学生たちを借金から解放させた米実業家に賞賛の声

 大学の学費が高額なことで知られるアメリカ。親が裕福ではない限り、大抵の学生が卒業後に返済が始まる学生ローンを受けて進学するため、借金を抱えながら社会人になる。それでは若者たちが夢に向かいにくいと、ある実業家が大学を卒業する生徒、約400人分の学生ローン、総額約44億円を肩代わりすると発表。感動と賞賛の声がアメリカを駆け巡った。

全員がアメリカン・ドリームのチャンスを掴めるように

 米ジョージア州アトランタにあるモアハウス大学(Morehouse College)で、今月19日に卒業式が行われた。その式典のゲスト・スピーカーとして登壇したアメリカ人投資家で、億万長者のロバート・スミス氏(56歳)が、卒業生396人が抱える学生ローン総額約4,000万ドル(約44億円)を全額、自分が代わりに返済すると発言。それが全米に感動のニュースとして拡がった。

 スミス氏は、「この国で暮らしてきた私の家族8世代を代表して、あなた方が乗るバスに少しばかり燃料を注入しよう。ここにいる全員がアメリカン・ドリームのチャンスを掴むことができるように。そして、このプレゼントを受けた君たちは、次に別の人へ恩返しをするだろう(pay it forward)」と話し、それを聞いた学生たちは歓喜の声をあげ、なかには喜びで泣き出す学生たちもいた。そのスミス氏のスピーチ映像の短縮版はこちら。

スミス氏とは、一体どういう人物なのか?

 モアハウス大学はアフリカ系アメリカ人の男子のために設立された私立大学で、かのマーティン・ルーサー・キング牧師や、映画監督のスパイク・リー氏などを輩出している。

 スミス氏は投資会社ビスタ・エクイティ・パートナーズの創立者で、資産総額は約50億ドル(約5,500億円)。昨年の米フォーブス誌では2018年に最も裕福なアフリカ系アメリカ人として紹介されたが、スミス氏は富裕層出身ではない。キング牧師の演説を聴きに言ったことがあるという教師の両親の元で生まれ育ち、高校生でありながら大学生を対象とするインターンシップに応募するような努力家だったという。企業に勤めて、化学エンジニアとして2つの特許を獲得後に大学院へ進学。卒業後はファイナンス業界に転向し、証券会社を経て自らのファンドを設立し、大成功を収めたアメリカン・ドリームの見本のような実業家である。過去には母校である名門コーネル大学院にも今回よりもさらに高額な5,000万ドル(約54億6,600万円)を寄付している他、医学や美術館などの芸術分野にも多額の寄付を行っており、アメリカで名実ともに尊敬されている実業家のひとりだ。

 モアハウス大学のデイビッド・トーマス学長は、「借金を抱えていると世界の中で出来ることに選択肢は狭まる。(スミス氏の申し出は)夢や情熱を追求できる自由を学生たちに与えてくれる」と話しているが、学長やスミス氏が危惧するように、近年アメリカの学費の高騰に伴い、学生ローンの負債額も高騰。CNBCの調べによると約4,300万人が現在も学生ローンの借金、1人平均3万ドル(300万円強)を抱えており、2022年には学生ローン負債総額が2兆ドル(約200兆円)に達する見込みといわれている。

 スミス氏の卒業式のスピーチ映像は社会へ旅立つ若者たちをインスパイアーするスピーチとして拡散されたが、同時に現在のアメリカ社会が抱える学生ローンの問題に対して大きな注目が集まるものとなった。

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