スーパー耐久マシンフォーカス:メンテナンス面でも市販車寄り。アストンマーティン・バンテージGT4

 全8クラスが競うピレリ・スーパー耐久シリーズのなか、GT4マシンによって競われるST-Zクラスは、2018年のクラス創設以来、年々車種バラエティが増えている。

 9月5日から6日にかけて開催された2020年シーズンの第1戦『NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース』では、ST-Zクラスに6車種、7台がエントリーした。今回も前回に引き続き、ST-Zクラスに参戦するうちの1台、今年日本初上陸を果たしたアストンマーティン・バンテージGT4の特徴、特性をご紹介しよう。

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 アストンマーティン・バンテージGT4は、バンテージGT3と同じ2019年にデリバリーが開始され、GT4ヨーロピアンシリーズなどに参戦し、ブリティッシュGT選手権ではGT4クラスチャンピオンを獲得している。

 これまで日本のレースで走ることはなかったが、スーパーGT、スーパー耐久 ST-XクラスでバンテージGT3を走らせるD’station Racingが、2020年シーズンのST-Zクラスに導入したことで日本初上陸を果たした。

 市販のバンテージにも搭載されているAMG製、最大出力475馬力を発揮する4リッターV8ツインターボエンジンを搭載し、車重は1440kgと市販車よりも軽量化されている。

 一方バンテージGT3は最大出力543馬力、車重はGT4よりも100kgほど軽い1320kgということから、ドライバーを務める織戸学は「GT3と比べるとパワーが無くて、とにかく重い。攻めればタイムが出るクルマではなくて、重さをいかにコーナリングパワーに変えて、さらりと走らせるドライビングが求められる」とバンテージGT4の印象を語る。

 市販車寄りなのはドライビングだけではない。47号車 D’station Vantage GT4を担当する肩野裕エンジニアにセットアップについて話を聞いた。

「ちょっと試したいことがあって今回は車高を上げて持ち込みました。レーシングカーの概念からすれば、重心高を上げるとロールが増えるのでドライバーさんはどう感じるのだろうと思っていたのですが、逆にバランス良くなったとか、乗りやすくなったというコメントもありました。もちろん、ポジティブな部分もあれば、ネガティブな部分もありますが、ジェントルマンドライバーがちゃんと乗れるクルマという意味では決して悪い選択ではなかったと思います」

 タイムを出すことを第一に考えれば、車高を下げて少しでもダウンフォースを稼ぎたくなるところだが、ST-Zクラスのようにジェントルマンドライバーを起用しなければならないカテゴリーであれば、ジェントルマンドライバーが乗りやすいクルマにすることもレース時間の長い耐久レースを戦う上で忘れてはならないポイントだ。

ZF製8速オートマチックミッションを搭載し、2ペダルのコックピット。
AMG製4リッターV8ツインターボエンジン。市販車にはないAMGのロゴも確認できた。
フロントはモノブロック6ピストンフロントキャリパー。
モノブロック4ピストンリアキャリパー。
マフラーは左右1本出し。
フロントフェンダーの一部と一体化したボンネット。
GT3とGT4ではボンネットダクトの形状も異なることがわかる。

■市販車寄りだからこそ感じるメンテナンス面でのデメリット

 GT3マシンよりも市販車に近いポテンシャルを発揮するGT4マシンだが、どれほど市販車に近いのだろうか。

 肩野エンジニアは「最新のGT4マシンを担当するのは初めてになりますが、GT3と違って本当に市販車ベースという印象です。ランボルギーニ・スーパートロフェオなどのワンメイクレース車両よりも市販車に近いと思います。なので、安心できる部分も多いので、よく出来ているクルマだと思います。ただ、レーシングカーとしての対策が足りないのじゃないのかなという部分もあります。だから、僕らもやりながら色々勉強していってる感じです」とGT4マシンの第一印象を語る。

 これまでもGT3マシンやワンメイクレース車両のエンジニアリングを担当してきた肩野エンジニアだが、バンテージGT4の場合、ポテンシャルだけではなく、メンテナンス面でも市販車に近いと話す。

「フロントにチンスポイラーはついてますけどバンパーは市販車のまま、インナーフェンダーもそのままなので、とにかく部品の取り外しなどで手間がかかるクルマです。ラジエーターやフレームの一部は変わってますけど、配管のレイアウトはそのまま。エアコンもついてますので、市販車をいじっているイメージです。そのため、ラジエーターの脱着だけでも時間がかかってしまいます。レース中に接触やクラッシュなどのトラブルがあれば修復に時間がかかるのは間違いないですね」

 実はD’station Vantage GT4は第1戦『NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース』を前にしたテスト中、縁石でフロアにダメージを負ったため、エンジンを載せ替えて富士に持ち込まれている。肩野エンジニアは「市販車のエンジン載せ替えと変わらない作業なので、流石にこれが決勝レース中だと、作業時間を考えてもやってられないレベルです」と語る。

「ただ、バンテージGT4がクルマとして遅いとは思わないです。勝てるチャンスもあると思いますし、そのためにトラブル無く走ることが絶対条件になると思います。周りのクルマがどうというよりも、トラブル無くちゃんと走ることができれば結果はついてくるんじゃないかなと考えています」

 市販車に近いレーシングカー故に、耐久性に優れるGT4だが、レーシングカーとして考えればメンテナンス面で部品の脱着に時間がかかってしまう。だからこそ、トラブル無く走りきることがST-Zクラスで勝利を掴む絶対条件となるのだ。

 2020年シーズンの第1戦『NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース』では、Aドライバー予選で星野辰也が1分50秒164をマーク、Bドライバー予選では、織戸学が1分49秒487をマークしクラス3番手で終えると、翌日から行われた24時間の決勝レースでは、ドライバーにとっても、エンジニアにとっても初めてのGT4でのレースとなったなか、クラストップから4周遅れとなるクラス3位でチェッカーを受けた。

 10月10日〜11日に開催される第2戦『SUGOスーパー耐久3時間レース』はレース時間も短くなることから、スプリント寄りのレース展開が予想される。テクニカルコースのスポーツランドSUGOでバンテージGT4はどんな走りを見せてくれるだろうか。

47号車 D’station Vantage GT4(星野辰也/織戸学/篠原拓郎/銘苅翼/浜賢二)

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