スタンドもどよめく采配 中村に打率.086の岡田を代打に送った西武・辻監督の執念

西武・辻発彦監督【写真:荒川祐史】

6回まで千賀の前に2安打1得点も、しつこく球数を投げさせる

■西武 3-1 ソフトバンク(6日・メットライフ)

西武は6日、本拠地メットライフドームで首位ソフトバンクに3-1で競り勝った。球界屈指の剛腕である相手先発の千賀に、6回まで2安打1得点に抑えられながら、7四球をもぎ取り142球も投げさせて降板させた粘り強さが光った。

辻発彦監督は試合後に「考えてみれば、お互い4安打しか打ってなくて、3-1のロースコアで、試合が終わったのが午後10時って……それだけ球数を投げさせたってことだよな」と笑みを浮かべた。確かに、8回表終了時点で1-0、最終的に両軍4安打ずつしか打てなかった投手戦に、3時間50分もかかった。同日、東京ドームで行われた巨人-DeNA戦は、巨人が14安打を放ち6-4のスコアだったにもかかわらず、42分も早い3時間08分で終わっていた。

西武は指揮官が「フォークのある千賀のような投手に対しては、追い込まれる前に打ちたいという気持ちになりがちだが、しつこく四球を選んでくれた」と評した通り、各打者がファウルで粘り、際どいコースを見極めた。6回までに142球も投げさせ早々と降板させたからこそ、8回に森が4番手・泉から2点三塁打を放つことができたともいえる。

「ZOZOマリンでは美馬に100球でやられたけどね」と辻監督。2日前の4日、敵地でのロッテ戦では、相手先発の美馬に9回ジャスト100球、1失点無四球完投勝利を献上していた。味方投手陣は8点も取られたが、試合時間はわずか2時間43分。すぐにその反省を生かし、ソフトバンクのエースに今季6敗目をつけた価値は高い。

象徴的だったのは6回の攻撃だ。先頭の栗山、続くスパンジェンバーグが連続四球を選ぶと、辻監督は昨季打点王の中村剛也に替えて、今季の打率が1割にも満たない(.086)岡田を代打に送った。中村が千賀に2打席連続三振を喫していたとはいえ、この勝負手にスタンドがどよめいた。

6回に中村の代打として起用された岡田は今季の犠打数が安打数を上回る

岡田はバントの名手、この場面では“ピンチバンター”だったのである。初球は150キロの剛速球が顔付近を襲い、のけぞって避けたが、2球目の148キロに臆せず一塁方向へ転がし、走者を二、三塁へ進めたのだった。日頃「打率がなくなってしまいそう」と自虐的なジョークを飛ばしている岡田は、今季の犠打数(4)が安打数(3)を上回った。

結局、この回は2死満塁まで攻め立てながら、無得点に終わったが、千賀にはそれ以上続投の余力はなかった。辻監督の1点への執念が伝わる采配だった。

一方、守っては1点リードの7回、1死一、二塁のピンチで栗原を迎えると、2安打無失点の先発・高橋光から平良に思い切りよくスイッチ。平良は154キロの速球で二ゴロ併殺に仕留め、功を奏した。辻監督は「あれで打たれていたら、何を言われたか……ヒヤヒヤだった」と明かしながらも「継投は基本的に(西口)投手コーチに任せている。ブルペンと連絡を取りながらやってくれている」と部下を称賛した。

昨年までは“山賊打線”が打ちまくり、リーグ連覇を達成した西武だが、リードオフマンの秋山がメジャーへ流出した今季は鳴りを潜め、今のところ4位に甘んじている。守りを固め、1点をしつこく取りにいく野球に活路を見出すか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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