人生にとって何が大切?自分の居場所を探し求めるふたりの男の友情と夢を描いた映画「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」

変わっていく街・サンフランシスコで、ジミーが変わらずに心に持ち続ける大切なもの。それは、家族との記憶が宿るたったひとつの居場所と、たったひとりの親友。A24×プランB、アカデミー賞作品賞受賞『ムーンライト』以来のタッグを組んだ魂の物語。人生にとって何が大切かを思い出させてくれる希望のストーリーをぜひ。

アメリカのホームドラマに出てくるような、優雅で美しい街並み。舞台となるのは1860年から1900年初頭に建てられた、ヴィクトリアン・ハウスが立ち並ぶフィルモア地区。そこに暮らすのは富裕層だけではない。公営住宅やシェルター(避難施設)、古い車を家にしている貧困層もいる。

いつもスケボーで街を散策しているジミー(ジミー・フェイルズ)には、常に赤いモレスキンのノートを携え、アイデアや絵など思いついたものを書き溜め、いつか自分の舞台を演じたいと願っている、作家志望のモント(ジョナサン・メジャース)という親友がいる。彼らは何をするにも一緒で、黒人仲間らはふたりの関係を冷やかし距離を置いている。

主にジミーの視点で描かれる街の景観はおとぎ話のように美しく、そして少しおかしい。防護服で海辺を歩く調査員、全裸で街を歩く人当たりのいい白人の老紳士や、バスの中で飼い犬に股間を咥えさせている若いカップルなど、物語には影響しない、どこか普通ではない人が登場する。そして、ジミーが固執して取り戻そうとしている家もまた、パイプオルガンやフレスコ画がある小さな城のような佇まい。

これはジミーが幻覚を見ているということではなく、幼い頃に経験した理想的な思い出が忘れられず、いつまでも大人になれないジミーにとって、今見えている世界はどこかおとぎ話のように非現実なのだということを意味しているのではないだろうか…。そんなジミーを優しく見守りつつも、自分を表に出さないモントもまた、ジミー以外に心を許さない「傍観者」のような印象を受ける。

この作品は、ジミーとモントにとっては人生を大きく変えてしまう物語だけど、他人から見れば些細な出来事を描いていて、さほど大きな事件が起こるわけではない。ネタバレなしにこの物語の魅力を伝えるのはとても難しいのだけど、『アメリ』や『かもめ食堂』などが好きな人なら、この穏やかで美しい物語が肌に合っているはず。

そしてひとつだけネタバレをするならば、料理をしているジミーがモントと一緒に会話をしていて、ふと窓の外に目を向けると、全く同じ構図で料理をしながら会話をしている若い夫婦が見えてちょっと気まずくなってしまうところは、観ているこちらも照れてしまう名シーン。これが意図することは…。

■ ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
2020年10月9日(金)より、新宿シネマカリテ、シネクイント他全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム/提供:ファントム・フィルム/TC エンタテインメント
■ 映画公式サイト

ストーリー/サンフランシスコで生まれ育ったジミー(ジミー・フェイルズ)は、祖父が建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。変わりゆく街の中にあって、地区の景観と共に観光名所になっていたその家は、ある日現在の家主が手放すことになり売りに出される。再びこの家を手に入れたいと願い奔走するジミーは、叔母に預けていた家具を取り戻し、今はあまり良い関係にあるとは言えない父を訪ねて思いを語る。そんなジミーの切実な思いを、友人モント(ジョナサン・メジャース)は、いつも静かに支えていた。今や都市開発・産業発展によって、“最もお金のかかる街”となったサンフランシスコで、彼は失くしたものを、自分の心の在りどころであるこの家を取り戻すことができるのだろうか。

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