若年性乳がん前向きに描く 長編デビュー作「おっぱいエール」 長崎県出身 本山聖子さん 自らの体験も込めて

「おっぱいエール」の著者、本山聖子さん(本人提供)

 長崎県出身の本山聖子(もとやませいこ)さん=鹿児島市在住=の長編小説「おっぱいエール」(光文社刊、1760円)は、若年性乳がんを患う女性3人それぞれの悲喜こもごもな日々を紡ぐ。自身も若くして乳がんを宣告され、闘病を乗り越えた経験のある本山さんに、作品へ込めた思いを聞いた。

 各章の主人公、百花、菜都、柚子はそれぞれ25歳、32歳、29歳。職業も家族構成もばらばらの3人が乳がんになり、さまざまな悩みに直面していく。
 「20~30代は結婚、妊娠、出産、子育て、仕事など、人生の分岐点を抱える年代。そこに闘病がかぶさることで、選択肢が複雑になったり感情の振れ幅が大きくなったりして、彼女たちの人生がどうなっていくのかを書いてみたかった」
 鹿児島市に生まれ、幼少期から高校までは主に長崎市で過ごした。県立長崎東高を卒業後、上京。結婚翌年の2008年、27歳で右胸にがんが見つかり、手術や放射線治療、ホルモン治療を受けた。
 仕事は児童書や雑誌の編集をしていたが、4カ月休んだ頃、会社から退職を勧められた。その後は治療を続けながら新聞社などで働き、15年頃から本格的に小説の執筆を開始。幼い頃から漠然と、いつか書いてみたいという気持ちがあった。
 乳がんを告知された女性を主人公にした短編「ユズとレモン、だけどライム」で、17年に第11回小説宝石新人賞を受賞。その連絡を受けた約10日後には左胸にがんが見つかり、「両側異時性乳がん」の診断を受けて再び闘病。現在は治療を終え、定期的に受診している。
 若年性乳がんについて、「全国的にみれば若くして病気やけがと闘っている人はたくさんいるけど、自分の生活圏でみるといない。そういう意味で孤独が大きく、身の置き場がないのが一番つらい」と語る。病院の待合室に座っていても一人だけひときわ若く、同じ乳がん患者から「若いのにかわいそう」と同情されたという。

長編デビュー作となった「おっぱいエール」

 長編デビュー作となった「おっぱいエール」で、3人は別々の場所で闘病していたが、治療に伴って妊娠や仕事、恋愛などへの期待や思いが変わり、それによって周りの家族や友人と心理的な齟齬(そご)が生まれてしまう。一方、ブログを通じて3人は知り合い、励まし合いながら病や人生を見詰めていく。暗くなりがちなテーマだが、作品を通じて前向きな明るい印象が残る。「予定が大幅に狂った先にもちゃんと希望があるのかなぁ……」。最終章で百花はそうつぶやく。
 「がんになったからといって死に向かって毎日怖い思いばかりしているのではない。闘病のなかにも楽しいこと、うれしいことがたくさんあるから大丈夫だと、少しでも『エール』になって届くといい」
 今後書きたいテーマは、家事や妊娠・出産、子どもの教育などに引かれている。「今はまだ自分のことを胸を張って『小説家』とは言えないので、いつか必ずそう言えるように書き続けたい」

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