象表現主義の女性アーティスト
戦後アメリカアートを牽引する抽象表現主義といえばポロック、ロスコ、デ・クーニングなど男性アーティストばかりだったが、最近になってやっと同世代に活動していた女性作家の活動が見直され、美術館では展覧会が開催され、マーケットも上がってきている。その顔ぶれは、リー・クラスナー、ヘレン・フランケンサーラー、そしてジョアン・ミッチェルなどを中心に、エレーヌ・デ・クーニングやソニヤ・セクラ(Sonja Sekula)、アン・ライアン(Anne Ryan)、ペール・ファイン(Perle Fine)なども。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-rising-market-women-abstract-expressionists

◎ローラ・アギラールの作品が美術館コレクションへ
Chicana(チカーナ:アメリカ生まれのメキシコ系女性)フェミニズム写真家の先駆けとして近年評価が高まっているローラ・アギラールの作品をLACMAとヴィンセントプライス美術館が共同で購入。自らの大きな体を写したヌード写真や、レズビアンバーコミュニティでの写真などでアートにおける身体やラテン系コミュニティの表象の変化を先駆けてきた存在。2018年に亡くなったが、昨年ゲッティ美術館、ホイットニー美術館も作品を購入。
https://www.artnews.com/art-news/news/laura-aguilar-rafa-esparza-lacma-vpam-joint-acquisition-1234572227/

◎職員が全員黒人のギャラリースペース
BLMが社会に影響を与える中、デイビッド・ツヴェルナーギャラリーが元マルトスギャラリーの黒人女性ギャラリスト、エボニー・ヘインズをディレクターに迎える。彼女の意向で、職員が全員黒人のギャラリースペースをマンハッタンにオープンすると発表。
https://www.nytimes.com/2020/09/27/arts/design/zwirner-haynes-black-gallery.html

コロナの影響

◎続くリストラ
ロンドンのビクトリア&アルバート博物館もコロナの影響で約10%にあたる103人の販売員や来客対応従業員のリストラを発表。今後も他の部門でのさらなるリストラを予定している。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2020/sep/29/va-to-make-10-of-staff-redundant-amid-coronavirus-pandemic

◎批判的メッセージをプロジェクション
グッゲンハイムと交渉を続けている労働組合に連帯の意を表するアクティビストアートグループのArtists for Workers (AFW) 。「館長は1億5千万円で、労働者には禁欲的給与」「搾取大歓迎」というような批判的メッセージを美術館のファサードにプロジェクションする活動を9月28日の夜に行った。
https://hyperallergic.com/590869/guggenheim-museum-projections/

◎名作を売却し、職員の給与やプログラム投資へ
アメリカの美術館長協会(Association of Art Museum Directors:AAMD)が美術館コレクションの売却ガイドラインをコロナの影響で一時的に緩めたことで、ボルティモア美術館はウォーホルの「The Last Supper」、ブライス・マーデン、クリフォード・スティルの有名作品3点を売却することを決定。オークションなどで65億円程度の売却額が予想されている。同様の発表をしたブルックリン美術館と違いリストラは予定しておらず、職員の給与の増加、多様なコミュニティの参画プログラムへの投資、夜の開館、そして特別展への入場料の廃止のために使われるとのこと。
https://www.nytimes.com/2020/10/02/arts/design/baltimore-museum-deaccessioning.html

◎ビエンナーレ延期
来年春に予定されていたホイットニービエンナーレがコロナの影響で2022年4月に延期。
https://www.artforum.com/news/whitney-biennial-deferred-to-2022-84161

◎売れた作品と価格まとめ
先週行われたアートバーゼルのオンラインフェアで売れた作品とその価格のまとめ。これまでのコロナ禍での他のオンラインフェアよりも低調だったとのこと。オンラインフェア疲れか、そもそも出展ギャラリーが作品を出し控えた結果か。
https://news.artnet.com/market/price-check-art-basel-ovr-2020-1911130

◎アートバーゼルで深刻な赤字
アートバーゼルの親会社が今年前半で25億円以上の赤字で深刻な状況とのこと。先日報道されていたジェームス・マードック(ルパート・マードックの息子)による救済的投資(および買収)計画もスイス政府の買収理事会の承認が得られておらず協議中であると。
https://news.artnet.com/market/art-basel-announces-new-initiatives-asia-parent-company-outlines-extent-losses-1911896

◎コレクターにあわせて移動するギャラリー
コロナ禍に、コレクター達がマンハッタンからNY近郊別荘地のハンプトンズに避難していたのを追いかけ、初夏から同地で大手ギャラリーやオークションハウスがポップアップギャラリーを開けていた。冬が近づくなか、金持ちコレクターが温かいフロリダのパームビーチに移動するのにあわせて、ペースやアクアヴェラなど大手ギャラリーがフロリダでポップアップをあける予定とのこと。
https://news.artnet.com/market/palm-beach-new-art-world-hot-spot-1912183

できごと

◎エドワード・ホッパーが無名作品を模倣
20世紀を代表する画家エドワード・ホッパーの初期の3作品が、無名アーティストの作品を模倣したものであることがロンドンのコートールド美術研究所博士課程のルイ・シャドウィックによって発見された。もとの作品は、アマチュア向けの雑誌に掲載された風景画。
https://www.nytimes.com/2020/09/28/arts/design/edward-hopper-copies-paintings.html

◎アイ・ウェイウェイの抗議活動
アイ・ウェイウェイがウィキリークスのジュリアン・アサンジの裁判が続くロンドンの裁判所の前で無言の抗議活動。
https://hyperallergic.com/590887/ai-weiwei-stages-silent-protest-in-support-of-wikileaks-founder/

◎15万点の作品が公開される美術館
通常、美術館の展示では膨大なコレクションのうち数%程度しか展示することができないが、オランダのロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館は、来年、世界初の一般公開される収蔵庫をオープンさせる。ブリューゲル、ヒエロニムス・ボッシュから草間弥生、オラファー・エリアソンまで15万点の全作品が閲覧できる世界初の美術館になるとのこと。
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/dutch-art-museum-depot-plans-display-everything-its-collectionsyes-everything-180975927/

◎世界のどこかにモナリザの素描が?
超高解像度カメラを使った調査によって、モナリザの下描きにspolveroという技術が使われたことがわかったとのこと。キャンバスの上に下書きの素描を置いて上から絵の線に沿って素描に小さい穴をあけていき、その上から木炭の粉をかけてキャンバスに転写する技術。つまりもし失われていなければ、世界のどこかにモナリザの素描が残っている可能性が出てきたことに。
https://news.artnet.com/art-world/mona-lisa-hidden-drawing-photos-1911271

◎自主規制にNO
先日KKKのイメージをめぐって2024年に延期されたフィリップ・ガストンの展覧会だが、誤った自主規制だとして、延期をやめるよう求める書面にマシュー・バーニーやシリン・ネシャットを含む300人以上が署名。
https://www.artforum.com/news/hundreds-in-art-world-sign-letter-urging-restoration-of-postponed-philip-guston-exhibition-84086

◎32トンものニンジンが出現
ロンドンの有名アートスクール、ゴールドスミス・カレッジの前に突如32トンものニンジンがあらわれてソーシャルメディアで話題に。ラファエル・ペレス・エヴァンス(Rafael Pérez Evans)という作家の修士卒業展の作品で、イギリスの卸業者の基準に満たず廃棄予定のニンジンを山積みさせた浪費を批判するインスタレーション作品。
https://www.artnews.com/art-news/news/an-artist-dumped-32-tons-of-carrots-outside-goldsmiths-university-1234572235/

◎RBGとMoMAの作品レンタル
先週亡くなった最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグはバランス感覚と音楽性を感じさせるジョセフ・アルバースの絵画が好きだったとのこと。そのきっかけになったのが、ある驚きのMoMAのプログラム。MoMAでは1951年から82年まで作品を少額で数ヶ月会員に貸し出していて、希望者はその後作品購入できるプログラムがあったという。若きRBG夫妻はこのプログラムでアルバースのプリント作品を借り、その後、同作品を買えなかった夫妻はミュージアムショップで複製を購入したという。
https://www.frieze.com/article/artist-who-inspired-ruth-bader-ginsburg

リノベーション

◎ロスコ・チャペルふたたび
ヒューストンのロスコ・チャペルのリノベーションが終わり、9月24日に再オープン。これまでチャペル内が暗く14枚の巨大絵画が見えにくかったのが、天井にスカイライトができて明るくなり見やすくなったとのこと。(たしかに5年前に行ったときには暗いと感じた。その暗さが荘厳さともとれたが)
https://www.architecturalrecord.com/articles/14817-renovated-rothko-chapel-reopens-in-houston

◎フリック・コレクションが間借り
フェルメール、ホルバイン、レンブラント、ゴヤ、エル・グレコなど、ルネサンスから印象派以前にかけての素晴らしいコレクションを誇るNYの美術館、フリック・コレクションがリノベーションに入る。その間、元ホイットニー美術館で、コロナ前までメトロポリタン美術館別館(メット・ブロイヤー)として使われていたビルに一時的に入居することに。入居期間は来年はじめから2年間。もとが絢爛な個人邸宅だっただけに、素晴らしいコレクションをホワイトキューブで見るのも新しい発見を生みそう。
https://www.artforum.com/news/frick-collection-details-plans-for-two-year-stay-in-former-met-breuer-84148

◎完全閉鎖か、部分閉鎖か
ポンピドゥ・センターがリノベーションのため、3年の完全閉鎖か7年の部分閉鎖かの選択に直面しているとのこと。
https://www.artforum.com/news/centre-pompidou-faces-three-to-seven-year-renovation-closure-84035

おすすめ映像

◎4名のアーティストのドキュメンタリー
世界的にも有名なアニッシュ・カプーアやクリスチャン・マークレー、そして近年評価が高まっているジョン・アコンフラとフィリダ・バーロウというロンドンの4人のアーティストのスタジオでのインタビューを交えたドキュメンタリー。アートのことをよくわかっているプロダクションであるart21が丁寧につくったおすすめ映像。英語だが、キャプションをオンにして鑑賞することもできる。
https://art21.org/2020/09/20/now-streaming-london/

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