情報化社会を生き抜く21世紀型スキルとして必要な「STEMリテラシー」とは

プログラミング教育もはじまり、それに伴ってSTEM教育やSTEAM教育に注目が集まるようになりました。以前からあったこのSTEM教育が、なぜ今再び注目を集めているのでしょうか?以前からSTEM教育を実践してきたCANVASの理事長である石戸奈々子さんが、その重要性について説きました。

基礎教養としてのSTEMリテラシー

近年、STEM教育を推進する動きが世界中で加速しています。科学(Science)とは、自然現象の法則を見つける行為。数学(Mathematics)は、その法則を体系化し説明するために使う言語。工学(Engineering)は、数学や科学を基礎とし、有用なモノや環境などを設計すること。技術(Technology)は自然界にない有用なモノを作り出す営み。技術と工学が一緒に語られますが、工学はツールを設計すること、つまりプロセスを指し、技術は工学によってつくられた結果を意味します。

STEMという言葉は、アメリカ国立科学財団が用いたSMETが語源ですが、SMUT(「汚れ」を意味する言葉)を連想させるため後にSTEMとなりました。

STEM教育を理数系教育と捉えるならば、産業革命以降、労働人材確保とすべての国民の基礎リテラシーとして、常に重視されていた教育であり、今にはじまったことではありません。

1957年、ソビエト連邦による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功したことは、アメリカをはじめとする西側諸国に大きな衝撃を与えました。そのスプートニク・ショック以降、アメリカは科学技術教育に力を注ぐこととなります。日本もその影響を受け、1971年の学習指導要領改訂において、理数教育の充実が図られました。

世界のSTEM 教育を先導するアメリカでは、2007年に米国競争力法が制定され、STEM教育拡充が掲げられたことがきっかけとなり、推進されることとなります。それは、スプートニク・ショック後に展開された科学教育以上の大改革として、国家的な教育戦略としての展開であるとも言われています。

今なぜSTEM教育に大きな注目が集まっているか

今、改めてSTEM教育に大きな注目が集まっている理由は第3次産業革命による「情報化」が定着したことと、第4次産業革命による「AI・IoT化」がはじまったこと、その相乗であると考えます。情報化社会を生き抜く21世紀型スキルが強く求められることに加え、身の回りすべてがAIやIoTで運用・制御される世の中を展望して、誰もが基礎教養としてSTEMリテラシーを備えるべき必要性が格段に高まったのです。

アメリカが、2015年もSTEM教育法成立したことを受けて、STEM教育の定義を拡張するにあたり、コンピューターサイエンスを含めることを明示したことも、それを象徴していると言えます。世界中でプログラミング教育重視の運動が起きた時期と、STEM教育ムーブメントの時期も一致していると言えるでしょう。また、アメリカにおいて21世紀型スキルが広まった時期と、STEM教育ムーブメントの時期は一致しているという指摘もあります。

つまり、STEM教育とは、情報化社会・知識基盤社会を生き抜く21世紀型スキルを育む学びと言えるのです。そのため、イノベーションを創出するトップ人材、全産業のSTEM化に対応できるミドル人材、そして全国民のSTEMリテラシーの強化の総合的な施策が重要となります。

トップ層の対応としては、経済発展を支え国際競争力を発揮するための革新的なビジネスを創出するイノベーターが求められます。そのためには、経営者層のリテラシー強化、世界最先端の教育・研究機関整備、起業家創出などが必要とされます。

ミドル層の充実により全産業のSTEM化を強化するためには、リカレント教育、学びなおしとしてのリテラシー強化、先端的STEM教育学部の強化が必要とされます。

Society5.0時代を迎えるにあたり、すべての国民がSTEMの知識・スキルを身につけ、社会的課題に取り組む基礎教養としてのリテラシー強化としては、幼稚園小中高校段階からの教育強化や大学での全学的なSTEM分野における教育強化、またシニアなども含めた地域でのSTEM教育学習の場の強化が必要とされます。

すべての国民が「変化に対応する力」を得るためのSTEM教育なのです。

従来の理数教育との違い

さて、ではSTEM教育は従来の理数教育と何が違うのでしょうか? 世界中で議論が起こっているものの、STEM教育の定義も定まっていません。まず、言葉も複数あります。STEAM(STEMにArtを追加)、STREAM(STEAMにRobotを追加)、STEMC(STEMにComputer Science/Codingを追加)などさまざまなSTEMの派生語が生まれているのです。

それ以上に議論を呼ぶのが「STEM教育」の内容が、

  • STEMに関連する教科を教える・学ぶこと
  • STEMに関連する教科を横断的に、総合的に教える・学ぶこと
  • 論理的思考力、問題解決力、創造力など21世紀型スキルを育成すること

など捉え方が多様であることです。私はSociety5.0時代のSTEM教育はこの3つすべてを網羅する学びであると考えています。

STEMの各学問分野の理解を深め、それら知識・技能を統合し活用する力を育み、課題解決力・批判的思考力・創造力といった21世紀型スキルを育むのがSociety5.0時代のSTEM教育であると言えるでしょう。

それゆえに、現在世界で議論されているSTEM教育とは、単に知識を獲得するだけではなく、「教科横断的・統合的な学び」であり、「課題解決型・プロジェクト型の学び」であり、「社会・世界とつながった実践的な学び」という特徴が生まれています。

情報技術発展との密接な関係

しかし、この学び方の手法としての3つの特徴の意義は、すでにさまざまな教育学者、教育哲学者などによって語られており、決して新しい考え方ではありません。これまでも重視されてきたことです。

では、なぜ改めてこの教育・学習手法に注目が集まっているのでしょうか。それもまた情報技術の発展と密接に関係します。情報化社会を迎え、技術的な進展により理想として語られていたがコスト的に実現に困難があった学びが実現可能となったということです。

情報技術の革新により、大きく変容を遂げた社会が求める学びの変化が、これら学力観・学習観と一致し、そして情報技術の革新がその変化を可能とします。だからこそ、改めてその価値が見直されているのです。

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