完全リモート環境下でなぜオラクルは前年より早く決算を発表できたのか?

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新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴い、日本オラクルは全社的にリモートワークに移行している。経理部門においては年度末決算のタイミングであり、その作業をリモートワークで対応することを強いられた。このような状況にもかかわらず、昨年よりも3日早いタイミングで決算短信を開示することができた。本稿では、その理由を紹介する。

リモートワークでありながら昨年よりも3日も早く決算を発表

約175カ国でビジネスを展開し、約14万人が働き、全世界の売上高が約4兆円に達するオラクルの子会社として、日本市場でビジネスを展開しているのが日本オラクルである。

日本オラクルの従業員数は約2,500人(2020年5月期時点)で、売上高は2,113億円である。また、外資系企業の日本法人としては珍しく、日本オラクルは東京証券取引所に上場しているため、単独で決算短信を開示する義務がある。

なお、オラクル、そして日本オラクルは5月末決算であり、昨年は両法人とも6月中に決算を開示している。ただ、今年は大きな変化があった。COVID-19の影響により、日本オラクルを含め、グローバルの経理部門はリモートワークに移行しており、普段とは違う環境で決算処理を行う必要があったのだ。

このようにリモート環境であったにもかかわらず、オラクルは昨年の6月19日よりも3日早い6月16日に決算を発表、日本オラクルも昨年と比較して3日早く決算発表を行うことができた。

なお、東京証券取引所の資料によれば、2019年3月期決算による決算発表所要日数は39.7日であり、多くの企業が決算日から決算発表まで1カ月以上を要していることになる。これと比較すると、オラクル、そして日本オラクルの決算発表にかかる処理が非常に迅速であることが分かるだろう。

決算処理の完全自動化を目指す「ワン・デイ・クローズ (one day close)」

リモートワークであるにもかかわらず、迅速に決算を開示できた背景には、オラクルが掲げる「ワン・デイ・クローズ」と呼ばれる目標に向けた取り組みがあった。これは最終的に決算処理を完全に自動化することで、リアルタイムでの決算業務の完結を目指すものである。

この取り組みによって決算処理を短縮することができれば、経営陣は事業および経済状況の変化をいち早く把握し、より適時に的確な判断を行うことが可能になる。また経理部門にとっても、事務処理・集計業務にかける時間を削減し、分析や戦略業務に注力できる利点は大きい。

このワン・デイ・クローズという大きな目標の実現は、経理部門の努力だけでは成し遂げることができない。他部門との連携、そしてオラクルのグループ一体となった経理処理の効率化が不可欠である。この点において、すでにグループ全体で協力を得てワン・デイ・クローズの実現に向けた歩みを進めており、その結果、経理部門がリモートワークで作業を行っているという状況であるにもかかわらず、迅速な決算対応が実現したと言える。

迅速な決算発表を成し遂げた3つのポイント

このワン・デイ・クローズの推進に加え、リモートワークで迅速な決算を実現できた理由として、「リモートワークの制度化とそのためのITインフラの整備」、「オラクルの経理業務における原則」、そして「全社でのOracle Fusion Cloud ERP、Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management(EPM)への移行と活用」の3つが大きなポイントとなっている。

(1)リモートワークの制度化とそのためのITインフラの整備

オラクルはグローバルで在宅勤務を早くから制度化し、経理部門を含めた全世界の社員がリモートワークで働くことができるインフラを整備している。日本オラクルでは「Work@Everywhere」の名称で2004年に在宅勤務制度をスタートした。当初は育児や介護、療養などの事情がある人に限定していたが、翌年には全社員を対象としている。

日本オラクルの経理部門のリモートワークとしては、すでにペーパーレス化が進められており、伝票処理に関しては表計算ソフトを活用しているほか、契約書もOracle Fusion Cloud ERPに保存されていることなどから、ほとんどの業務をリモートで完結できる状況である。リモートで作業できないのは、税務署に捺印して提出しなければならない紙書類の提出、あるいはe-Taxに対応していない地方自治体の納税に関わる処理の実施など、外的要因に起因するものである。

さらに今回の決算では、監査法人とのミーティングをオンラインで実施したほか、会計監査にもリモートで対応している。契約書の原本を提示する必要がある場合は、Oracle Fusion Cloud ERPで保管している電子化した契約書を送付することで対応した。ある特定の書類において物理的な印鑑が必要と指摘されて捺印に出向いたが、これは珍しいケースであり、大半の監査対応業務はオンラインで実施できている。

(2)オラクルの経理業務における原則

オラクルが掲げる経理業務における原則は、経理業務の標準化、簡素化、集中化、自動化である。

これらのうち、標準化と集中化で大きな役割を担っているのが海外のシェアド・サービス・センター(SSC)の存在である。オラクルではバックオフィス業務をSSCで集中的に行う体制を整えており、決算業務の多くの部分や支払い業務、売掛金請求業務などもインドや北京で行っている。また、期中の監査プロセスの一部について、今年からインドの監査チームに移管し、インドのSSCで対応する形に改めた。こちらもまったく問題はなく、証憑の提出や問い合わせへの回答もすべてリモートで対応している。

自動化においては、複数帳簿間での残高照合(リコンサイル)の自動化に向けた取り組みを進めている。2万件程度のリコンサイルのうち、すでに7,000件を機械学習を用いて自動化しているほか、将来的には全件を全自動でリコンサイルする予定である。

また全世界での勘定科目体系の統一をすでに図っているほか、SSCへ移管するタイミングで業務の標準化も行っている。これがOracle Fusion Cloud ERP およびOracle Fusion Cloud EPMの導入効果の最大化につながっている。

(3) 全社でのOracle Fusion Cloud ERP/ Cloud EPMへの移行と活用

決算処理の迅速化に大きく寄与しているのが、Oracle Fusion Cloud ERP、そしてOracle Fusion Cloud EPMの2つのクラウド・サービスだ。そのメリットとしてまず大きいのはリアルタイム性の向上である。経理部門の従業員は、それぞれの担当業務の数字を自分自身でリアルタイムに確認することが可能であり、データの抽出、あるいは更新作業の反映を待つ時間の削減などが実現されている。

さらに、以前は出力したレポートの加工に工数が発生することもあった。しかし、Oracle Fusion Cloud ERPおよびOracle Fusion Cloud EPMであれば、表計算ソフトからリアルタイムに入出力が可能であり、工数の削減が図れている。また、BI機能を用いた分析レポートの作成が容易になったこと、連結ベースでリアルタイムに数字を確認できることも業務効率の向上につながっている。

なお、Oracle Fusion Cloud ERPのメリットとして、複数帳簿、多通貨に対応していることが挙げられるほか、例えば従来個々の企業で個別に記帳していた仕訳を一括で同時に記帳できる利点もある。さらに、前述したようにリコンサイルの自動化が進みつつあり、これも経理業務の効率向上を後押ししている。

自社での取り組みで得た知見をプロダクトにもフィードバック

新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートワークによって決算業務を行わなければならないという厳しい状況にもかかわらず、短期間で決算を開示できた背景には、前述したワン・デイ・クローズという目標に全社で取り組み、クラウドへの移行や業務の標準化および集中化を積極的に実施したためである。

こうした社内の経験はOracle Fusion Cloud ERPおよびOracle Fusion Cloud EPMの開発にフィードバックしており、プロダクトの開発にも積極的に関与している。このようにサービス開発にも貢献しつつ、ワン・デイ・クローズの目標達成に向けて決算業務のさらなる効率化を図っていく。

著者プロフィール

村野 祐史(むらの ゆうし)

日本オラクル株式会社 経理部 シニア・ディレクター。日系上場企業の経理部門の勤務を経て、2002年、入社。オラクルの連結子会社としての決算業務において、海外シェアド・サービス・センターと連携するとともに、日本オラクルの決算・開示業務(日本基準)を統括している。