被災時にペットをどう守る 備蓄や避難…、広がる啓発活動

ぬいぐるみを使って救急法を学ぶ受講者=横浜市西区

 飼い犬や猫を災害などから守る「ペット防災」の定着を図る取り組みが、神奈川県内などで広がっている。旗振り役の一つは、救急救命士らによる「ペット防災救急研究会」。飼い主の役割や避難する際の注意点などを指南する講習会を各地で開き、地震や風水害で大切なペットを失うことがないよう、日頃からの備えと心構えの大切さを説いている。

 「もし飼い猫が家具の下敷きになったら、そのまま避難できますか」。インストラクターで救急救命士の山本大樹さん(39)が約20人の受講者に問い掛けた。「きっと逃げられないでしょう。でも、その時に役立つ救助の方法を身に付けるより、ペットを危険な目に遭わせないよう、普段から備えておくことが肝心」

 9月半ば、研究会が横浜市内で初開催した講習会。消防の勤務経験もある山本さんは、室内の安全対策をペット防災のポイントに挙げた。家具を作り付けにしたり、一室を家具専用の部屋にしたりすることは、居住者はもちろん、ペットの被災リスク軽減につながるからだ。「家具を置く場合は寝室を避け、固定することが欠かせない」とも強調した。

 また、備蓄は自分の分だけでなく、1週間分のペットフードや予備の首輪、飼い主の名前などが分かるものも必要とし、「ガムテープは段ボールでペットの寝る場所を作る際などに使える」と助言。「被災時にペットが逃げ出す可能性を踏まえた対策も必要だが、余震などで被害が拡大する恐れがあるため、ペットを置いたまま家を離れてはいけない」と注意を促した。

 こうした啓発に研究会が力を入れるのは、家族のようにペットを大切にする人が多いにもかかわらず、その対策や制度上の理解が進んでいないからだ。

 風水害時などにペットと避難する機会は今後さらに増える可能性があるが、現状では一緒に連れていく「同行避難」が基本。避難所内で一緒に過ごす「同伴避難」は認められていないケースが多い。近年の豪雨災害でもペット同伴用のスペースを設けた地域は一部にとどまり、自治体によって対応が異なる現状がある。

 講習では、こうした実情や課題を伝えるとともに、事故などを想定した救急法も伝授。胸骨圧迫や人工呼吸、異物除去などの要点について、ぬいぐるみを使った体験を交え学べるようにしている。災害や事故の現場では、ペットの救助や処置が後回しにされる恐れもあるとして、飼い主が異変に気付くポイントや動物病院に連れていく際の対応要領なども伝える。

 受講した横浜市の男性会社員(50)は「最近は激しい雨で心配になることもあるので、飼い犬と一緒に避難所に向かうことも想定している。知らなかった内容が多く、とても参考になった」と、応急処置の実践に熱心に取り組んでいた。

 山本さんは「飼い主が安全でなければペットを守れない、ということを忘れないでほしい」と強調し、入念な準備や情報収集の大切さを訴える。

 ◇

 講習の受講者は、日本国際動物救命救急協会が発行する「ペットセーバー」の認定証がもらえる。救命と防災の2コースがあり、両コースを受講する場合は1万5千円(税別)。24日にも横浜市西区の八洲学園大で開催予定。その後も県内外で開いていくという。申し込みはペット防災救急研究会のウェブサイトで。問い合わせは、研究会事務局電話080(3327)9119。

© 株式会社神奈川新聞社