二刀流に興味持ったスカウトも…ドラ1候補右腕・伊藤大海“大学5年間”の成長

苫小牧駒大・伊藤大海【写真:石川加奈子】

神宮大会は中止…12日の北海道地区王座決定戦が大学最後の舞台に

11月20日から神宮球場で開催予定だった第51回明治神宮野球大会の中止が決まった。今月26日のドラフト会議で1位候補に挙がる苫小牧駒大の伊藤大海投手(4年、駒大苫小牧)にとっては、12日に苫小牧とましんスタジアムで行われる北海道地区王座決定戦が大学最後の舞台になる。

本来なら、札幌六大学秋季リーグを制した星槎道都大と明治神宮野球大会の代表切符をかけて行われるはずだった。「決定戦で北海道六大学のレベルが高いことを証明したいです。そして全国でも」と意気込んでいたが、大学最後の年に神宮のマウンドに上がることは叶わなかった。

今秋の北海道六大学秋季リーグでは、最速156キロを誇る直球と精度の高い多彩な変化球を操り、チームを4季ぶり3度目のリーグ優勝に導いた。プレーオフを含め6試合に登板。38回1/3を投げて、許した安打は25本、奪った三振は53個、与えた四死球は9個、失点は3(自責点2)と文句ない成績でMVPに輝いた。元たくぎん監督で1998年から指揮を執る大滝敏之監督は「一つ一つのボールが良いし、制球力もある。体も強いし、気持ちも強い」と絶対的な信頼を口にする。

“5年間の集大成”を見せるはずだった。駒大苫小牧時代に甲子園を経験して駒大に進学したが、1年秋に退学した。「4年後にプロになりたいと思って入りましたが、その姿を描けませんでした。有名な高校から大学に進んで、このままでは殻を破れないと思ったんです。何もないところで自分で一からつくり上げていく方が、野球人として魅力があると思いました」。翌2017年春に苫小牧駒大に入学。規定により1年間リーグ戦に出場できない間に肉体を改造し、フォームを見直し、様々な変化球に取り組んだ。

今では10種類もの変化球を投げ分ける。「ナックル以外は何でも投げられます。主に使うのはスライダー、カットボール、カーブ、スプリットです」と伊藤は語る。スライダーとチェンジアップは2種類ずつあり、ナックルカーブ、ツーシーム、フォークも操る。その中からベストの球を選択して打者を牛耳っていく。「もちろん相手の資料に目を通すのは第一歩ですが、僕の感覚でしか投げられないカーブであり、スライダー。傾向を踏まえて決めるのは初球だけで、あとはバッターと対戦した時の感覚で決めます。そういった感じる力は自分の強みであるかもしれないですね」と笑う。

バットを持っても一級品「打撃練習を見せて欲しい」と言ったスカウトも

遠回りに見える1年間が、今の伊藤をつくりあげた。「原点」だと言う高校の施設で練習することも多かった。「高校で手伝ったり、教えたりすることは、自分のためにもなりました。高校生の時は自分が思っていることを言葉にする力がありませんでしたが、引き出しが増えました。力があっても、自分を説明できなければ意味がないと思うんです」と理論派としての基礎を養った。「あの1年がなければ、今どうなっていたか想像がつきません」と振り返る。

大学のリーグ戦では主に先発を担い、侍ジャパン大学代表ではクローザーを務めた。伊藤自身は「必要とされるところで頑張りたいです。何でもできるのが一番。自分にとっては、どちらも捨てがたい面白みがあります」と語る。大滝監督は「回転数が2300~2400あり、コントロールも良いから全日本では抑えになったと聞いています。先発することで力を抜くことも覚えましたし、使い勝手の良い即戦力投手になるでしょう」とプロでの活躍に太鼓判を押す。

投手ながら、中学、高校、大学でキャプテンを任される人間性も大きな魅力だ。「ピッチャーというのは、守っている時もみんなが見るポジション。僕は言葉よりも姿で引っ張るタイプで、私生活や姿勢の方が大事だと思っています」と話す。後輩にトレーニング方法や技術を惜しみなく伝え、後藤晟投手(2年、松本国際)は今秋のリーグ戦で4試合に先発して4勝を挙げ、防御率もリーグトップの0.30をマークするほどの成長を遂げた。

さらに伊藤は抜群の身体能力と野球センスの持ち主。「バッティングが大好き」という思いもあり、大学入学当初は二刀流プランもあった。2年秋のリーグ戦1週間前の練習試合にスライディングした際に左足首を骨折したこともあって実現しなかったが、左打席から鋭いスイングで柵越えを連発し、50メートル5秒8の俊足を誇る。「去年も最後の練習試合で5番DHで出たら、4打数4安打でした。今年の春先にも『打撃練習を見せてほしい』と言ってきたスカウトもいましたよ」と大滝監督は明かす。

26日のドラフト会議では、北海道の大学から初となる1位指名の期待がかかる。リーグ戦最終登板後に「北海道で生まれた人間として、北海道の地で頑張れたらなとは思っています」と地元の日本ハムへの思いも口にした伊藤。「縁があればというところですね」と運命の日を待つ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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