ママドクターが絵本に込めた思いとは?

コロナ禍を生きる子どもたちへのメッセージ

©株式会社全国新聞ネット

自作の絵本を手にする高橋しづこ医師

 4~9歳の子ども3人を育てる東京の産婦人科医、高橋しづこさん(48)が、新型コロナウイルス感染症と向き合う医療従事者の思いを、子ども向けに描いた絵本をこのほど出版した。主人公が語るメッセージには、コロナ禍を生きる子どもたちに向けた母親としての願いも重ね合わせた。高橋さんは「親子で読み、話し合うきっかけにしてもらえれば」と語る。(共同通信=岩切希)

 ▽現場の思い

 絵本の題は「せかいがかぜをひいたから 病院ではたらくなかまたちからのおねがい」。新型コロナの対応に当たる女性医師が主人公だ。高橋さんは新型コロナの患者の診察を直接担当していないが、現場で奮闘する医師や看護師らの使命感や不安、さらに自身の願いを主人公に語らせている。絵も自ら色鉛筆を用いて描いた。

絵本「せかいがかぜをひいたから」の表紙

 感染は怖いが、病気で困っている人を助け、命を守りたい。「だから、あなたに、たすけてほしい」。主人公は読者にお願いを二つ提示する。

 一つは自分を大事にすること。好き嫌いなく食べ、規則正しい生活をし、手洗いもしっかりすることで感染しにくく、病気に負けない体をつくる。

 もう一つは思いやりを忘れないこと。医療従事者や、新型コロナに感染した人を差別してほしくないとの願いも込めて「みんな同じなかまだよ。やさしいきもちをもってね」と呼び掛けている。

 ▽違和感

 高橋さんは、都内の病院で、出生前診断の受診を希望する夫婦に遺伝カウンセリングを行う「出生前相談外来」や、不妊治療クリニックで非常勤医師として働きながら、東大医療倫理学教室で非常勤講師を務める。

 絵本執筆のきっかけは、新型コロナの感染拡大を受けて3月に始まった臨時休校だった。子どもたちが、休校や外出自粛の理由について大人から十分に説明されないまま、我慢を強いられている状況に強い違和感を抱いた。

高橋しづこ医師

 学生時代には、米国の大学で分子生物学を修める傍ら、美術を学んだ経験もあり、絵心はあった。「子どもの自己肯定感を育てるためにも説明することは大事ではないのか」。そう考えて絵本の制作に着手したものの、当初は、休校中の子どもたちの対応や仕事をこなすことに精いっぱいで、作業は思うように進まずにいた。

 ▽母として

 緊急事態宣言下のある日、弁護士の夫から「仕事を辞めてほしい」と告げられた。感染防止のためのゴーグルやマスクが不足する職場で働き続ける高橋さんの身を、心配していた。対話を重ねた結果、帰宅後すぐにシャワーを浴びるなどの対応をとることで合意を得て、勤務を続けることができた。

 その一方で、感染に対する不安を抱きながらも、使命感を胸に新型コロナの医療現場に立ち続ける同僚らの姿に、心打たれた。旧知の医師が新型コロナに感染して命を落としたことも、背中を押された。「自分たちのことを子どもにも伝えて、少しでも温かい気持ちになれるような本を作りたい」。その一心で絵本を描き上げた。

「せかいがかぜをひいたから」より

 完成後、わが子に絵本を読み聞かせているうちに、わずかな変化が見られるようになったという。高橋さんは「子どもたちが、『だいすきだよ』『お疲れさま』『大丈夫?』といった優しい言葉を、周りに掛けられるようになった」とほほ笑む。「将来子どもたちが生きていく上で大切なことを、コロナ禍を機に学んでほしい」と願う。

 作品は絵本の通販サイト「YOMO(ヨモ)」で1540円で販売している。売り上げの一部は、日本赤十字社へ寄付される。