ビジネス書に訊け! 第118回 新入社員にきつい言葉をかけてしまう人へ

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悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「新入社員にきつい言葉をかけてしまう」と悩む方へのビジネス書です。

__■今回のお悩み
「新入社員に対して、きつい言葉で言うことができない」(56歳男性/販売・サービス関連)__


今回のご相談を拝見したとき、最初に「なるほどなぁ、社会経験のない新入社員に伝えることは難しいからなぁ」と感じました。同じことで悩んでいる方は、決して少なくないでしょうしね。

でも、その直後、あることに気づいたのです。

「たしかに伝えることは大切だけど、別に“きついことば”を使う必要はないんじゃない?」と。

もちろん、きつく伝えなければならない場合もあるでしょう。とはいえ、"きついことば"を使うことを目的化するとなると、また話は違ってくるわけです。

わずか20数文字のお悩み文だけでは真意を判断しづらいのですが、もし仮に「きつく伝える」ことを重視されているのだとしたら、それはちょっと危険だと思います。

きつく言えば効果が出るというものではありませんし、むしろ逆効果である場合も少なくないからです。

そこで、まずはご自分の「目的」を再認識してみるべきではないでしょうか? その結果、「きつく伝える」ことを目指していると自覚できたなら、その考え方は破棄すべき。

そうではなく、手段はともかく「伝えたい」のであれば、“きついことば”を使わない、別の方法を考えてみればいいのです。

きついことばかどうかの問題ではなく、それが「伝わる」ことこそが重要なのですから。

そこで今回は「伝え方」というより、「伝わる」ためにはどうしたらいいかという角度から、この問題を考えてみたいと思います。

言いづらいことを伝えるポイント

最初は「伝え方」の王道からということで、『言いづらいことの伝え方』(本間正人 著、日経文庫)をご紹介。著者によれば、「ビジネスの現場で、お詫びしたり、なぐさめたり、励ましたり、注意したり、多くのビジネスパーソンが日々遭遇し、「さて、どうしたものか?」というようなシチュエーションを設定し、すぐに役立つフレーズを紹介」したものです。

具体的な事例を設定して「どうすべきか」を解説しているわけで、今回のご相談に関しては「部下の仕事ぶりの改善を促す」という項目が役立ちそうです。

Q: 仕事中、部下が頻繁にネットニュースを見ています。そのせいか残業が多く、残業代もけっこうな額になっています。折しも、会社の方針で残業時間を半分に減らすことになりました。部下にはどのように話せばよいでしょうか。
[考えるポイント]
・部下に遠慮した言い方をしないこと。
・行動を改めさせる本来の目的を考えてみましょう。
・より高次な目標に焦点を合わせましょう。
(69ページより)

まずは悪い回答例。

× ネットを見る時間を減らしてくれるとうれしいな(70ページより)

部下に嫌われまいとすると、こういう中途半端な状態になってしまうもの。部下にしてみれば、上司がうれしいかどうかなど関係ないわけです。

○ 残業時間を減らすために、君はどんなことができるかな(71ページより)

ネットニュースを見なくなったとしても、相変わらずだらだらと仕事をしていて、残業代が減らないのでは無意味。ネットニュースを見るか見ないかは、単なる手段・方法なので、残業代を減らすという、より高次のアプローチをするといいそうです。

「先月の君の残業は28時間だったね。会社の方針として残業時間を半分に減らすことになったんだ。そのために君はどんなことができるかな? 3つあげてくれる?」」(71ページより)

こうした具体的な言い方も、参考になるかもしれません。

もちろん他にも、さまざまなシチュエーションにおける対処法が紹介されています。そのため、なにかと手助けになってくれそうな一冊です。

自分が「本当に伝えたいこと」を知る

哲学博士である『人の心を動かす伝え方 〜響く言葉には魂がある〜』(出口 光 著、あさ出版)の著者は、人間を研究し、さまざまな職業や価値観を持った人たちと会い続けてきた結果、見えてきたことがあるのだそうです。

それは、実はほとんどの人が、話し上手ではないということです。
意外にも、話をしている本人が、本当に伝えたいことを自覚していないだけなのです。
だから、どんなに話し方に気を配っても、相手の心が動かず、伝わらないのです。(「はじめに どんなに努力しても話がうまくならないと感じているみなさんへ」より)

これは、"きついことば"を使うか否かということよりも、もっと重要な本質なのではないかと思えます。

だとすれば、どうすべきなのか? この問いに対し、著者は、まず自分が「本当に伝えたいこと」を知ることこそが大切だと主張しています。そして相手に響くように、ことばに「魂」を込める歩法を知り、実践することで、話を聞いてもらえるようになり、伝わるようになるのだとも。

意識すべきは、ことばの背景にある本質とは、自分の「感情・理性」を超えた、本当に伝えたい「想い」であるということ。それを知るだけで、ことばは自然と変わり、相手とのコミュニケーションが劇的に改善されるそうです。

言葉が伝わるときにいちばん大切で、重要な役割を果たしているのが、あなたの中にあるにもかかわらず、気がついていない、秘された「想い」です。
言葉を使って会話をするとき、その言葉の裏側には必ず本当の「想い」があります。
ところが、ほとんどの人は、自分の中にある本当の「想い」の存在に気がついていません。実際にあるのですが、自覚していないまま話している人が多いのです。(16ページより)

したがって、本当の「想い」を自覚できれば、他者とのコミュニケーションがいまよりうまくいくということ。なお「想い」とは、感情や理性とは違い、私たちの「本性」ともいえる部分から生まれるものだそう。

「想い」にこそ本質的なエネルギーの源泉があるのだといいます。そこで、本当の「想い」を自覚してことばにすることが重要になってくるわけです。

自分は何を伝えたいのか。
そこに、本当の「想い」はあるのか。
これは重要なポイントです。
どんなにノウハウや技術を身につけても、それだけでは相手に伝わらないのです。
自分の中で生まれた本当の「想い」がはっきりし、それを言葉にできると、自然に言葉にパワーが生まれます(32ページより)

つまり相手に伝えたい、考えてほしいと思うのなら、その伝えたい「想い」、わかってほしいことをしっかり自覚し、明確なことばにする必要があるということです。

心に響き、記憶にしっかり残る「ほめ方」

さて最後に、少し観点を変えてみましょう。「"きついことば"を使う」とか「叱る」ではなく、「ほめる」という手法を用いれば、より伝わりやすいのではないかという発想です。

参考にしたいのは、『100点のほめ方』(原 邦雄 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。著者は日本発の教育メソッドである「ほめ育」を開発し、世界17か国、のべ50万人に広めているという人物です。

原点にあるのは、「人は、10のアドバイスをされるよりも、たった1つの『ほめ言葉』をもらった方が変わる」という考え方。そこで本書では、うわべだけだったり相手をコントロールしたりするようなほめ方ではなく、心に響き、記憶にしっかり残る「ほめ方」を紹介しているのです。

「ほめる」ことは、「あなたのことを信頼している」「あなたの良いところをもっと知りたい、仲良くなりたい」と行為を示すことです。
単に「見た目」や「結果」をほめるだけではなく、「その人のあり方」や「頑張ったこと・過程」をほめることを意識してみてほしいのです。(3ページより)

なにより「ほめる」ことで、人の行動は劇的に変わるのだと著者は主張しています。たしかに、「どんなに注意してもダメなやつだ」というような思いがあると、ますます苦手意識が強くなったり、ネガティブな捉え方をしてしまうものです。

けれども「ほめるところ」を探そうとすると、相手のことをよく観察し、対話し、行動を理解しようという姿勢が生まれます。(57ページより)

その結果、相手には相手の考えがあって、どんな行動や言動にも、相手なりの背景があるということに気づくことができるわけです。

これは新入社員と接する際にも、とても大きな効果をもたらしてくれるのではないでしょうか? 少なくとも"きついことば"を使う以上のメリットがあるように思えます。

印南敦史