阪神・秋山が持つ「天性」の武器 沢村賞右腕が語る「タイミングが取りづらい」理由とは?

阪神・秋山拓巳【写真:荒川祐史】

元ヤクルトの川崎憲次郎氏が称える「タイミングの取りづらさ」

阪神は4日、甲子園での巨人戦に1-7で敗れた。先発の秋山拓巳は5回を投げて、1被弾を含む4安打6奪三振2失点(自責2)と力投。降板するまで1点差を追う展開をキープしたが、打線の援護がなく3敗目を喫した。

黒星こそついたが、坂本勇人、岡本和真の主軸2人には、合わせて4打席で1度も出塁を許さず。2年ぶりの登板となった巨人戦で丁寧なピッチングが光った秋山は今季、13試合に投げて6勝3敗、防御率2.82と好成績。この試合までは、8月以降の7試合で防御率1.26と安定した投球を見せている。

この日もストレートは140キロ前後と、決して剛速球で圧倒するタイプの投手ではないが、なぜ打者たちはプロ11年目右腕を打ちあぐねるのだろうか。ヤクルトOBで沢村賞投手の川崎憲次郎氏は「打者はかなりタイミングが取りづらいタイプの投手ですね」と話す。

秋山の投球フォームを見てみると、左足を踏み出した時に上半身が打者に対して前傾するよりも、ボールを持つ手と腕がかなり遅れて出てくるように見える。

「打者はピッチャーの体の動きに合わせてスイングを始動させるもの。秋山投手の上半身が動くタイミングに合わせてスイングし始めると、ボールを捉えるはずの位置にバットが来ても、ボールはまだ届いていない。腕が遅れて出てくるように見えるんですね。だから、タイミングをずらされた打者は、ボールを手元まで呼び込みきれず前でさばくことになり、ゴロを打たされる形になるんでしょう」

いわゆる「球持ちがいい」「溜めを作れる」投手だというわけだが、上半身の動きに合わせてタイミングを取った打者は見事にスカされた形となり、ボールを芯で捉えることができなくなる。この日の巨人打線は特にカーブやスライダーを待ちきれず、バットは空を斬ったり、凡打に倒れたりした。

では、秋山のように体に対して腕がやや遅れるような体の使い方は、練習すれば身につくものなのだろうか。川崎氏は「これは天性のものですね」と話す。

長いキャリアに必要なマイナーチェンジ「今の秋山投手にベストなスタイル」

「僕もタイミングをずらして投げる練習をしましたが、なかなか簡単にできるものじゃない。これは生まれ持った天性のものですね。意識して腕の振りを遅らせようとすると、自分ではかなりタイミングをずらしたつもりでも、打者にはまったく変わっていないように見えるものです」

こうやって打者のタイミングをずらしながら、決して速くないスピードの球で抑えていく。まさに老獪なピッチングの手本だが、そこに「丁寧さ」が加わり、より大きな効果を呼んでいるという。

「1球1球を大事に投げていますね。ボールが高めに浮くことは滅多にないし、ストライクゾーンを大きく外れることもない。かと言って、ピンポイントの制球でバシバシ決めてくるタイプでもなく、キャッチャーがミットを構えた位置を中心に、だいたいのところに投げながらアウトに仕留めるタイプですよね」

秋山が高卒ルーキーだった2010年。そのピッチングを見た川崎氏は「面白いタイプのいいピッチャーだな」と思ったことを覚えているという。その年は7試合に先発して4勝3敗、防御率3.35の成績を残したが、その後はなかなか1軍に定着せず。2017年に初の2桁となる12勝(6敗)を挙げるまで試行錯誤を重ねた。

今年でプロ11年目だが、まだ29歳。選手寿命が伸びている今、少しでも長いキャリアを送るには「投球スタイルのマイナーチェンジが必要」だという。秋山もプロ入り後、自分のスタイルに改良を重ねてきたわけだが、「今の秋山投手にとってベストなピッチングスタイルがこの形なんでしょうね」と川崎氏。それを踏まえ、「これから数年後、どういうスタイルに変化していくのか。それが楽しみでもありますね」と期待を寄せる。

昨年は1軍と2軍を行き来しながら、ファームで10勝を挙げて最多勝投手となった秋山。天性の投球フォームを武器に、先発ローテに欠かせない存在としてアピールを続けたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

© 株式会社Creative2